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とある貴族の独白

作者: たかみね

どうやら私は乙女ゲームの世界に転生したらしい。

ルートに存在しなかった彼の為に、国の為に、尽力しようと思う。


※処女作。セリフなし、登場人物名前なしの独白風短編です。

私が前世を思い出したのと、この世界が前世でやったゲームと極似した世界であることに気付いたのは、ほぼ同時であった。


まさか、とは思いつつも身辺を調べてみると出るわ出るわ、共通点。


それに意外なことに我が家は中流貴族であった。



上流貴族は王家血筋のみで構成されているため、実質中流は上位の貴族である。


父は軍隊で九番隊長を勤めているし、兄は将来宮廷魔術師として期待されている。


母は既に引退したが、軍の医療チームでバリバリ働いていた。



そんな人たちが何故、ゲームに出てこなかったか。



彼らはゲームに出すには、キャラクターがあまりにも濃すぎた。


父は熊のようにもっさりとして軍人と言うより猟師のようだ。


母はそんな父が大好きな変わり者として結婚したが、それまで軍にいるときは男装の麗人として働いていた。


女と全く気づかれないどころか、女性にめっちゃモテたらしく、自慢された。


そんな二人から生まれた年の離れた兄は、本当に魔術師なのか、と問いただしたくなるほどのムキムキだ。


すべては身体が資本だ、と朝から父と走り込みをするような人間なので、彼の魔法はプロテインからできているに違いない。



そんな家族の長女として生まれた私は例に漏れず、物心着いた頃から身体を鍛え、魔法を練習するストイックな人間になっていた。


四歳の時から始めた走り込みは、前世を思い出してからも変わらず続けている。


その努力の甲斐あってか、十歳の時には家族から認められるほどの実力が身に付いていた。


どうやら貴族ではなく、冒険者になっても食べていけるらしい。なるほど、その手があったか。





ある日、初めまして、と貴族用のお辞儀をした先には私と同い年の皇太子と皇女がいた。


皇太子は余所者の私に噛みつかんばかりに睨んでおり、皇女はどうでもいいとばかりに無表情だ。


ある意味間反対の二人だが、ゲームではさらに間反対の性格をしていた。


皇太子は人嫌いになっており、寄ってくる貴族含め無関心であった。


また、皇女は自身の地位に固執しており、敵を作りたがる性格であった。


どちらにせよ、このままでは王族失格である。



さて、とお子さま二人の後ろに、青年…にしては経験を積みすぎている三十路の騎士を見た。


彼は近衛兵を纏める騎士団の副団長、後の騎士団長殿である。


まさか今日彼が二人の護衛任務についているとは驚きだが、内心ガッツポーズをとった。



彼は皇子ルートの際にお助けキャラとして何度か登場する。


強いだけではなく周りに気配りができる大人な団長に私のハートは射止められた。


しかし、何度やっても彼のルートは存在していなかったのだ。大変くやしい。



また皇子ルートのイベントである条件が重なると、皇子と主人公が郊外にデートに行く。


彼らは護衛の目を盗みこっそり魔法で逃げ出した際に強盗に襲われ、皇子が主人公を庇い傷を負う。


その護衛を行っていたのが、団長であり、彼はその責任をとって辞職する。



その後の団長の消息は分からないが、私が知る限り騎士団崩れは冒険者ギルドからも邪険にされやすく、他の仕事をしようにもなかなか壮年と称される年齢から始めるにも厳しい。


つまり、奴隷の次に職場環境の悪い護衛としてこき使われることになる。


護衛には日々の生活費程度の金額しか報酬が支払われず、さらに剣や防具はその雀の涙から捻り出さないといけないため、多くは奴隷の身に落ちるか、護衛中に死ぬ。



…確かに団長ともあろう御方が護衛中に皇子から目を離し脱走を許すなんて油断もいいとこだが、皇子が浅慮の割には無駄に魔法が使えてしまったことも悪い。


強盗が蔓延るような国の環境も悪い。


奴隷や護衛の職場環境の悪さも強盗が生まれる原因のひとつである。



…色々改善すべき点はあるが、この皇子が脱走イベントを起こさないように、王族として相応しい生活態度を身につければいいのでは?


