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勇者転生の面接に落ちたので、俺は異世界で魔王になりました!  作者: 鮎 太郎
一章 面接落ちて、魔王になりました
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十六話 宴と本音

 人が戻ってきた。

 それはあの花火のように散ったドラゴンをどこかで見たからだろう。

 俺たちは次々にありがとうと礼を言われ、さぞ高名な冒険者なんだろうと褒められる。

 ちゃんと褒められたのはいつだったか、もう思い出せない。

 いや、今回は俺何もしてないけどね!


「今日は風呂も飯もぜーんぶ町の奢りじゃ! たんと食ってくれ!」


 風呂で臭いを、身体が裂けるぐらいに擦りとった後、町の中央にある広場のような所へ俺たちは連れて行かれてた。


「おら、こいつらがこの町の英雄だあああ!!!」


「あの臭え悪竜はな、いっつもいっつも町を臭くしやがる! 家や家畜や、何だったら木までな!ほんと清々したぜ!」


「おおー、銀髪っ子がぶちかましたんだって? 小せえのにやるじゃねえか! おら飲め飲め!!」


 ああ、だから町の人はこぞって逃げたのか。

 今なら納得できる。

 分かっていたら、俺たちも逃げただろう。

 だって臭い全然取れなかった……から……?


「すまない、グレッチェンがそろそろ気になるんだが」


 宴の隙間を縫い、そうヒソヒソと声をかけてくるレイオン。

 実は俺もケルベロス達の事が気になっていた所だった。

 あいつらも寂しいだろう。

 今日ここを発てるとは到底思わない。

 少なくとも明日の昼ぐらいにはなるだろう。

 なら、思ったよりも長く滞在してしまうであろうこの町に変化を使って連れてくるべきだ。

 勿論俺は使えないので、レイオン頼みなのが情けない所だが仕方あるまい。


 えーと、あの場所ならここから歩いて十五分なので、往復で三十分。

 なら少し席を外しても気付かれる事もない。

 そう俺たちは忍び足で、広場を出た。

 本来ならリザが迎えに行く方が、ケルベロスも喜ぶのだろう。

 けれど、何せ今日の狩りの主役はリザだ。

 あんなに町の人に褒められて嬉しそうにするリザを、どこの誰が邪魔出来よう。

 ……良かったな、リザ。


「しかし、闇野のパーティは珍妙だな」


「ああ、揃いも揃って曲者だらけで困る。レイオンは今日一緒に居てどうだった?」


 時刻は何時だろう、きっとそろそろ日付が変わってしまったはずだ。

 ほぼ一日を終えて、俺はレイオンに感想を聞いた。

 そんな長い時間ではないが、率直に気になったのだ。

 少しの間。

 大きな石がそこいらに転がっている、そんな整備されてない道を下向きながら二人で歩く。


「そうだな。こんなに笑ったのは何年ぶりだろうか。ダークドラゴンの話なんて一生笑い話に出来そうだ」


「そっか、なら良かった。実は幻滅してるんじゃないかって、ちょっと思ったから」


 喧嘩したり、娯楽に走ったり。

 いつもながらのメンバーとのやりとりだが、人によっては引いてしまうだろう。


「そんな事はない。……こうして対等に接してくれる奴は居なかったからな。私は生まれながらにして国を背負う魔王だったから、笑う事もほとんど無かった。ふふ……陽の魔王なのに月がこんなに綺麗に見えるとは、な」


