十七話 左手の能力
朝を越え、時刻はそろそろ昼頃だろう。
俺ゆっくりと伸びをして、毛布をとった。
町のみんなはいつ起きたのか、既に片付けを始めている。
「ふわーよく寝た」
激動の一日だった、といっても過言ではない。
凝った肩を揉みながら、その様子を窺った。
そういえばこういう疲労は初めてだな……。
魔物を倒しては寝る、倒しては寝る。
そんな生活を繰り返していた俺にとっても、こうやって町のみんなと騒ぐのは良い思い出になった。
はしゃぎ過ぎて喉が少し痛んでいるらしく、声が出にくいのが気にかかるが、今は手伝うとしよう。
「よく寝たか? おはよう闇野」
両の手に大きな長机を軽そうに抱えて、レイオンは挨拶してくる。
この様子だと、昨日の事は忘れているようだ。
少し残念な、けれど安心するような複雑な気持ちになるが元気そうで良かった。
「おはよう。片付け終わったら出発するか」
「だな、ここから私の国なら夜頃には着くだろう。では、私はこれを運んでくるので後でな」
ふう、それにしても喉が痛い。
ジクジクというか、ガサガサというか。
……風邪か? この世界にも風邪があるのか?
「おはようございます。世界さん」
「リザか。どうだ、楽しめたか?」
「すっごい楽しめました! あ、カレンさんは町の方の片付けに出ましたよ」
「そかそかカレンももう起きてたのか」
綺麗に整えられたリザの髪。
今日はツインテールらしく、大変似合ってて可愛らしい。
リザは元気一杯、俺に声をかけてきた。
手にはゴミを集めた木箱を持ち、少し汗ばんでいる。
ううむ、相当早くから手伝っていたらしい。
その表情は爽やかで、見てるこちらが元気になるほどだ。
よほど楽しかったのか、リザはずっとニコニコしていた。
うん、うん! 女の子には笑顔が一番だな。
「世界様、おそようございます」
……朝からキレキレだな、エクシス。
開口一発から、俺の寝坊を揶揄する。
確かに、確かに俺が悪いけど何だか納得いかないので俺もやり返す事にした。
「おそよう、エクシス。お前のロボットダンスなかなか良かったぞ」
「ロボット……? というより、世界様も見ていらしたんですね」
一応エクシスもダンスが苦手な意識はあるのか、恥ずかしげにそう言った。
あれはあれで、悪くないけどな。
何にせよ、これであいこだ。
これ以上言おうもんなら、三倍になって返ってくるからやめておこう。
ふと、エクシスは金の髪を揺らしながら俺に近付く。
「……世界様、何やら喉の調子が宜しくないですね」
鋭いな。
こういうエクシスの観察力は感心する。
俺は手を振り、大丈夫だとアピールした。
「エクシスさんは、世界さんの事をよく見ていらっしゃいますね!」
「ち、違います! いつもより何か声が変というか、何というか。もう世界様、ニヤニヤしないで
ください。気持ち悪いです!」
き、気持ち悪いとか……。
シンプルで強烈な一撃だな、おい!
ティロリリリーン。
こ、この音は、スキル習得の時に流れる音じゃないか!
何でこのタイミングで……。
嫌だ、見たくない。
前回はダメージの乗算とかいう訳の分からないクソスキルだったのを思い出す。
「……ここで、ですか」
「……もうやだああああ! 何で全部自傷前提なんだよおおお! 頼む、今回こそは頼む!」
闇野世界、新固有能力
ダメージ変換
今回はスキルではなく、固有能力なのでお決まりの緑の文字で説明が書いてあった。
えーと、もうダメージを受けるのは名前からして確定だけど……。
ダメージ移動を使わない事によって左手から発動出来る能力。
ダメージを変換し、肉体を極限まで強化する。
受けたダメージの大きさによって、その継続時間を確定。
なおその間は痛みは消えない。
最大五分前
え、最大で五分……だけ?
しかも痛みを感じながら……?
「なんて、間抜けな、能力なんだ……!」
いつか戦った魔物の脳筋ゴリラという種類を思い出した。
俺もあんな風にムキムキになるのか……?
ダメージ変換を使う度に服を破るなんて、ごめんだぞ。
「使ってみたくないですか? では、行きます!」
「え、待てエクシス。……ッガ、な、殴ったな!」
「さぁ、ここで発動して下さい!」
……雑すぎる、お願いだから大事に扱って下さい。
身体は一つなんだから……。
俺は渋々、左手を胸部に当てる。
……ダメージ変換完了。
な、なんだこれ……身体が熱い……!
けれど、身体の変化は見当たらないかった。
突如俺を中心に爆風が巻き起こる。
俺はとうとう手に入れた。
これこそが能力、パワーなのか!!
「何ですか、これ! リザ、しっかり飛ばされないように私の身体を掴んで!!」
「きゃっ、スカートが!!」
スカートが……だと?
俺は見るために、一歩踏み出した。
地が凹み、草がめくれあがる。
見た目に変わった様子はないが、今の俺は力に溢れている。
これが、チート能力……か!
……ダメージ変換、終了。
ちょ、待って、まだ終わらないで!
五秒じゃないの? これ五秒くらいじゃないの?
「……ふざけるなぁあああ!!! パンチ一発でたった五秒だとおおおお!! これ燃費悪いし、歩いたら終わるし、発動させてる間は痛いし、パンツ見れないし、何なんだよこの固有能力! ボケええええ! 二度と使うかああああ!!」
心なしかダメージ移動のように完全に回復してる気がしないし、もうやだ。
最近pvやアクセスが増えています。
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