三話 鬼畜外道の狼退治
「では、出発!」
端から見れば、冒険者のパーティにしか見えない。
古の魔王城を置き去りに俺たちは遂に旅でた。
目的は勿論、世界の理不尽さをぶち壊す。
と大きく考えてみたが、結論としては自由に生きる為の弊害を取り除くという事になる。
昔何かの名言で、正義の反対は正義であると見た。
これもまたそれと同じだ。
俺たちは元の町、カースドを出てしばらく歩き続ける。
たった二人の部下を引き連れ、人の居る町へ向かう為だ。
そう、本当に残念ながらカースドには、人一人居ないので情報もクソもない。
無論、見送りもなければ、草木も散り、地は荒れ果てているような所だった。
わずか二、三日の間だったので、郷土愛も別にないので出て行く事に躊躇いはない。
そして旅において、心配の種になるお金。
けれど、幸いお金には困らなかった。
通貨はライと言う。
現世とほぼ同じで一ライ=一円だ。
毎月魔王手当という給料が魔物組合から、支給されている。
いや、魔王手当って名前が本当に社会人の給料みたいで最高にダサい。
明細をエクシスに見せて貰ったが、思ったより支給額も少なくただのブラック企業にしか思えなかった。
けれど序列が高い魔王はそれなりに信仰心をもって接されているらしく、給料も俺からすれば信じられないくらい高額らしい。
うん。
……やっぱりこれ、理不尽だよな。
けれどら前魔王が引きこもりだったので思ったより貯蓄できていたので、助かった。
貯蓄て……世知辛すぎる。
「帰らずの森ですね。この先は」
見つからずの魔王(笑)の由縁はここにあった。
眼前に広がる森、これが冒険者達の進行を阻むからだ。
昼間なのに薄暗く、どこを見ても木、木、木。
レイカはよくぞ魔王城までたどり着いたな……。
強運らしく、何に遭遇する事もなく行けたとの事だが、とてもそんな感じには思えない森だった。
「いや、めっちゃ烏飛んでるんですけど」
「はい、この森が一番難所です。死なないように気を付けましょう」
「私が居るんだから大丈夫よ! 行きはここ辿ってきたし!」
歩く事、数時間。
あ、……あれれー。
いつまでたっても景色が変わらないので、俺も何となく察した。
恐らくですけど、俺たち既に迷ってますね。
「何で! 何で森を抜けれないの? やだ、もう帰りたい!!」
「死亡フラグたてるのやめろ!!」
大抵こういう事を言った後、一人で行動して、高確率で屍になる。
俺はレイカを決して走らせぬように、手を掴む。
もういったい何時間歩いたのか、さすがにみんな疲労が溜まってきた。
変わらぬ景色というのは、思ったより体力を奪う。
「ぎゃあああああ!!」
「また、死体……じゃねぇかあああ!!」
唐突に、何度も森に声がこだまする。
森は思ったより酷い惨状で、そこらに骸骨になった死体や、飢えた魔物がいた。
見る度に声を上げ、何とか追い払ったりしていた。
俺も一応魔王になったので、もしかしたら顔パスとかあるかなと、思った。
勿論、そんな事はなかった。
獣型の魔物はウロウロと追いかけ回すわ、変な色のキノコは生えてるわ。
歓迎は全くされていなかったみたいだ。
「あ、あれは! ネオウルフ!!」
「おい、でかくない? あいつ狼なのに超でかくない?」
ゆらり、ゆらり。
木々の合間を縫って、また戦わなければ逃げてくれなさそうな大狼が姿を現した。
牙が刃物くらいあり、白の毛が何を食べたのか返り血で汚れている。
はぁ、やれやれ。
魔王の力を見せてやりますか。
「エクシス、やれ」
「行きますよ、世界様! っらああああ!!」
バコン、エクシスの渾身の一撃が俺にヒットする。
ああああ! もう俺、変になるうううう!!
……既に変にはなっているが、気にはしない。
「今よ、ダメージ移動して!」
「顔が腫れて、ううっ……!」
即死はないと分かれば、恐れはない。
だって、一緒のパーティのこいつらの方が容赦無くて怖い。
失敗したらまた殴られるんじゃないのか。
そんな不安の方が圧倒的に魔物より上だった。
「はひ、ダメージいどふ」
ネオウルフと呼ばれる狼の腹下に走って潜り込み、右手で触れる。
衝撃と共に、痛みが引いていく。
「があああああああ!!」
思ったよりダメージが入ったらしく、ネオウルフは怒り狂った。
顔の腫れも治まったので、すかさず俺は退避する。
「では、行きます! 金色爆発!」
エクシスに関してはもう吸血族とか、そんな設定は無かったと思っている。
謎の掛け声と共に、爆発していく狼の顔。
一発じゃなくて連発で炸裂するので、より威力はある。
……あれ、俺ダメージ移動する意味あったかな。
「よし、浄化してやるわ! 魂を鎮めてあげる! 鎮魂歌! あああああああ!!!」
勇者って何だっけ。
そう思わずにはいられない、対獣型の魔物専用技らしい。
鎮魂歌というか、それただの音痴な叫び声ではないだろうか。
……叫び声で俺の鼓膜が馬鹿になっている気がする。
耳から血が出るんではないか、確かめる為に耳に触れる。
良かった、まだ裂けてないみたいだ。
二人とも何かこう、違くないか。
それを言えば、俺もそうなので何とも言えない。
「グラあああああ!!!!」
ゆっくりと狼は、その鎮魂歌を聞いて倒れる。
顔に爆発の怪我を負い、あまりにも痛ましい。
顔が何か焦げてる……。
「すまん。耳が痛いんで、ダメージ移動させてくれ」
最後に俺が、耳に受けたダメージを狼の身体に押し付け終了。
それは戦いとは言えず、最早出し物大会になっていた。
「さすが魔王ね。倒れた狼に更にダメージを与えるなんて!」
「ええ、予想に勝る外道っぷりです」
「え、俺が?」
どう考えても外道は俺じゃないと思うんだが。
だって、吸血族が行う爆発攻撃。
勇者が行う、聴覚攻撃。
どれもこれも、聞いた事も見た事もない。
その威力たるや、単体でネオウルフなら三体同時くらい攻略出来るんじゃないのか。
「先に進みます。ここから先はより強い魔物が出るかもしれません。いつでも戦闘出来るようにしておいて下さい」
そうして俺たちは、より深く森の奥に進んで行った。