 今度は二人揃って月を見上げた。

 ああ、笑える夜の月はこんなにも綺麗だったのか。


「おーグレッチェン! ゆっくり出来たか?」


「ケルベロス、迎えに来たぞ! 一緒に町行こう!」


 俺を見るなり、遠吠えをあげて喜ぶケルベロス。

 俺は随分とケルベロスに懐かれた。

 馬になってもらってる間に、毛を梳かし、草以外の餌もやって、たまに一緒に寝たりもしたからだろう。

 今では立派な友達だった。


 そもそもケルベロスとグレッチェンの二匹は思ったよりも相性が良かったのか、身体を寄り添わせ眠っていたらしい。

 撫でるとまだ温かい。

 それにしてもケルベロスは大きいが、グレッチェンも相当にでかいな。

 そんな巨体のお腹が空いてるのか、俺たちが町から持ってきた肉を与えると二匹とも美味しそうに頬張った。


 レイオンによって馬と姿を変えた二匹は、ゆっくりと俺たちの後ろをつく。

 輪に入れてもらえる事が嬉しいのか、前向いていても分かるぐらい尾をパタパタと振るっていた。


 馬を率いて町に戻ると宴会はさらに盛り上がって激しくなっていた。

 焚き火は大きく燃え上がり、その周りを躍り狂う人々。

 リザもカレンもそしてエクシスまで、その輪に入って楽しそうに踊っていた。

 ん、それにしてもエクシスは踊りが下手だなぁ……。

 一人だけロボットダンスを踊っているみたいだぞ。


「……おーい、こっちにも二人分飯くれー!」


 踊りを見ながら、端の木の椅子に座る。

 おばさんが持ってきてくれた魚の汁を使った麺を啜りながらひたすらに手拍子を打つ。

 レイオンも酒をちびちびと飲みながら、俺の横に座ってそれを眺めた。

 なんの魚かは分からないが、ひたすらに美味い。

 俺は明日の出発が少しだけ遅れればいいのに、そう思った。



「おい、おい! 闇野おおおお! 酒が足らんぞおお!!」


 前言撤回、早く出発しようぜ!

 だって、レイオンの酒癖の悪さ半端ないんだもの。

 これはいわゆる絡み酒というやつだろう。

 大半が暴れまわり騒いだせいか、総じて眠りこけている中、レイオンだけはずっとこんな風に俺に管を巻いてくる。


「そもそもなぁ、ヒック、お前は自信がないのか自信があるのか分かんないなー! 不敵に思えれば、子供みたいに喧嘩したり、まった、く。何なのだ! ……ヒック!」


 バシバシと俺の肩を叩きながら、レイオンは虚ろな目で俺を見つめる。

 口調も明らかにおかしいし、何より叩く力がちょっと優しいので、あんまり強く言えない。

 きっとレイオンなりに、吐きたくても吐けない事もあるのはずだ。

 俺は汁に入っていた魚の身を、箸のような物でほじくりながら、それをずっと聞いている。


「騎士の時のレイオンは綺麗でカッコイイけど、今のお前はただのへべれけだぞ。なぁ、頼むから俺の服に吐いたりするのはやめてくれよ」


「うるせーうんこ踏み! ちょっと良い目してるからって調子ぶっこかないでくれ! イック……!」


 お前もそれ思ってたのか……!

