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同業者

 コータロー商店から店に帰ると、ルーシアはすぐに自分の仕事に戻った。俺はカフェスペースの隅に座って貰ってきた資料に目を通す。

 まず見るのは、加盟店募集について。詳しい料金は書かれていないが、普通のフランチャイズと同じ方式だ。加盟するメリット()()が事細かに羅列されている。

 曰く、コータロー商店と同じ商品を扱える、コータロー商店のアドバイスを受けられる、コータロー商店と同じだけの信用を得られる……だそうだ。嘘ではないよ。嘘ではないけどさ。どうも釈然としないな。


 次に経営相談。相談料は無料らしい。『タダより高いものは無い』なんて言われることがあるが、たぶんそれだ。経営相談に行ったら、フランチャイズを勧められるのだろう。もしくは自社の商品を無理やり買わせる。

 ブライアンを怒らせたのは、この相談が元だと思う。間近で見たかったな……。まあ、俺が経営相談に行くわけにもいかないから、見ることはできないだろう。


 資料を眺めていると、外出中だったウォルターが店に帰ってきた。脇目も振らず、俺のもとにやってくる。


「居たか。ちょうど良かった。今時間はあるか?」


「大丈夫ですけど、どうされました?」


「私の友人が店舗経営で困っている。アドバイスをすることはできるか?」


 え……面倒なんだけど……。ブライアンの店へのアドバイスは、うちの商品を売るためだ。ウォルターの友人ということは、飲食店ではなく小売店だと思う。それではうちの商品を売り込むことはできない。一応確認しておくか。


「どんな店ですか?」


「古くから雑貨店をやっている。近くにコータロー商店ができて困っているのだ。うちの店が上手く立ち回っていると知り、助言を求めてきた」


 なるほど……。小売店ではあるが、これは好都合だぞ。上手くアドバイスをすれば、コータロー商店の加盟店にダメージを与えることができるかもしれない。


 しかし、タダというわけにはいかない。こんな依頼を無料で引き受けていたら、俺の時間が無くなってしまう。


「有料でも良ければ引き受けますが……」


「金が掛かるのは仕方がないだろう。有料になるかもしれんことは伝えてある」


 ウォルターは胸を張って答えた。意外と仕事をするじゃないか。金を貰ってもいいのなら、手を出してみよう。


「分かりました。さっそく行ってみましょう」


 テーブルの上に並べた資料を鞄に仕舞い、すぐに出発する。

 ちなみに、話がややこしくなるかもしれないので、ウォルターは同行させない。住所だけを聞いて単独行動だ。



 到着した店は、商店街の中にある小綺麗な雑貨屋だった。この商店街は初めて来る。銀行の近くにある、ごく普通の商店街だ。比較的良い場所に店を構えている。広さはうちの店よりも広いくらい。木と土壁でできた、一般的な建物だ。

 問題のコータロー商店は、斜向かいに店を構えている。外装は改装済みで、新品同様だ。中の様子までは覗えないため、後で視察する必要があるな。


「こんにちは。ウォルターからの紹介で伺いました、ツカサと申します」


「やあ、もう来たのか。早かったね、さっそく中にはいってくれ」


 店主は笑顔で迎えてくれた。店主の名前はブルーノ。40代くらいの痩せ型の男性だ。少しだけ白髪が交じった長い髪を後ろで括っている。


「失礼します」


 軽く挨拶をして、店の中を歩く。店内はシンメトリーな配置になっていて、出入り口の正面奥にカウンター、その奥が事務所になっているらしい。この国の一般的な小売店だ。

 歩きながら商品を確認する。そこに並べられた商品は、高級感の漂う布類や革製品。うちと同じ生活雑貨ではあるが、うちの店とは違った品揃えだ。この店は商品ラインナップを絞りきっている。


「不思議なものでもあったかね?」


 ブルーノはニッコリと笑って俺を見た。


「いえ、布だけを扱っているのが珍しかったので。他の商品は扱わないんですね」


「私も以前はもっといろんな種類を扱っていたよ。コータロー商店に対抗するためにね、布以外の商品は全て切った」


 さすが、ここまで生き残っているだけある。自社の強みだけを残して、足を引っ張りそうな商品は潔く切り捨てたらしい。まあ、こういう判断ができない店は、潰れるかコータロー商店に吸収されたわけだけど。


