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勇者転生の面接に落ちたので、俺は異世界で魔王になりました!  作者: 鮎 太郎
一章 面接落ちて、魔王になりました
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十四話 四位の魔王の実力は

「はぁ……。だからやめておけと言ったんだ」


「うんこ踏み世界!! ぶひゃーっ!!」


 地獄絵図だった。

 うんこを踏んだ俺に、ロックシンガー並みに髪を振り乱したのか、髪がワイルドになっているリザ。

 甘えん坊じゃない。

 甘えん坊じゃないと、壊れたようにぶつぶつと呟くエクシス。

 カレンに至っては、すぐさま俺にあだ名をつけからかう気満々と言ったところだ。


「おい、あんたら大丈夫か?」


 そんなカオスな俺たちを見かねたのか、道行く人が立ちすくむパーティに声をかけてくれる。


「実は占いの婆さんの所へ行ってな……」


「そりゃこうなるわ。とりあえず精神的にやばそうだから、ちゃんとケアしてやれよ姉ちゃんたち」


 ……おかしいよ。

 娯楽を堪能する為にお金を払って、占いに行ったのにパーティが半壊するなんて、こんなのってあんまりだよ……。

 憐れみの視線とか、同情の掛け声とか、優しさがなんかこう、熱く胸に染みる。

 俺は新調したてのブーツの底を泣く泣く石で擦り付け、何とか精神を保つ作業へと移行した。

 いやあ、うんこ踏んだのっていつぶりだろう。


「とりあえずご飯でも食べよう。な、闇野?」


 ふう、飯を注文してようやく俺たちは何とか半壊したパーティを保った。

 入ったのは人も疎らな、小さい食堂。

 一番奥の、最端の席に五人で座る。


 さっき爆笑していたカレンは注文を終えて、ご飯くる直前にトイレへと。

 その隙に注文した鳥の揚げ物に塩をこれでもかと振りまいておいた。

 仕返しだ、早く口にするのが楽しみだぜ!


「ところで、レイオンの太陽の恩恵ってあるじゃん。あれって俺と少し戦った時何割くらいの力なんだ?」


 飯も運ばれてきていたので、俺たちは食べ始めながら話をしていた。

 内容は本当に中身は薄く、主にレイオンから俺たちへここまでどうしてきたのかという当たり障りの無い会話だ。

 そういえば、と。

 俺は気になっていた事をレイオンに聞く。

 ふむ、と考え込むように手に顎を置き黙考する。


「そうだな……。アークライトしか出していないしまだ早朝なのであれで二割か。多分そこらへんだ」


 俺は驚愕した。

 あれでたった二割。

 槍で腹を貫いた痛みを受けながら立っていたその姿や、己の振るった三倍の痛みを受けながらスキルなしで意識を保っていたのに。

 なら、全力を出せば本当に辺り一帯が消えかねない力があるのではないか、そう思った。


「そんな、獅子に、た、太陽の恩恵……ですって? ごほッ……!」


 トイレから帰ってきていたレイカが信じられないと、目を丸くする。

 そして、口にした鳥を詰まらせ咽せていた。

 俺が仕返しした、鳥にぶちまけた塩も形無しで、レイオンのその言葉に本気で驚いていた。


「いや、凄いのは凄いよな。うんうん!」


「違うわよ、バッカうんこ踏み!! こんなの信じられない。それじゃあまるで、太陽の化身、獅子王ガランダームじゃない!」


 いまいちピンとこない。

 ガランダーム? 何それガンダムなの?

 知識の無い俺に、エクシス、リザもさっぱり分からないと言った感じだ。


「伝承のガランダームよ、知らないの? ガランダームは存在そのものが太陽と言われて、常にその加護を受けていたの。日中は魔力を全てその太陽から得て、魔法や攻撃の威力は最大二倍にまで跳ね上がる。なおかつ完全な治癒能力が与えられ、受けた傷は即再生するのよ。そして、何よりガランダームの代名詞、太陽の剣よ。その剣を一度振るえば、その日から三日間、ガランダームをいかなる時も守り続ける。その彼を傷をつけるのは聖剣、魔剣でも不可能と言われていたの! ねぇ、レイオン。もしかしてそのもう片方の剣って」


「お、随分と博識だな。そう、その太陽剣ガルティンだ」


 あれ、俺なんで死ななかったんだろう。

 どう考えたって、これはやばすぎる。

 レイカは口をパクパクさせ、震えだした。

 いや、その早口で、かつ丁寧な説明のおかげで俺も震えと汗が止まらないんだけど。

 っていうか、これで四位?