 もうそのあだ名、本当にやめて……。

 トイレに行ってウンコマンって名前つけられてる気分になるから……。


「褒めてるのか、貶してるのかハッキリしろ! はぁ……。録音機とかこの世界にないの?」


 ちなみに俺はお酒に弱いので、一切飲めない。

 転生前も、いや具体的には思い出せないが。

 その事実だけはここでも覚えていた。

 ……あーあ、こりゃレイオンは禁酒だな。

 そう思いながらも俺は酒を持ってきて、何だかんだ器に注いでやる。


「おおー、んぐっ! かーっ、うんまい! なぁ闇野お」


「今度は何だ! 酒なら今ので打ち止め! お終いだぞ」


「……私は、生きる。それが正しいって、肯定して良いんだよなあ……? 聞きそびれたけど、お前は、ヒック、ちゃんと私を受け止めてくれるか?」


 鳩が豆鉄砲を食ったように、俺はハッとした。

 ……そうか、きちんと答えれてなかったのか。

 記憶辿り、朝の問答を思い出した。

 そうだーー。

 彼女は俺に、こんな俺たちと共に生きると言ってくれたのだ。


 俺の叫びは端から見れば、無意味に足掻く雑魚の咆哮と変わらない。

 俺は人形じゃないと、そうやって必死で叫んでも、濁流の波から見れば、そこに流れる小さい木の破片と同じようなもの。


 けれど、彼女はそれを聞き流さず真剣に考えてくれた。

 そうして出した彼女の答えは、決して軽くはない。

 なら酒に飲まれていようが心底から本気で、本当に共にと、そう思ってくれているはずだ。

 なぜそれを欺瞞だと思わないのか、どうしてそんな事を信じるのか、そう言われたって俺は彼女を信じると決めた。

 逃げずに俺はそれに答えなければいけない。

 ーーそれがエゴを押し通した俺の義務であり責任だ。


「……こう見えて俺は面倒見は良い方だぞ。嫌だって言っても、お前もそしてエクシスも、カレンもリザも。俺がまとめて受け止められるようになってやる」


「……そ、うか。なら、安心だ……すぅ……」


 レイオンは聞いて安心したのか、それとも疲れ果てたのか。

 ようやく深い眠りに落ちたので、向こうの人に毛布を借りて近くに横たわらせた。




「へえ、勇者だった私も受け止めてくれるの?」


「なぉ、か、カレンか! びっくりした! というか、聞いてたのか……? 忘れて! 恥ずかしいから、今すぐ忘れて下さい」


「……忘れないわよ!」


 なんか今驚いて変な声出た……。

 今カレンをブン殴れば、記憶って消せるかな。

 けれど予想に反して、カレンはそんな俺を珍しく茶化さなかった。

 空いた席に今度はカレンが腰掛ける。

 寝起きなのか、少し気怠げに瞼を擦りながらポツリポツリと話し始めた。


「私ね、今まで孤高の戦士だったじゃない?」


「ボッチとも言えるな、それ」


「はいそこ! ふざけない! 話し続けるわよ。……でね、昔から仲間に囲まれるって少し憧れてたの。少し、だけ。だから今は凄く楽しいわ。……何か私って昔から上手く馴染めないのよねー。喜怒哀楽が激しいからなのか、良く分からないけど。ほら面倒くさいでしょ、私。……えーと、あーもー! 何が言いたいのか分かんないけど。とにかくありがと!」


 こりゃ珍しい事もあるもんだ。

 レイオンと俺の空気にあてらたのか、カレンは早口で俺に感謝を述べた。

 直球ストレート。

 それを聞いてか、グッと胸を掴まれたように心臓が早鐘を打つ。

 もしかして、カレンは乙女だった?


「おう? 俺こそ付いてきてくれてありがとうな。……なぁレイカどうした? 腹でも壊したか?」


「変に素直なのよあんたは! 腹は壊してない! それよりせっかく礼を述べたんだからちゃんと引っ張りなさいよ。 まぁ不甲斐ない主だとあれだしー? 一応そこそこに、私も頑張るから……!」


 こいつが言うと、インパクトがある。

 カレンには本当に半ば強引に仲間になったから、正直な所こう思われていた事に驚きを隠せない。

 やべ、ちょっとにやけそう!


「……普段からそんなに素直ならお前も可愛いのにな」


「かわ、かわ、可愛いって、あんた!」


「何だよ。あっ、セクハラとか言うのやめろよ! 俺男だし部下に対してはパワハラにもなるから」


 ここが現代日本じゃなくて良かった。

 一歩間違えれば訴訟になるから気を付けようぜ!

 ……って、俺も素直じゃないな。

 カレン相手だとついつい軽口を叩いてしまう。

 本当は嬉しいのに、照れが邪魔をする。


「セクハラ? 何言ってるのか分からないけど……。ふ、ふーん、でもあんた私に対してそんな風に思ってたんだ……。ふ、ふーん!」


 ニコニコしたり、真顔になったり相変わらずカレンの表情筋は忙しいな。

 別に可愛いは間違いじゃないから、照れはするが否定はしない。

 けどらたまに女の子という事を忘れされるような言動や行動がなければ、なお良いんだが。

 ……いや、それもカレンの魅力か。


「満足したから寝るわ。おやすみ、世界」


 カレンは言いたい事を言い終えると、早足で去っていった。

 火のせいだろうか。

 心なしか頬が赤くなっているように見えた。

 俺は素直なカレンを心に保存しておく事にする。


 さぁ、俺も明日に備えて寝るとしよう。

 毛布を借りて、就寝の準備を整えた。

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