六話 町と彼女たちの装備
「では、しっかり掴まって下さい魔王様!」
「なぁ、こいつ俺食おうとしてね? 真ん中の頭の奴絶対、俺を食べようとしてるよね?」
俺たちはとにかく森を出る為に、ケルベロスに跨った。
いや跨ったというか、掴まったというか。
ケルベロスは先ほどの怒りがまだ落ち着かないようで、隙あれば齧り付こうと首を振るう。
いや、その本気の瞳が怖い。
「気のせいです、世界様」
「そーよ、見てこの左の子! 超可愛い!」
左の頭にレイカ。
右の頭にエクシス。
そして真ん中に俺とリザと乗っている。
言っておくが、断じて可愛くはない。
あの後、俺たちの目的地をリザに話し、改めて一番近い町に向かう事を決めたのだが、ケルベロスはどうするべきか。
流石に身体も含めて、大きい。
良い案は無いか、リザに尋ねてみた。
「リザ、そういえばケルベロスは町でどうする? 三頭の犬なんて多分いないだろうし」
「スキルの変化を使うので問題ありません。馬にでもなってもらいます」
驚く、真ん中の犬。
馬に化けろと言われているのだ、俺がケルベロスならきっと不服に思うだろう。
というか、何でそんな凄いスキル持ってるのだろうか。
お願いだから、今すぐに俺にもそのスキルを教えて欲しい。
適正はないだろうけど。
「もう抜けたのか! こりゃ、凄い!」
あっという間に森を出た。
木々を華麗に避ける様は、本当に凄かった。
本当に、俺たちは迷っていたんだと実感させられる。
いや、あのままなら多分白骨化してただろう。
決して抜けられず、決して帰られずに。
「ここをしばらく歩けば町のはずです」
「ええ、ヘルメイヤの町になるわ」
ヘルメイヤの町、か。
俺は本や漫画で見た事のある町を想像する。
まずは皆の服や装備を買おう。
カレンはまだしも、エクシスはずっと黒いマント羽織ってるし、リザはボロボロのローブ。
俺に至ってはジャージだった。
歩く事約一時間。
ケルベロスは馬に変えられて、その口につけた紐をリザに引かれていた。
ようやく、町らしきものが見え始め、俺も気持ちが高揚する。
「あれか? なぁ、あれなのか?」
「落ち着きなさいよ魔王! まぁ、町についてなら私に任せておきなさい」
ドンと胸をはるレイカ。
……どこか見た事のある光景だった。
そうして俺たちは揃って、町に入る。
そこでは検査もなければ、荷物を漁られる事もなかった。
案外平和なのか。
俺はまじまじと町を見渡した。
「ヘルメイヤは栄えてるなぁ。俺の町(笑)とは違うぞ」
「私もここまで来たのは初めてです」
リザや俺は町に来るのは初めてだった。
良くも悪くも、見た事のあるファンタジーチックよろしく。
馬車小屋に、宿。
謎の薬屋、武具の店に占いの館まで。
ありとあらゆる物が、俺をそしてリザを夢中にさせる。
「世界様、本当に宜しいのですか?」
「金ならまだある、遠慮するな。エクシスなんて一番の功労者なんだから」
俺たちは服を買いに、町の装備屋へ行った。
どこかで見た事のありそうな甲冑やマント、兜などが売っている。
エクシスは買ってもらう事に抵抗があるのか、薄いマントを手に取り、俺に聞く。
それよりまた、マントなのか……。
「魔王! 私はこの剣が欲しい!」
「ば、ここでそれはやめろ!! それに、剣ならお前持ってるじゃないか!」
魔王と呼ばれるのは宜しくない。
紛いなりにも悪とされる者なので、バレれば何が起こるか分からない。
後、ここぞとばかりに高い剣をねだってくるのはやめなさい。
「世界、なら私は自分で防具を新調するわ」
「ああ、防具なら多分二階だ。エクシスとちゃんと見てこい」
広い店内でよかったと、今の話を聞かれてなかった事に安心する。
実は、俺たちを除いて客は一人もいなかった。
……経営は大丈夫なのだろうか。
「おお、えれえ似合うじゃねーの」
ふと、野太い声が聞こえる。
このワイルドさ溢れる声、これはきっと店主だ。
俺はムキムキの男を想像しながら、声をかけられているリザの所へ向かう。
「……まじかよ」
俺の想像は儚く消える。
そこにはムキムキでも、黒光りでもない。
何だか風に吹かれれば吹き飛びそうな、やせ細った老人が立っていた。
いや、想像に反しすぎて何も言えない。
「あんたがパーティマスターか? なに、ボリはしねぇよ。力抜きな」
俺を見るなり、老人はニカッと笑う。
白い歯が美しく輝いていた。
声だけ聞くと、本当に兄貴感に溢れていて。
俺はますます何とも言えない気持ちになる。
「おお、リザ。その胸当て凄く良いな」
「兄ちゃんよく分かってんじゃねーの! ほら嬢ちゃん、あんたのリーダーにちゃんと見せてみな」
「まお、じゃなかった。世界さん、どうですか?」
リザはよほど気に入ったのか、胸当てを見せてくるりと一回転する。
うんうん、一回転する必要はないけれど本当に可愛い。
「可愛いな。リザには銀が髪と合わさって、よく映える」
「ッ……! ありがとうございます」
ニヤニヤしながら、老人は俺を肘で突く。
その中学生みたいなからかい方は、何なのだろう。
何だか無性に恥ずかしくなる。
「世界様、決めました! 私はこのマントと短剣を!」
「世界! 私はこの甲冑にするわ、似合ってるでしょ!」
二階からか、エクシスとレイカもこちらに見せに来た。
ああ、これが勇者なら。
俺が勇者なら、きっとハーレム感マックスだっただろう。
これから、勇者や魔王共々ぶちのめそうとしているなんて誰が考えようか。
ワイルドすぎるな、俺たち。
「おじさん。じゃあ、まとめてこれ下さい」
「おじさん、じゃねえ。アルファード、だ」
……カッコ良い。
声だけじゃなくて、名前までかっこ良かった。
もう見た目に騙されない。
俺は、改めて心の中でおじさんを兄貴と呼ぶ事に決めた。
兄貴に提示された金額を、俺はしっかり払い店を後にする。
後にその兄貴からボラれていたのは、別の話であった。