前夜祭の子供8聯
前夜祭の子供
友の首を
転がして遊ぶ子供
前夜祭だから許される
哲学者を気取っているのか
それとも純粋に狂っているのか
まだ温かいうちに
遊んでみたかったの
そう答える横顔は
死を恐れぬ死刑囚のように
手加減を知らない処刑吏のように
けれどね ああ 本番はまた今度
だってまだ前夜祭だから
どんな失敗も許される
どんな犯罪も許される
だってまだ前夜祭だから
指以外のところ
指を切り落とすより容易くて
指を舐めるより困難で
「あなたの指は 指以外のところにある」
卑しい子供の出産 それは まるで
まるで おのれの 喪の作業
それはまるで 錆びた針の融けた指のよう
汚れたあなたの指なんて いらないの
「あなたの指は 指以外のところにある」
その言葉だけが反復されて
ねえ あなた
百万本の指の束より
もっと価値のあるものをください
嘔吐
ロカンタンよ
醜悪な貌をもっと歪めて
お前の胃液で
お前自身を溶かすほど
お前の嘔吐物を
その醜い世界に吐き続けろ
祝福されうる幼子の産声を殺すほど
呪われし老人の静かな絶叫を打ち消すほど
お前の胃袋のどん底から
何億ものの彷徨う亡霊を吐き続けろ
ロカンタンよ
お前自身はその吐き続ける行為で
もはや神に乞い願うこともできない
他人の吐いた酸素を吸うこともできない
だからこそ
お前の時間が止まるまで
その汚らわしき異形の行為を
その永遠の時間を
嘔吐そのものが失われるまで
お前の存在が消えるまで
お前は吐き続けるのだ!
それがお前に与えられた役割
すべてが終わったあと
最後に
お前の嘔吐物に沈む世界を
笑えばいい
笑えばいいのだ!
静止、少女、不安
少女 虚世を開ける鍵とは 全きことの異常妊娠
我が子を喰らう暴力恐怖症 その果ての無理解
残像発作 偽態の動物 隔てをおいた人の群れ
押しよせ あらわれる 鉄塔放送・ラジオ電波
たれ幕の向う側にある悲哀・悲瞳 爪の痕
無性に欲しがる 糖の家 崩れ落ちたブリキの楔
紺碧の穹空からは 見えない平べったい自己
前衛的な身体病 蝕まれるのは肉体ではなく
人工甘味の精神なのか それとも強固な国旗掲揚台?
電気装置の動くうちは まだ誰もが視野狭窄
屋根裏部屋にて 和綴じの本 口に出して読んでみようか
大災害の投獄 現実への夢の流出 神の排泄物
沙漠の裡の 遣い物にならない錆びた金属
誰もが知らぬ 孤独の存在王 この夢兆の意味は?
少女よ わけのわからぬものが多すぎる
お前を傷つけるものを ただ無常に叩きつけろ
ただすべてを食らい尽くせ 不安を静かに殺すのだ!
わたしは神という名の言葉のあなた
01.闇を壊して戦えよ。
02.扉を破って綻べよ。首を刈って歪めよ。
03.嘘を売って告げよ。光を潰して泣けよ。影を収めて進めよ。
04.音を拾って乱せよ。種を廃して爆ぜよ。
05.耳を削って殺せよ。
06.数を犯して飾れよ。魂を殴って払えよ。
07.蛹を避けて罹れよ。罪を認めて消せよ。血を溢して限れよ。
08.水を慮って宿せよ。魚を植えて吐けよ。
09.罰を与えて狂えよ。
10.犬を歪めて残せよ。心を剥いて除けよ。
11.夜を始めて彩れよ。死を示して抉れよ。脳を洗って溺れよ。
12.命を拵えて埋めよ。氷を食して敬えよ。
13.神を許して眠れよ。
世界は01から13で成り立っている。あなたたちはどれか?
神隠しの少年
毒を飲ませて 野暮な人さらい
蟻粒を踏みつぶして 嬉しがっている
これも神隠し あれも神隠し
あー 忙しいなァ
あー 忙しいなァ
神に隠された子供は
同時に神を隠した
ならば少年はどこへ行ったのか?
神から見放されて 彼はただ
存在の祭り 祭りの存在
帰還した少年のことを
知るものはもう誰もいない
ならば不幸ではなかった
しかし幸せでもなかった
その命を 呪われしその命を
何のために 燃やし続けるのか
ならば誰にも祝福されない
少年はのちに
敬虔な神の申し子となった
されど誰にも祝福されない
神隠しとは自らの裡に
神を見つけ出すこと
ほかならない
夢幻一夜
こんな夢幻があった。
荘厳なる音楽が奏でられる白堊の屋敷には壮麗な双子の姉妹が住んでいた。気品漂う姿は西洋人形のようで美しいものだった。番いの鳥のようにひっついては「ネェ アソビマショ」と声をかけては伽藍と広すぎる屋敷の中でいつまでも遊んでいた。たまには互いの髪を琥珀色の櫛で梳きあったり、異国の楽器で音楽を奏でたりした。
二人は外の世界を知らなかった。だから彼女らは闇を凝視することが嫌いだった。
ある日の朝、突然、草を薙いだような音がして、いつのまにか姉がいなくなっていた。妹は姉がすぐ帰ってくることを直観的に知っていた。次の瞬間には姉がいた。容貌は違えど、妹はすぐに姉だと察して「ネエ アソビマショ」と声をかけた。妹は知っているのか。もうすぐ自分の番がやってくることを。
この先、姉と妹たちは幸せに過ごし続けるだろう。荘厳な音楽は終ることはないのだ。
何も残らぬ台地