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八月の紫陽花  作者: 鷹羽慶
第三章 : 桃翼のニケ
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3:占い結果(表)

 ベランダの窓からは心地よい風が――吹いてこない。桃葉(ももは)は床の上に大の字になってぼんやりと蝉の声を聞いていた。

 用意されていたレトルトのリゾットも食べ終わり、楽しみにしていたお昼のバラエティは、なんだかよくわからない政治家の発言云々で生放送するとかで潰れてしまった。夏休みの宿題をしようにも、残すは日々の日記だけになってしまった。自習すればいいのだが、生憎今日はそんな気分になれない。父も母も早朝から仕事に出かけ、姉は補習で学校だ。

 とんでもなく暇である。

 二時からは部活の練習があると桜から聞いていたが、正直朝っぱらから喧嘩腰になってしまったが為に行くのを躊躇っていた。

 桃葉は声に出してため息をついた。

 桜より頭がいいと自分で思う。当然だ。通学時間や部活、学校イベント等々……通信制にはそれらが無い。六年分ともなれば相当な時間が桃葉には出来るのだ。その時間を決して無駄になどしていないし、しているつもりもない。出来ない部分があるから、出来る部分を人一倍やるのだ。ただそれだけのこと。運動が出来ないから、勉強を頑張った。外に出る機会が無いから、毎日散歩に行くことにした。選手になれないから、解説や分析をしてサポートしていこうと決めた。

 ただそれだけの理由なのだ。

 別に深い理由があるわけでもないし、出来ないから間違っていたからと嘆くこともない。

 なぜなら自信があるからだ。

 あたしが言ったことに間違いはない、と。

 自信が持てる程の努力はしてきている。だからこそ、桜が軽くあしらう度にイライラしてしまうのだ。だが、そういう時はいつも後悔ばかりがやってくる。

 桜が四番になった時、飛び上がって喜んだのは桃葉のほうだった。

 二人三脚で常々、全国大会を目指している二人にとって、四番の座は大きい。桜の日頃の練習の賜物と、桃葉のサポートの成果がチームで証明されたということだ。その力を今度は全国へ証明する番である。全国の舞台へ立つ条件の一つに四番の力量も入っていると桃葉は考えている。

 だが最近、桃葉はその自論を疑い始めていた。

 桜の不調は初めてではない。それでもこれまでになく立ち直りが遅いのはプレッシャーからではないかと思うのだ。

 これまでと違い、高校の野球部ともなればプロへの直結の道が見えるもの。引退を控えた三年を踏まえてのチーム編成で、二年時から四番を張ることの責任は並大抵の事ではない。それに加えて、桃葉が叶えられぬ選手としての夢も一緒に背負っているのだ。

 あたしが居るから桜は伸び伸びと野球が出来ないのだろうか。

 嫌な考えだ。桃葉はすぐに頭を振った。なんだかんだ言いつつ、桜は桃葉のサポートを頼りにしてくれているし、結果に繋がったとも言ってくれたことだってある。それが姉妹だからという訳ではないことは分かっていた。

 でもお姉ちゃん、抱え込むタイプだしなぁ……。

 またしても桃葉は頭を振った。そのためにあたしがいるんだ。桜の練習の時間まであと少し。「冷めてるくせにっ」と一声あげて起き上がると大きく伸びをした。

 ダイニングテーブルに置かれていた携帯が鳴ったのはその時だった。

「あ! お姉ちゃん、何かあったのかな?」

 弾かれたように携帯に飛びついた桃葉はその場に凍りついた。

 桜の名前はそこにはなかった。

 代わりに、綺麗に十一個、四の数字だけが並んでいた。

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