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鬼ですか?

放心状態で見上げている先には丸太小屋の様な太い梁と板張りの天井が見える。

ここが何処かと言えば丸太小屋のような簡素なものではなく2階建ての立派な宿屋の一室だが。

日本国内ではなく海外かと言えば海外の方が近いのかもしれないが異国と言ったほうが良いのかもしれない。



自分の時間の中では数日前まで都内勤務のしがないサラリーマンだったはずだ。

中堅アパレルメーカーの営業兼デザイナーが肩書で。

主な仕事は営業がメインだが企画会議では最低でも一件はデザインを提出しなければ査定に関わる為に肩書にデザイナーの文字が入れられている。

デザイナーと言われても服飾系の専門学校で学んだ経験もない身としては社内では異色と言えるだろう。

進路を決められずに色々な仕事を転々としていた時に友人その一からドールの衣装を作ってみないかと誘われ片手間で作っていた事がある。

ドールの衣装と言っても様々な大きさのドールが有り60センチの物が友人の所はメインで市販の人用の型紙を縮小して使っていた。

その時に少しだけ型紙の作り方などを覚えた程度だったが中々好評だったらしく。

そんな衣装が今のチーフの目に止まったらしく声を掛けられたと言うのが入社の経緯だ。

静かな茶店で初めて会った時にはあまりにも容姿端麗で緊張したのを覚えている。


アパレルメーカーは一般企業に比べて女性の比率が高く社長も女性で面倒見がよく飲みに連れて行ってもらうことも多らしい。

憧れてこの業界に入った訳でもなく、元々上昇志向がないので企画会議に出すデザインにも力が入らないが。

拾い上げてくれたチーフのメンツを潰すわけには行かないのでいつも数点のデザインを用意し時間がないと嘆く同僚に回すことが多く。

自分のデザインは採用されないが同僚に回したデザインが採用されることが多々ある。


どちらもデザインしたのは自分だが。

今回の企画会議でも営業部のデザインが数点採用されチーフが飲みに誘ってくれほろ酔いで駅に向かっている。


「今回の企画会議も緒方のお陰だよ」


「みんなの情報収集とプレゼンが上手いからだろ」


「緒方様様だよな。営業部は」


照れながら同僚とハイタッチを交わした時に衝撃音が聞こえ。

「緒方! チーフ!」と同僚の声がした時には目前に暴走した白い車が目の前にあり。

視界に入ったチーフを突き飛ばした瞬間に全身に激しい衝撃を受け。

何が起きたのか分からずに目を開けると夜の街の向こうに真っ暗な空が遠くに見えた。


「緒方君! 緒方くん! 緒方 陸しっかりしなさい」


「チーフ?」


強張った顔ではなくまるで恋人を失ったように涙を流すチーフの顔がぼんやりと見え。

温かいものが頬に落ちてくるがやがてそんな感覚さえも無くなり全身から全てが抜け落ち真っ暗になり。

いとも簡単に人生って終わるんだななんて……



『どんなスキルや力が欲しいのか?』


朦朧とした意識に機械的な言葉が響く。

暴走した車に撥ねられて死んだんじゃないのか?

ここはどこなんだ?

再び機械的な言葉が届き思わず呟いた。


「もしあなたが神ならその力の1%でも」


『中々の強者じゃが、良かろう』


そんな言葉が聞こえると泣いているあの人の顔が浮かび消えていった。



どのくらいの時間が過ぎたのだろう。

呆気なく23年の人生が幕を閉じたと思っていたのに。

小鳥のさえずりが聞こえ目を開けると光が飛び込んできて目を細め。

ゆっくり目を開けるとそこは異質な世界だった。


見たこともないような木々が立ち並び花々が風に揺れている。

ゆっくりと立ち上がり怪我は無いか確かめるが痛みは一切なくいつものスーツ姿のままで。

気配を感じて視線を上げると見たこともない格好の3人組が聞いたことのない言葉を口にしていきなり襲い掛かってきた。

殴り合いの喧嘩なんてしたこともなくトラブルを避けて生きてきたのにあり得ない。

喝上げか親父狩りなのかボコられて、これだけの痛みを感じるということは生きている証なのだろう。



しばらく放心状態で大の字になり空を眺めていたら今度はネクタイを持ち上げられ目の前には2つの膨らみが。

更に視線を上げると全身から力が抜けた。

端正な顔立ちと言えば良いのか藤色の様な長い髪をして口を真一文字にしている。

鼻筋はスッと通っていて吸い込まれそうな濃いアメジストの様な瞳には俺の顔が写り込んでいて殺気は感じないが蛇に睨まれた蛙の気分だ。

彼女の右の額には鋭利な角の様な物が有り人では無いのが分かるし、あの3人組の言葉ですら理解できないのだから。

仕方なく視線を外さないまま両手を開いて抵抗しないと言う仕草をしてみた。

すると彼女がネクタイから手を離し俺から離れて立てと合図している。


促されるまま立ち上がり改めて彼女の姿を見ると黒ずくめの狩人の様な格好をしていた。

右も左もましてやここが何処かも分からない状況では覚悟を決めて彼女に従うしかなさそうだ。

彼女の腰にある日本刀の様な太刀で一刀両断なんてまっぴら御免だから。


それに怖さと違う何かを感じる。予感の様な物だろうか人生で初めての感覚だ。


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