十三話 占いの力
「はえーヘルメイヤほど栄えてはないけど、綺麗な町だなぁ」
流通の町ヘルメイヤから獣に乗り走ること四時間、そして歩くこと十五分。
商業が栄えていた町から俺たちは西洋の綺麗な田舎町に着く。
ヘルメイヤが商業ならここは農業や、漁業が盛んな町になるのだろうか。
そもそもヘルメイヤという町は強い魔物があまりおらず、なおかつ海という大きな資源があいまって非常に栄えていたのだ。
ここは何だか忙しなさが全くない。
見ると綺麗な石の家や、木で造られた施設が並んでいた。
「ここはソルバートだ。私もお気に入りでな、旅の途中には出来るだけ寄るようにしている。人々もゆったりとしていて、実に過ごしやすい」
レイオンの説明を聞きながら、確かにと頷いた。
砂利の道を歩き、町を観察する。
えーも飯屋は……っと。
ふと、この町には不釣り合いなボロボロな木の館がある。
鉄のチェーンのようなものでこれまた腐っているような木で文字が書いていた。
ん? なになに、絶対に当たります。黒老婆の占いの館?
「おい、見てみろ! 絶対当たる占いの館だってよ。俺割と興味あるんだけど!」
せっかく落ち着いた場所に来たのだ。
たまには、娯楽も堪能してみたい。
ひたすら魔物狩りをして、働き続けていたので俺はそういうのに飢えていた。
「うさんくさ! こういうのに騙されるカモもいるもんねえ」
「カモじゃねーよ! だって絶対当たるんだぞ! これで、興味持たない方がおかしいだろうが!」
カレンが呆れた顔で俺を見る。
ねぇ、何でこういう所は凄いドライなの?
カレンこそ、頭がパンパカパーンなんだから一目散に喜んで飛びつけよ!!
「本当に当たるぞ、やめておけ! 私はそれで……ああっ……」
レイオンが怯えた表情で俺を制止する。
なんだ、保証のおまけつきかよ!
もうこれはやるしかねぇ!!
「おい、本当に俺以外で占いやるやついねーのか! 今なら俺が占い分の料金出してやる!」
「私もやります! エクシスさんもいかがですか?」
「リザがそこまで言うなら。それにレイオンさんがそこまで怯えるのなら俄然興味はありますね。主に世界様の行く末とか……。私はそれを聞くだけで良いです」
おい、そうじゃないだろう?
乗れよ、もっと乗ってこいよ!!
意気揚々と! 楽しそうにさ!
私やりますって言う奴がリザしかいないってどういう事だよ!
これじゃあ、俺とリザが何もやった事ないおのぼりさんじゃねーか。
「よし、行くぞ!」
結局、俺とリザが占いを受けてエクシスが聞くだけ。
レイオンは何か怯え、レイカは外で待つ事にしたらしい。
「いっひひ、いらっしゃい……」
結論から言うと、超ダークネス。
黒い服に体を包まれた、お婆ちゃんが下卑た笑い方で俺たちを迎えてくれた。
けれど、部屋はそこいらに穴空いてるし、いくつか置かれている瓶の中に飾りか何かは分からないがいくつか目ん玉が漬けられていた。
老婆は目をギョロリと動かして、俺たちを値ぶみする。
伸びきった爪がピシッと俺を指した。
「お主から行こうぞ」
背筋が凍る。
ギロギロときた瞳は俺をまるで金縛りにでもかけたように捉えて離さない。
水晶か何か分からないが、透明な球に手をかざしながらそれを覗く。
ぶつぶつと何か言ってるけど、何だか嫌な予感がして聞く気にならない。
「……なんと、お主はいったい何をしたのか。結論から言おう、死ぬぞよ」
「そりゃいつかは死ぬよな」
エクシスはそのやりとりに笑いを堪えられず、リザは困ったように婆さんと俺を交互に見る。
「ボケ! そうじゃないわい! この先しっかり能力を使いこなすよう努力しなされ。能力に喰われるぞや。後、お主の周りに暗雲を感じる。地べたを見ながら歩きなされ」
能力に喰われる、か。
確かに一理あるので、俺は静かに頷いた。
「次、そこの銀髪とんがり耳!」
ひぇっと小さい声で悲鳴をあげるリザ。
怖いよな、そこいらの魔物より全然貫禄あるわこの婆さん。
さっきと同じように、水晶を見ながら今度は笑い出す。
「ほう、ええ弓を使っとる。それはな神器じゃぞ。決して離さぬように大事にしなされ。そのまま、己の目的を果たす事ぞ。そうそう後な、あんまりすけべな事ばっかり考えとると足元すくわれるでな。カッカッカ」
「……あああー!! 私!! そんな事!! 全然考えてません!!!」
リザどんな事を考えているのか、是非教えてください。
何でもしますから。
リザはわーっと大声を出して、左右に拳を振るう。
……ガッ、い、それ、当たってる、それ俺の顔にクリティカルヒットしてるから!
わざとだよね? 何で俺だけぶつかるの?
「最後、そこのちび金髪!」
「え、私はただの……!」
「きええええ! 黙れえええい!!」
婆さん、ヒステリックすぎる。
断ろうとしただけでいきなりキレるとか、キレる十代より沸点低いぞ。
リザを盗み見するとまだ怒りに震えて、スカートを握りしめて歯軋りする。
目は据わっていて、既に何人か殺ったと言われても否定は出来ないようなそんな顔だ。
婆さんよりもこっちの方が超怖い、リザにこの話題は絶対にやめておこう……!
「お主は魔法のセンスがずば抜けとる。そのまま頑張りなされ。いずれ相当の使い手になれるぞや。……そして、相当甘えん坊じゃなお主。常に側に人が居ないとダメなのかの? ケーッケッケ! 少しずつ慣れておくことぞ!」
「この婆さん、この場で消しても良いですか。決して、この占いは当たっていませんから。なので、ここ爆発させて良いですよね。はい、ゴールデ……」
「ふふお手伝いします。骨すら残しませんから」
「おいやめろおおおお!!」
今のこいつらの精神状態ならやりかねない。
俺は慌てて二人を抑えて、外へ放っぽり出した。
あぶねー、本気で塵になる所だった。
「で、本題じゃが。見つからずの魔王様、この先どうするつもりで?」
「……まいった、こりゃ本物だわ」
俺は驚きながら手を挙げて、再び着席する。
婆さんやるな。
何というか凄すぎて言葉が出ない。
「老婆心ながら一つ忠告を。本気で、能力について考えなされよ。さもなければ、身だけではなく周りも滅ぼす事になりますぞ。……けれど、きっと幸ある旅になります。まあ、何か困ればここに来なされ。長く生きているので、知恵はありますゆえ」
「分かった。心から信用させてもらう。こう見えても人を見る目に自信はあるからな」
「ケーッケッケ、ではまた」
俺はお金を払って、館を後にした。
えーと後なんだっけ?
地べたを見ろ、か。
俺は婆さんを信じていたので、下を見る。
……ん、何もない。
「(こっちはハズレかな)」
俺は踏んだ糞に気付かずに、みんなの元へゆっくりと向かった。
その日の俺のあだ名が糞踏みだったのは言うまでもなかった。