十三話 次向かって
会場全てが味方だった。
魔物だけじゃない。
きっと普通の人だって今は俺を応援してくれてる。
まだ少し呪いの麻痺が残るが仕方ない。
本気の勇者との対決において、俺は自信があった。
ここまで繋いでくれたアナシスの為にも、そしてリザの為にも。
決して退くことは出来ない。
「俺が第七位の魔王! 闇野世界だああああ!」
自分に喝を入れる。
湧き上がる観客に、鳥肌が立つ。
初めて自分から身分を名乗った気がする。
会場が揺れ、花が風で散るように応援が飛んできた。
「来いよ勇者。お前の魔王が負けるっていうその理不尽。俺がぶち壊してやる」
高らかに、宣戦布告。
「もう油断はしないよ。魔槍の勇者ハイシュバル参る!」
一つは必ず守らないといけない。
ダメージを受けること。
かつて己を刺したこともある槍を同じく手に持ち、今度は躊躇いなく己の腹に突き刺した。
熱く、涙が溢れるくらいには痛いが、あの呪いに比べれば屁でもない。
槍を腹から引き抜き、地に落とす。
「自決だと?」
さぁ不気味に思え、躊躇しろ。
狂ってるように見えるのは間違いなく正しいのだから。
「クハ、クハヒハッ! あいつ自殺したぞ! 怯えたか、勝った。私は勝ったんだ!」
もっとどよめけ国民、大きく勝利の声を上げろ王女。
一回限りのこの不意打ち、受けれるものなら受けてみやがれ。
そうして後ろへ退く勇者との間を詰めていく俺を見て、再びどよめきが起きた。
「まだこんなに速く動けるのか!」
驚くのはまだ早い。
さぁ投げてみろ。
そのご自慢の槍を俺に向かって。
人は怯えれば距離をとる。
槍で距離を取りながら止めを刺すには、もちろん投擲。
「くッ! ガイボルグ!!」
放たれる青の槍は、僅かに軌道が逸れ俺の肩に突き刺さる。
遂に俺は動きを止めた。
「こんな、あっさりと」
気張っていたのか、俺がうつ伏せに倒れると悠々と槍を引き抜きにくる。
スキルや能力を使う暇すら与えない。
俺が致命傷を避けて、高速でこの戦いを終わらせるなら。
この一回は最大のアドバンテージになる。
勇者は肩に刺さる槍を掴んだ。
俺はまだ動かない。
勇者はその美しい槍をゆっくりと回しながら抜いていく。
ーー爆風が起きる。
ダメージの合計で俺の変換能力を支えるのは恐らく一分から一分弱。
「な、ふぐうッ」
こんな騙すような卑怯な戦い方があるかって?
俺は勇者でも誠実な魔王でも何でもない。
卑怯なことは俺のお得意なんだよ!