 これを倒す勇者とか序列が上の魔王とかどうなってんの。

 やだ、もう恥ずかしい!

 俺の能力がヘンテコすぎて、口から水が溢れるくらい恥ずかしい!


「世界様、本当によく生きていらっしゃいました。消し炭になっていてもおかしくなかったのですから」


「私、規格外すぎて正直半分も理解出来ません」


「何を言う。朝とはいえ闇野はその私に立つのがやっとなダメージを与えたのだぞ」


 きゃあああああああああ!

 まるでお母さんが擁護するみたいな感じやめてくれえええ!

 うちの子はサッカーは出来ませんけど、ボールは上手く扱えるんですよー。

 みたいな、ね?

 子供はそうフォローされるのが一番辛いんだから……。

 溶けたい、今すぐこの場でナメクジみたいに溶けたい。

 カレン俺に塩かけてくれ、今すぐ。


「そもそも、だ。勇者の最終目的となる我々が本当に弱いはずなかろう? 魔王にはそれぞれモデルとなっている英雄や魔物がいるのだ。私はそれがガランダームという訳だな。といっても、今は勇者の方がとんでもない能力を持っていたりするので、何とも言えないが……」


 レイオンを除く他の三人がじっと俺を見る。

 穴が開くからそれ、やめてくれよ。

 第一俺の二つ名知ってるだろう。

 見つからずの魔王なんだから、モデルも見つかってる訳ないだろうが!!

 ふざけんな、コンチクショウ!!


「本当に何なのだろうな。闇野のモデルは英雄なのか、それとも悪魔なのか、はたまた怪物なのか……」


 悩ましげにレイオンは俺を見た。

 俺だって知りたい。

 ……いや、ちょっと待てよ。

 実は葉っぱがモデルでしたー! とかなら死にたくなるから、やっぱり知りたくないです。


「元気出しなさいよ、世界! まだ、芋虫が元のモデルと決まった訳じゃないんだから!」


 対面に座ってニヤニヤしているこの顔に今すぐ水をぶちまけてやりてえ。

 あのさぁ、お前一応臣下になったんだよね?

 同情したりからかったり、忙しんだよお前は!


「誰が芋虫じゃ! 張っ倒すぞ、ヘタレ臣下ゴラァ!」


「あらぁ? 一応前魔王を追い詰めたのは私なんですけど?」


「それを足止めしたのは、私ですね。後、カレンに石投げて泣かしたのも私です。つまるところ、私が一番強い……?」


 色々と聞き捨てならないが、エクシスはドヤ顔で、カレンに事実を告げた。

 ぷぷーっ!

 カレンのやつ言い返されてやんのー!


「こ……のっ! ニヤニヤ笑ってんじゃないわよ、クソ踏み世界!」


「あれれー? 痛みでぶひいいいいいって鳴いてたの誰だっけ? お?」


「上等じゃない、表でなさいよ! ここで本当に転生させてあげるわ!」


 そんなやりとりを見てなのか。

 レイオンは少し呆れながら、けれど楽しそうに笑って、横に座るリザに尋ねた。


「リザ、君たちはいつもこんな感じなのか?」


 リザも楽しそうに笑いながら、けれど冷たく俺たちに


「ええ、大概こうやって親交を深めてますよ。けれど今日は度が過ぎてますね。店の人もこちらに来てしまいますので、そろそろお開きにしませんか?」


 と言った。


「「「……はい」」」


 俺たちのくだらない争いは、リザの一言で終わりを迎える。

 魔物退治の時もそうだが、時折エクシスをも超越するサドっ気を見せるのがリザだった。

 怒らせたら一番怖いのは間違いない。

 さっきの喧騒もどこへやら。

 俺たちはまるで一流レストランに来ているかのように、残りを静かに食べきった。

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