そうすれば将来の国のトップとしても安心だ。と、思い城に来た次第である。



王様と王妃様は皇太子と歳が近い私の話を父から聞いており、私の言動を将来有望として以前から懇意にしてくださっている。


なんとタイミングの良いことか、御二人から皇太子と皇女の友人として仲良くしてほしい、と直々にお願いされ二つ返事で了承した。


さらに、双子の態度に若干問題視している、よかったらよき方向へ指導してほしい、と言われたのには大変驚いた。


私が二人と同い年なのを忘れていませんか?十歳に頼むことではないでしょう。



まぁ、国のトップからの評価は兎も角、私は彼の為に双子の再教育に勤めた。


友人として交流する一方、よき先駆者として手本になるように城で共に魔法や剣の訓練を行った。


自分の力に溺れず驕らず過信せず、だからといって過小評価はしないように、能力を適切に判断できなければ、良い家臣を失い、民の生活を守ることはできない。


自分で考え、行動することを、座学・実技共々身をもって理解してもらった。



十三歳になり国立学園の初等科に進んだ際には、国王陛下に許可をとり、双子にフィールドワークを行った。


話でしか知らなかった本当の民の生活を見て、双子は考え込んでいるようだった。


彼らは既に初等科で学ぶ勉強はほぼ終えており、国を支える者としての勉強も始めている。


何が必要なのか、考えているのかもしれない。


初等科で出会った中流貴族たちとの交流も、余すことなく糧としているようだ。



十六になり、高等科にあがった際には、皇子は自惚れている貴族をまとめて、考えを改めさせ、皇女は貴族に虐げられてきた生徒を庇護し、力と知識を与えた。


私はそんな二人のサポートをしながら、二人の手に負えない問題児に対し、全力で心と身体を鍛え上げた。


問題児の多くはゲームの主要人物であり、その陰にはまたしても素敵なおっさんたちがいる。


問題児への教育へも熱が入ると言うものだ。



高等科最高学年になる年の春。教会に保護されている子どもたちと遊んでいる双子を眺めていると、後ろに人が立つ気配がした。


団長殿か、と後ろを見ずに言うと、流石ですね、と笑う声がした。


双子の再教育、さらに高等科での問題児再教育の際は、無事に二年前に団長に昇格した元副団長にも、沢山手伝ってもらった。


特に双子の時は、双子にとって最も近しい大人として、ビシバシ双子を甘やかしてもらった。


私が厳しくし、団長が甘やかす。


双子の中で彼の信頼を高めると共に、強くてやさしい団長を目標とさせることで、より具体的に行動することができる。


これで、彼の騎士道を反するような行動は出来なくなるだろう。


元々団長は強面のムキムキだが、子ども好きの世話好きだ。


双子から先生と呼ばれるまでに時間はかからなかった。


ちなみに私は師匠と呼ばれている、何故だ。



もう私がいなくても大丈夫でしょう、と言いながら団長の方へ振りかえると、何故か驚愕した顔をしていた。


疑問に思っていると、何故…、と団長が訝しげに呟いた。


何故か…と言われれば、家を出て、国をわたる冒険者になるからだ。


冒険者になる理由は簡単、中流の貴族たちが婚約婚約と煩いからだ。


まず、皇太子と近しいとのことで、皇太子との婚約が噂にされたのだが、直ぐなかったことになった。


私は皇太子を友人もしくは生徒としか見てないし、皇太子は師匠となんて恐れ多いしホントマジ無理、となかなか生意気なことを言っていたので訓練で可愛がってあげた。


皇太子と婚約しないとなると、中流貴族たちが我先にと婚約を迫ってきた。


私の力と王族に懇意されていることのメリットに目が眩んだらしい。


私が同い年ぐらいを相手にしていないと分かると、私の父と同じ年齢ぐらいの男性の話もきた。