鎧をも砕くような痛烈な一撃が、勇者の腹に炸裂する。
「オラァ!」
緩めない。
過去最大の高速のラッシュで勇者の身体を削りに行く。
スキルを発動させればそれだけで俺の不利。
どんな能力が待っているのか分からないのだから、リスクは避ける必要がある。
俺はこの一回で勇者をへし折るくらいにしなければ、先は望めない。
「(頼むから回復の能力とかやめてくれよ)」
何度拳や蹴りを勇者に打ち付けただろうか。
「野郎ッ!」
残り発動時間は恐らく三十秒もない。
槍の勇者は腫らした顔を背けることなく、槍を手に呼び戻した。
貫通直前。
何とかそれを避けれたのは良いが、時間がない。
最後の一撃をーー。
「ほう。鼠が戯れておるわい」
と、唐突に魔弾の散弾が天空から降り注ぐ。
空にもある防御壁で何とか守れたが、そのほとんどに穴が開いていた。
「何だ⁉︎」
「遊びは終いじゃ。勝者は言わずとも分かろうな。アビー? この儂をここまで煩わせたのだ。そちの負けだ。この国は無かったことにする」
天空からの攻撃的な来客に、周囲は逃げ出し始める。
第一王女は愕然と肩を落として、その老人を見た。
「闇野世界。良くぞやってくれたな。これがお前の会いたかった魔物組合の頂点。儂が魔神だ」
「テメェ……! お前の所の色のせいでうちの仲間が死にかけただろうが!」
倒すべき勇者に視線はいかない。
ここまで全てをかき回してきたのが、こいつらだ。
「良き良き。貴様の脆弱な仲間と我ら世の魔物を束ねる組織と価値を一緒にするな」
大人しく従えば良いものを、そんな目で俺を見る。
「絶対に、ぶっ倒してやる」
「えらく大きく吠えるな」
再び天空からの闇の散弾。
天空からのそれはもう防御壁がない今防ぎようがない。
悔しいがダメージ変換もダメージ移動も使える距離じゃない。
「らぁッ!」
だが、その魔弾全てを一振りで弾きかえす者がいた。
四位の魔王レイオンだった。
いつも使わないガルティンと呼ばれる剣を天へと振るう。
「ほう、四位か。対の剣を持ち出すとは余程余裕がないと見た。ここの外は儂の管轄の魔物を召喚しておいた。残念だが、そろそろ頃合いのようでな。儂はこれにて……!」
ニヤリと笑うと男は姿を消そうとする。
ここで奴を逃せばチャンスは二度と無いかもしれない。
逃すわけねぇだろ!
「な、に?」
槍を拾って、思いっきり投擲してやった。
こう見えて始めはずっと槍を使っていたんだ。
しかも、幸いな事にこの槍は俺のじゃない。
勇者の槍は魔神にも効果はあるらしく動きが止まる。
「見逃してやろうと思ったが。そう死に急ぐなよ若人!」
魔神は怒りからか雷を天から降らせた。
五本の雷の槍はとてつもない威力と速度で俺たちに襲いかかる。
「はッ!」
そこへ赤き衝撃が雷を消し飛ばす。
「不屈王のヴァンか。……王風情が邪魔じゃ、貴様あああ!」
雷を集中的に不屈王へ向ける。
「私とカレンがやりましたよ、世界様! カレンはアナシスさんを守りながら運んでいます!」
なるほど、エクシスの治癒とカレンの気配遮断。
これによって不屈王も出てこれたという訳か。
正直一人でも多いくらいが良いので助かる。
「世界様、あの勇者のダメージをとって下さい。このままここを破壊されるよりマシです」
俺はそれに頷いて吹き飛んでいた勇者に近付き、ダメージ移動を行う。
すぐにそれをダメージ変換する。
時間は先ほどと同じく一分くらいだろう、十分だ。
「今は何も言わず協力しろ!」
「魔王に殴られ助けられるとは不覚だが、ここが消し飛ばされるよりずっとマシだ!」
あいつが地に落ちれば、このダメージを変換して戦いに持ち込めるのに。
それに隙を見せれば逃げられるかもしれない。
どうすれば……!
