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相談

 カレルに依頼していたリバーシは、朝イチで引き取りに行ったら既に完成していた。リバーシを受け取り、すぐに店に帰ってきた。

 リバーシは、日本で一般的なリバーシを再現している。8✕8マスの、正方形の盤だ。駒は32個ずつを袋に小分けして準備した。



 ひとまずルーシアにルールを説明し、試しに一度やってみる。日本では誰でも知っているというほどに受け入れられたゲームだが、この国の反応が知りたい。

 文化が違えば受けるゲームも変わる。もし受け入れられないようなら、これ以上の生産はしないつもりだ。


 最初に4個を置いてゲームスタート。日本式に倣い、先攻が黒を使う。黒の裏側は未塗装なのだが、便宜上『白』と呼称する。


「挟んだらいいんですよね?」


「そうです。角を取ると有利になりますから、そのつもりで置いてくださいね。あ、そこに置くと拙いです」


 軽くレクチャーしながらゲームを進めるのだが、初めてということもあり、考える時間が長い。


「……意外と頭を使いますね」


「単純ですが、奥が深いんです。子どもでも楽しめるゲームなんですけどね」


 ルーシアは、一手ごとに「うーん」と唸って考え込む。何を考えているのか知らないが、間延びして退屈だ。


――もう少し慣れさせるべきかな。


 そう考えていると、店に客が来始めた。一旦中断か。


「あ……お客さんが……。すみません。続きは閉店後でもいいですか?」


「そうですね。お忙しいところ、すみませんでした。お仕事に戻ってください」


 ルーシアは、散らかった盤面を残したまま仕事に戻った。最後までやらないと、感想は聞けないよなあ……。



 店内のカフェスペースで一息ついていると、店内にギンが入ってきた。


「おはようございます!」


 いつものやかましい挨拶が響く。


「もう昼過ぎですよ」


「いや、オレは起きたばかりなんすよ。今日は兄さんに相談があるんすけど……」


 ギンは、頭をポリポリと掻きながら言う。こいつからの相談か……。正直、良い予感はしないぞ。

 でもまあ、ちょうど良かった。ルーシアは忙しいので、次はこいつに相手をしてもらおうかな。


「それはいいですけど、その前に僕が作ったゲームを試していただけませんか?」


「ゲーム? なんすか?」


「新しく売り出す予定のゲームなんですけど、皆さんの反応が知りたいんですよ」


 俺はそう言って、ギンにリバーシのルールを軽く説明した。


「なるほど……。単純なんすけど、考えられたゲームっすね」


「ははは。僕もそう思います」


 苦笑いで返す。リバーシを考えたのは俺じゃないから、ゲームを褒められると少し困る。



 ギンを向かいに座らせ、ゲームを進めた。ギンが先攻の黒で、俺は白を使う。しばらく応戦が続き、ゲームは中盤。盤面は8割以上が黒く染まった。

 その盤面を見たギンが、ニヤケ顔で煽ってくる。


「兄さん、弱いっすねぇ。真っ黒じゃないっすか。発案者がそんなに弱くて、どうするんすか?」


「ふふふ。そう思いますか?」


 馬鹿め。リバーシは、中盤で自分の色が多いほど、終盤で不利になるんだよ。


――そろそろ仕掛けるかな。


 角から二つ目のマスを白に変えた。これで勝負は決まりだ。黒く染まった盤面で、黒に残された選択肢は角の隣しか無い。そこに置いてしまえば、白番の俺は角を取る。


「げぇ……ここしか置けねえっす……」


「では、僕の番ですね」


 そう言って、容赦なく角を白くする。角から(ふち)に沿って、数個が白くなった。


「オレの置ける場所が()ぇんすけど……」


「そういう場合は、一回休みになります。また僕の番ですね」


 ギンのパスが数回続き、盤面は白一色になった。黒は1つも無い。


「黒が……。これ、どういうことっすか?」


「僕の勝ちです。最後まで置ききれませんでしたね」


「兄さん……手加減してくれてもいいじゃないっすか!」


 残念だったな。手加減なんていう言葉は、日本に置いてきたよ。まあ、途中で変な煽り方をしなければ、多少は手心を加えても良かったんだけどね。


「これも勝負です。相手をしていただき、ありがとうございました」


「いや、もう一回! もう一回勝負っす!」


「いいですけど……何か用があったんじゃないんですか?」


「あ……そうでした。もう一回勝負してくれたら、話すっす」


 それから勝負は5回続いた。先攻後攻を交互に繰り返しながら、全て俺の勝利で終わった。ギンは泣きそうになっていたが、男の勝負に手加減なんてあり得ない。


「満足しました?」


「……無理っすよ! 絶対勝てないっす!」


 ギンは涙目で訴えた。

 リバーシはガラケー時代の定番ゲームだったので、俺は初めてケータイを持ったときからずっとやっている。これでも10年以上のキャリアがあるんだ。今日初めてプレイするやつが、俺に勝とうなんて不可能なんだよ。