別に年の差自体は気にしないのだが、父が同い年の息子は嫌だと泣くので、それから年の差がある話は門前払いされるようになった。


しかし、断っても断っても婚約の話が無くならない。


全部燃やしてやろうかと魔力を手に溜めたとき、ふと思い付いた。そうだ、冒険者になろう。



父も生れは貴族だが、一度冒険者として活躍していたそうだ。


ちなみに我が家は若人よ経験を積め、が家訓である。


父が冒険者として活躍中、今の国王と出逢い、家に戻り、国王を護るため騎士となったそうだ。


家族に冒険者になりたいと告げると、反対するものは誰一人おらず、武器や防具を渡され、お祝いとして豪勢な食事を食べた。



そう団長に伝えると、頭を抱えていた。片頭痛だろうか?

それで、皇太子たちは何と?と団長に聞かれ、師匠すげー!と言われたと答えると今度は目頭を押さえていた。

感動する場面だっただろうか?



団長が真面目な顔をして、私を家の名で呼んだ。


昔は名前で呼ばれていたのに、いつからか堅苦しい言い方しかされなくなった。


残念だが、お互いの立場上仕方ないのかもしれないと諦めている。


そういえば最近、団長に好きな人ができたらしいと噂があった。


どうやらメイドの一人が城下町で宝石店に入っていく団長を見たらしい。


まぁ、立場も実力も申し分ない団長が、未だに未婚であることがむしろ驚きだが。



ふと、手をとられていることに気がついた。


不覚、と思いきや、手を取ったのは団長だった。


何だろうと思っていると、いつもの冷静な彼と違い、やたら熱のこもった視線を受けた。


そして、私では力不足ですか、と聞かれた。


いや、むしろ充分だろう、国中探しても団長に匹敵する実力があるものはいるはずもない。


そのように答えながら、あとは周りの部下たちの教育が完了すれば軍事力は充分だろうなと思った。


団長は私の言葉に大変喜ぶと私を抱き締めた。



キャーと教会の子どもたちや双子たちが騒いでいるが、私は驚きのあまり動けずにいた。


罠か?訓練か?作戦か?悪戯か?


団長は黙り混む私をそっと離すと、指輪を差し出した。





罠でも訓練でもなく、完全にプロポーズであった。




ぽかんと団長を見つめていると、ふと思い出した。


すっかり教育者としての人生を歩みすぎて忘れていたが、前世、私は彼のことが好きだったのではなかっただろうか?


思い出したら、急に顔に熱が集まるのを感じた。



団長は黙って返事を待っている。


国を出て命を懸ける冒険者になる覚悟までしたというのに、こんなときに度胸がない。


私は小さく頷くことしかできなかった。



だが、彼はそれで十分だったようで、再度強く抱き締めると、嬉しそうに声を上げた。


その声を切っ掛けに、双子を含め、私が関わった人々がどこからか集まってきた。


団長がからかわれているところをみると、今日、私に告白するのは周知の事実であったらしい。


全く気が付かなかったとショックを受けていると、国の兵士がこちらに走ってくるのが見えた。



鬼気迫る表情に一同に緊張がはしる。


大きな魔物が国境を超え、国に迫っているらしい。


戦いの準備のため、慌ただしく解散している中で、私を抱き締めたままの団長の服を引っ張った。



団長が口を開く前に、私は彼の口をふさいだ。


そして目を見開く彼に向かって一言呟いた。




魔物を倒したら結婚式ですね。




その言葉を聞いた瞬間、彼は私を抱き直し抱えるとそのまま走り出した。


慌てて準備を整え、魔物の所へ集まってきた双子を含めた兵士たちは、魔物を一刀両断する私と団長をぽかんと見上げた。


そして後に、ケーキ入刀の前に魔物入刀をした最強おしどり夫婦として長く語られることになる

読んで下さり、誠にありがとうございました。

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