「闇野君、良くやった。時空間はこの眼で固定しているから向こうも逃げられないよ。王女たちも僕の仲間が保護している。ごめん鞭打つような感じだけど、アナシス君の治療は終わったからこちらへ戻ってもらう。空間固定は必要なんだ」
姿を不意に現したのは、アル・グレイだった。
本物のチート勇者は笑いながら、そう俺にウィンクする。
悔しいけど、超カッコ良いな。
「さて、ハイシュバル君はコロシアムの外で控えている雑魚でも蹴散らそうか。僕もすぐに外へ向かうよ。後は頼めるね、闇野君」
「アル・グレイまで! どうなっているんじゃ! ……ぬグッ、これは対魔の矢か!」
リザはエクシスに補助してもらいながらも矢を放つ。
魔神の実体のないマントを煙のような身体を確かに貫く。
「緋王秘宝! 時止」
その声に振り返ると、アナシスが笑いながら後ろで術を放っていた。
火の星が、動きを止めた魔神に飛んでいく。
炸裂し魔神は燃えながら怒りをぶつける。
「ハエごときが、集まって調子に乗りやがってええええ!」
「ごめんね世界君。心配かけたわ」
カレンに肩を抱かれ、支えられるアナシスの顔を見ると笑顔で安心する。
涙が流れそうになるけど、まだ抑えなければ。
「馬鹿野郎、さっさと手伝え!」
こんなことしか言えないけど、ここでようやく全員が揃った。
「仲良しこよしはもう終わりじゃ!」
「ッ! あんたは動きが遅いのよ!」
カレンが不屈王にぶんと投げ出され、ピタリと魔神の背に乗る。
双剣は容赦なく魔神の背に刺され、二人は重力に従って落ちていく。
「落ちろおおおおお!」
なら、最後は俺の番だ。
持てる全ての力を使ってこのノコノコと出てきた黒幕をここで倒す。
「魔法は使わせません!」
リザとエクシスは爆裂する弓を連射し魔神のスペルを妨げていく。
「クソ、だがまだ抗魔力がある。儂に魔法は効かん!」
……ああ、闇に飲まれてもいい。
この一瞬だけ、こいつをボコボコにする力を。
「闇の魔力! それはまさか、転生者の!」
黒い魔力が身体を覆う。
「うるせえ! クソ魔神は! うだうだ言わねーで! くたばりやがれえええ!」
思いを乗せた渾身の拳は光と共に魔神の全身を粉々に砕いた。
ふとその瞬間、いつか見た夢を思い出した。
ーー戻りたいか?
それは勇者転生の面接の人の声だった。
「いえ、俺はここにここに居る仲間とずっと一緒に。許される限りここで生きてやります」
砂に変わっていく魔神を見ながら、俺はポソリと呟いた。
「ありがとうございます。俺面接落ちて良かったです」
ここに、闇野世界という魔王は魔物組合、魔神という理不尽をぶち壊した。
「行ってしまうのですね」
悲しげにナイラ様は俺たちを見る。
町は以前と変わらずに、来た時のまま。
「まだ、仲間たちとすることがあるんで」
遂に俺たちは世界的に有名なった。
意外にも支持者もいるから不思議なもんだ。
魔物組合をぶち壊した男、世の理を真っ向から叩き伏せた男とか、遂に超カッコ良い二つ名がついたな。
いや、これやっぱりテロリストっぽいな。
「魔王様ー! また来てね!」
「おーう。せいぜい俺たちを倒せるくらい強い勇者目指してがんばれよ。あっ、ハイシュバルみたいにはなるな。いけすかねぇから」
「二度と帰ってくるな! 馬鹿魔王が!」
思わず笑みをこぼしてしまうくらい、ここはえらく自由な世界になった。
こんな風に勇者と魔王が話すことがそうあったとは思えない。
まぁ、ハイシュバルは最後までムカつくけど。
「うるせえ、次会ったら今度こそボコボコにして倒してやるよ」
そういえばアビーは地下に何とか住まわせて貰っているらしい。
何か良かったな、処刑にならなくて。
「あなた達の旅に幸があらんことを」
絆はより強く、深く。
俺たちは見えた目的に向かって、先へ進む。
「さぁ闇野。こうも悪名高く有名になっては私も嫁の貰い手がない。そろそろ責任を取ってもらおうか」
「ええ、私も世界君には覚悟を決めて欲しいのだけれど」
「まぁ、世界がどうしてもって言うなら。別に、良いけど……?」
「ずるいです! 世界さん、私を貰ってくれないと弓で爆破しちゃいますよ」
「私は世界様の側にいるだけです」
ああ、勇者転生の面接落ちて魔王になったけど。
俺はまだまだ理不尽と戦う為にこいつらと旅をするようです。
これにて終了です。私自身話の続きを書きたい気持ちもありますし、何だか少し寂しい気もします。
本当に五十部の間ありがとうございました。
現在連載中の、死んだら凄い能力と狐神を……
こちらもよろしくお願い致します。