「練習あるのみですよ。僕とは経験が違いすぎますから」


 まあ、対人戦の経験は浅いんだけどな。AI戦とは若干違うらしいので、対人戦に慣れたやつには勝てないかもしれない。


「そうっすよね……。これ、買い取れないっすか?」


 お。さっそく1つお買い上げか? リバーシの反応は悪くないな。この国でも受け入れられそうだ。

 今はテーブルの数だけしか準備していないのだが、売ってしまおう。


「3600クランで販売しています。欲しいなら、後でお渡ししますよ。それより、用事は何です?」


「あ……すんません。そうでした。

 今、あちこちの商店が閉店準備をしているのは知っているっすか?」


「はい。聞いています。早ければ来月末だそうですね」


「それなんすけど……。例のコータロー商店が裏で何かやってんすよ」


 ん? それがリバーシの開発だと思っていたのだが、違うのか?


「その話は初耳ですね。どういうことでしょうか」


「潰れそうな店に、コータロー商店のやつが頻繁に出入りしているみたいなんすよね。もしかしたら、店舗を買い取る気かもしれないっす」


「買い取り……といいますと、地上げですかね」


「たぶんそうっす。一気に大商会になるつもりなんじゃないっすかね」


 これだから資金が潤沢な奴は厄介なんだよ。人が地道に頑張っている横を、猛スピードで駆け抜けていきやがる。

 しかも金の出どころは国だ。その資金力は止めることができない。


「困りましたね……。今でも十分厄介なのに、もっと厄介な存在になりますよ」


「やっぱり兄さんも、そう思うんすね……」


「『も』とはどういうことです?」


「俺たち金貸しも危機感を持っているんすよ。商店を相手にする金貸しは多いっすからね……」


 この国の銀行は、個人商店に金を貸さない。銀行が相手にしない人に金を貸すのが、ギンたち街金(まちきん)の仕事だ。おそらく、既に貸している金は回収不能になるだろうな。利息の回収も不可能だと思う。完全に貸し倒れだ。

 自己資金で運用しているなら、痛いことは間違いないにしても、ダメージは少ない。だが、多くの金貸しは金持ちから借りた金で運用している。時には危険な相手から借りることもあるはずだ。


 下手をしたら、何人かの金貸しが海に沈むぞ。


「それで、大丈夫なんですか?」


「今のところは、オレたちが金を出し合って被害を食い止めているんすけど……。このままでは、この街の金貸し全員が廃業っすね」


 金貸しにとって商店が潰れるということは、客が減るということだ。このまま倒産ラッシュが続けば、金貸しも廃業せざるを得ないだろう。


 俺は無借金経営に拘っているのだが、金貸しの重要性は理解している。設備投資や店舗改装など、売上を伸ばすためには、時には金貸しを頼る必要がある。金貸しが居なくなったら、商店の発展は難しくなるだろう。


 コータローはこの街を潰す気なのか? 多くの住民はコータロー商店を歓迎しているのだろうが、長い目で見たらウイルスみたいな奴だな……。


 しかし、ギンは何故こんなことを俺に話したんだろうか。俺は金貸しとは無関係だぞ。


「ギンは僕に何をしてほしいんですか? 僕にできることがあるとは思えませんが……」


「知恵を貸してほしいっす。兄さんはいろいろ思い付くじゃないっすか。コータロー商店を潰す方法とか、何か無いっすか?」


 そんな方法があるなら、俺が聞きたいよ。資金源を止める……不可能。客を奪う……逆に奪われっぱなし。物理的に潰す……捕まるっつーの。

 俺にできることは、せいぜい商品開発の妨害をする程度だ。


「それは難しい注文ですね。もっと他のことに目を向けた方がいいと思います。例えば、商店以外に金を貸すとか、潰れそうな商店を立て直すとか、ですかね」


「そんなことができるなら、兄さんを頼らないっす……」


 ギンは苦笑いを浮かべて言う。正攻法は既に考えているらしい。

 とは言え、コータロー商店を潰すのは俺も諦めている。自分が生き残るだけで手一杯だ。しかし、何もせず放置するのも拙い。


 潰れるなら勝手に潰れろと思っていたが、事は意外と深刻だった。このままの勢いで潰れていくと、この街の経済成長が止まる。俺にとっても良いことではない。


「分かりました。何か考えておきます。でも、期待しないでくださいね」


「了解っす。頼りになるのは兄さんだけなんすよ……。なんとかお願いするっす」


 ギンは、椅子に座ったまま深々と頭を下げた。


 考えると言っても、使える手札が少なすぎるんだよなあ。弱小商店の店主でしかない俺に、どうにかできるのかな……。

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