「賢明な判断です」


「で、例の店なんだが。あんなところで安売りをされたら、うちの商売あがったりだ。何とかならないかね」


 事務所に入ると、ブルーノは椅子に座る前に本題を切り出してきた。「座りなさい」「分かりました」たったこれだけのやり取りをする時間すら惜しい様子だ。


「アドバイスは有料なんですけど、いいですか?」


 椅子に腰を掛けながら言う。


「うむ。それは構わんよ。いくらを請求する?」


 最低でも1万クランは欲しいが、できればもっと請求したい。時間は有限なんだ。安すぎる値段を提示して、時間を食いつぶされたくない。


「訪問1回につき1万クラン、あとは成功報酬でどうでしょう。現在の利益を基準として、増えた粗利益の50%をいただきます」


 これなら、たとえ毎日駆り出されたとしても最低月30万クランになる。ギリギリ許容できるレベルだ。まあ、全然足りていないんだけどな。


「む……それは高くないか?」


 この報酬は単発なので、高くしないと割に合わない。継続的な契約ならもっと安くできるのだが、コンサルタントは俺の本業じゃない。値下げは無理だ。交渉でどうにかしよう。


「そうですか……。残念ですが、これ以上は安くできません。では、完全成功報酬でいかがですか? 成果が出なければ訪問料もいただきません」


「……ふむ。それならいいだろう。売上が増えなかったら払わないからな?」


「売上ではなく、利益です。では、契約をしましょう」


 利益に拘るのは双方にとって重要なことだ。単純に売上だけを見ると、値引きして投げ売りするだけで達成してしまう。それはお互いにとって良いことではない。


 利益が増えなければタダ働き。厳しい条件のように見えるが、実はメリットが多い。

 もし成果が出なかったのに報酬が発生した場合、客は騙されたような気分になる。無報酬で失敗した場合と比べると、信用の落ち方が段違いだ。成功した時にもメリットがある。向こうは自分に有利な契約だと思っているので、それが負い目になって報酬を踏み倒しされるリスクも減る。


 当然デメリットもあるが、まあ大丈夫だ。利益を出せば文句は言われない。



 契約書を書き終えると、ブルーノは大きくため息をつきながら口を開いた。


「それでは、私は何から始めれば良いだろうか」


「普通にやっていれば勝てると思いますよ。特別なことは必要ありません」


「それは楽観視し過ぎではないのか?」


 ブルーノは怪訝な表情を浮かべる。

 だが、俺も根拠なく言っているわけではないんだ。何もしなくてもいいというのは言い過ぎだが、奇をてらったことをする必要は無い。


「それがですね……今コータロー商店の看板を掲げている店は、元は潰れかけの商店なんですよ。いくらコータロー商店が手を貸したところで、店主の経営技術が劣っていることには違いありません」


 いくらフランチャイズであっても、経営者の能力が問われないわけではない。『一から始めるよりは簡単』というだけだ。

 店主に再教育を施すというなら話は別だが、こんな短期間でマニュアルを作って再教育するなんて物理的に不可能。よって、店主の能力は据え置きのままと見ている。俺がそこまで危機感を抱いていないのには、こういった理由がある。


「ふむ……では、私は何も変える必要がないと?」


「いえ、改善の余地はあります。まずは売り場を作り直します。それから、照明の数も足りていませんし……やることは結構ありますね」


「ちょっと待ってくれ。メモを取る」


 この店の改善点を紙に書き出していく。店頭に並んでいる商品の品揃えには問題ないが、やはり過剰在庫だ。店に並べる気がない過去の商品も大量にある。これらは他店に売り飛ばすとして……。


「申し訳ありませんが、帳簿を見せてください」


「分かった。少し待ってくれ」


 ここでもあっさりと出てきた。何だよ、この国では重要な書類だという認識がないのか? 店にとっての最重要書類だと思うんだけどなあ。

 そしてやっぱりお小遣い帳形式だよ……。この国では「帳簿の書き方は店によって違う」と聞いている。たとえ複式簿記が発明されたとしても、それが広まることは無いんだろうな。


「帳簿の書き方は変えましょう。問題だらけです。僕の言うとおりに書き直してください」


 できればルーシアとサニアに丸投げしたい……。でもこれ以上仕事を振ったら倒れそうだからなあ。仕方がないので俺が教える。


「そんなに問題があるとは思えんが……何が違うのだ?」


「今の書き方だと、現金の流れしか分からないんですよ。毎月の経費がいくら掛かっているか、今資産がどれだけあるか、細かいことが何も分かりません。詳しくは後日ですね。今日は先にやっておきたいことがあります」


 話が長くなりそうなので、途中で打ち切った。今は店舗の改革の方が先だ。


「……それで、私はどうしたらいい?」


「ブルーノさんは先程の指示どおりに棚と商品を並べ直してください。僕は今のうちにコータロー商店を偵察してきます」


「むぅ……なかなか大変だな……」


 頑張れ。俺は手伝えない。今日は忙しいんだ。



 ブルーノと別れ、コータロー商店の加盟店に向かう。加盟店のことは正直舐めているのだが、万が一ということもある。確実に潰す方法を考えなければならない。

 ……あれ? 加盟店って、潰してもいいんだっけ? 街の金貸しが金を貸していると聞いたんだけど……。まあいいか。いざとなったらコータロー商店が尻拭いをするだろう。

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