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勇者転生の面接に落ちたので、俺は異世界で魔王になりました!  作者: 鮎 太郎
一章 面接落ちて、魔王になりました
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十八話 騒乱の国

「また来いよー! 待ってるからなぁー!」

「ブラックドラゴンを倒してくれてありがとう! じゃあね、みんなー!!」


 町の人々は、手を振りながら俺たちを見送ってくれた。

 そういや、最初のカースドの町から出発するときは見送りすらなかったことを思い出す。

 これが旅の醍醐味であろう、人々との出会いか。



「それにしても闇野の新能力か。それは見たかったな」


「なんというか聞いただけでも、不憫よね……」


 出発してからしばらく歩き、その話になった。

 不憫すぎて涙がでらぁ!

 カレンにもレイオンにも見せてやりたかった、あの一瞬の俺の輝きを。

 いや間違いなくあの瞬間の五秒だけ俺は主人公だったわー。

 パンツ見ようとしてたけど、主人公だったわー。


「……いずれ使い道があるさ。ごほん……さぁ、今度こそ寄り道なしで急ごうか」


 馬の姿だったケルベロスとグレッチェンを元に戻し、再び俺たちはレイオンの国へと向かう。

 フレイヤ国、それが目的地だ。

 面積にすればそこまで大きくないが、整備された町に広い海は大変魅力的である。

 さぁ、どんな風に迎えてくれるのか。

 今から俺たちは、まだ見ぬ国に興奮していた。



「お嬢様ああああ!! 何ですか、この者は!!」


 ……歓迎どころか、その逆で。

 荒野を駆け抜け、草原を走り、水辺で休み、川を渡って辿り着いたこのフレイヤ国で、俺は抵抗出来ない小学生のように怒られていた。

 カンカンに切れたご様子の白髪のクルクルパーマのおばちゃんが、俺を指差し癇癪を起こす。

 例えるなら、キィー! とか、ガァァァー! とか。

 そんな感じで、とにかく俺に詰め寄る。

 パワータイプといえばしっくりきそうな、そんな体躯をしていた。

 ……腕が丸太の如く、肩の筋肉はゴツゴツと盛り上がっている。

 この人、歴戦の冒険者だったのかな?


「待て、メイベール。何度も言ったがこいつも私と同じ魔王だ。何も悪気があってそんな事をしたわけではない!」


 俺とレイオンはメイベールの部屋に呼ばれてから、おそらく三十分くらいだろうか。

 俺はもうメイベールの顔を見れない。

 だって、鬼みたいだもの……。

 それにしてもこの部屋には綺麗な食器や、剣に、槍に、弓に、棍棒にって、よく見れば武器ばっかりじゃねーか。

 ちょっと命の危機っぽいな、本気でどう逃げるか考えておくか。


「しかしですね、お嬢様! この阿呆魔王は私の大事な、大事な……」


 遡る事、数時間前。

 俺たちはレイオンに紹介されて、城内に入った。

 七位の魔王を連れて来た、それだけをレイオンが伝えるとお嬢様にお友達がとかあの女王がご友人を連れて来られたなど、とてもはしゃいでいた。

 まるで初めて子供が友達を連れて来た時のお母さんや、お父さんみたいでそれが何だか面白い。


 レオ城と名付けられた城はわーわーと慌ただしくなりながらも、丁寧に俺たちをもてなしてくれた。

 やれ部屋の用意だの、食器の埃を払えだの、本当にありがたい話だ。


 だから、ああ、きっと俺が悪いんだろう。

 

 ちょいちょいと、貼り付けられた笑顔を見せながら俺を呼んだメイベールを見て、リザやエクシス、カレンは既に退避して用意された部屋に逃げ込んだ。

 裏切り者、俺、許さない。


「大事なお嬢様を誘惑した、変態下劣ゴミ野郎!!」


 今まで受けた罵倒の中で一番痛烈なヒット。

 ごめん、この胸の痛みをダメージ移動出来ないかな?

 え、無理? あっ、そうですか。


「……誘惑されて、その説明をし忘れてしまったのは私だ!!」


 あのさぁ、火に油を注ぐって知ってる?

 ……うん、知らないよね。

 メイベールと呼ばれた使いの人の顔が更に赤く、そして憤怒の形相に変わっていく。

 ねぇ、どうしてレイオンって呼んだだけでこうなるの?

 やっぱり俺が悪いんじゃなくて、この国がおかしくないか。


「良いですか、七位の魔王! この国でお嬢様、すなわちレイオン・レッドハート様をレイオンと。男性のあなたがレイオンと呼べばすなわちそれ、婚約の意! それを分かりませんでしたでは、到底すまないのです!」


 胸ぐら掴んで振り回さないで!

 携帯電話のバイブ機能並みに揺れてるから、俺。

 振動で脳みそがおかしくなるから!


「メイベール、いったん降ろせ! 闇野の顔がそのままでは破裂する!」


 つまり、レイオンと男性が呼ぶ事は決して許される事ではなく。

 呼んだ男性は婚約しなければならない、と。

 世界には色んな慣習があるんだなあ、教えといてよ……。


「はぁ……はぁっ……! あの時は私しか居ませんでしたから、何とか自我を保てましたが。もし、もしも軍事部の奴らや、内政部の奴らに聞かれていたら……ゾッとします。おそらくそのまま婚約させられていたでしょう! お嬢様、お願いですからもう少し危機管理をですね」


「……何だメイベール! それはいつまでも私に独り身で居ろと? つまりはそういう事か?」


「違います、決してそうではありませんが! 時と情勢をですね!」


 え、もう俺関係ないよね?

 俺も用意された部屋に行っていいかな?

 抜け足で、差し足で……!


「「そこ、逃げようとするな!」」


「あ、はい……!」


 こうして、初めて来た国フレイヤでの一日目を過ごした。



「……どうだ、マレガ? 七位を見たのだろう?」


「悪くない。いい目だ」


 月光の下、獅子の顔をした男と髭を蓄えた男が城を支える大きな柱を挟んで会話していた。

 周りを注意しているのか、キョロキョロと視線を動かす。


「女王には、例の件お伝えしたか?」


「まだだ、反対されるに決まっておる。……けれどあの七位次第か」


 ここに、フレイヤ国を動かす話が進んでいた。

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