戦果は甘い果実じゃけえ
「なんと凛々しい…」
「めちゃくちゃイケメンじゃない?」
「生きている間にガルシア侯爵家の勇姿を見られるとはの…」
帝都は真夜中だというのに光に満ち、帝都中の住民が俺たちの行列を歓声で出迎えてくれた。
「賊を成敗したくらいでこの騒ぎとは、帝都住民の程度が知れますね」
「まったく、先代がこの光景をみたらどう思われた」
アドナイアスとガルバリウスは武装したまま馬に乗って俺の左右についた。
「あのさ、俺いつまでこの格好でなくちゃいけないの?」
俺は戦装束のまま馬車から取り外したペガサスにまたがっていた。生首を包んだマントを槍に引っ掛けて…
時々、マントから染み出した血液が俺の肩や胸にかかる。すでに俺の鎧やマント、ペガサスは血まみれになっている。時折、少年たちが恐怖のまなざしで俺を見ているのは勘弁していただきたい。
てか、首くさい。なんか透明な汁が染み出してるし。
「宮殿につくまではそのままでいてください。重ければ馬の鞍にくくりつけても良いですよ」
ペガサス可哀そうじゃん。
「もっと手を振ってくだされ。侯爵を継ぐ前のよいデモンストレーションになるでしょうからな」
ガルバリアスは槍を持ってない方の俺の手を持って無理やり振った。通りの女性たちの歓声が聞こえる。
……侯爵も良いもんだな。
「スケベ顔はやめてください王子のイメージが壊れます」
「いや、王子のイメージってどんなんだよ」
「怜悧、冷徹、クールの権化。刃向う人間には女子供にも容赦はせず。血と悲鳴によって帝国中に名をとどろかせたガルシア家のリーサルウェポンです」
「……侯爵家を継ぐのが俺でよかったんじゃね?」
「……皆そう言っております」
王子もかわいそうな奴だったんだな。俺が王子と出会ったときはもっと優しいやつに見えたんだけど。
「そろそろですよ。私が教えたとおりにしてくださいね」
帝都に入る前にアドナイアスから、戦の作法を叩きこまれていた。
「うん、質疑応答とかなかったら大丈夫だと思う」
「なに、あちらも形ばかりの儀式を整えるので精一杯でしょう」
昔だったら、
「こたびの戦で一番手ごわかったのは誰じゃ?」
「戦場に行かせてくれなかった我が細君でございますww」
みたいな粋なやり取りがあったらしいけど、今回はそういうことはないとのこと。まあ、いきなり帝都を襲撃されたらしいし簡単に済ませるだろうとのこと。
「あれが帝国宮殿の正門、ゼカリア門です」
40メートル近い高さの門が俺たちの眼前に広がった。真っ白な石材で出来た門はレリーフや人物の彫像で飾られており、門の周辺は一際明るく真っ白に輝いている。
「…すごいな。俺の世界にもこんな建築物はなかったよ」
「120年かけて完成した門ですからね。そんじょそこらにあるものじゃありません」
「宮殿の前にいるのは?」
門の入り口には、真っ白な鎧を着た兵士たちが並んでいる。
「皇帝陛下の近衛兵でしょうな。今から宮殿に案内されます」
「うおー緊張する。アドナイアス」
「はい?」
「はぐれんじゃねえぞ」
俺はアドナイアスにウィンクした。
「…きっしょ」
ゼカリア門だけが俺を受け止めてくれた。
一番偉そうな初老の老人が胸に手をあてて一歩前に出る。
「ガルシア侯爵家嫡子。ガルシア・デ・トールバルド・ミヒャエル殿!この度の働き見事でござった!」
「はっ!」
俺はガルシア家の一団から前に進み出て一礼する。
「シベリウス神聖帝国皇帝。ラルヴァンダード様がお待ちでございます」
「ははっ!」
俺は老人の右側に馬を近づけて門をくぐる。門の中は武器を持った神様っぽい人のレリーフが一面に施されている。
「ところでミヒャエル殿」
「はい」
「400年ぶりの戦はいかがでござった?」
おじいちゃんはにやりと笑った。
……光れ、俺のウイット!!
「はっ、歯ごたえがなさすぎます。あれなら、ベッドで一汗かいたほうがまだ骨が折れます。…はっはっは」
「……さようでござるか」
すべったな。てかドン引きしたな。
宮殿の前には白銀の鎧を着た一団が待っていた。俺の乗っているようなペガサスも何匹かいる。
「お馬はこちらでお預かりします」
「はい」
俺はできるだけ優雅に降りた。
「ありがとうな」
ペガサスは悲しげに俺の方を見た。
……一生懸命したんじゃけどのう、なんで、わしはこんな仕打ちを受けないかんのじゃ
的なことを言っている気がする。
真っ白な毛並みには血がところどころついて真っ黒に染み込んでいる。
「…ごめんな」
「どうかされましたかな」
「いや。参りましょう」
宮殿は光沢のある石材と絵画がいっぱいに飾られている。やっぱり文化が発展してんのかな。それとも帝都だからか?
「ガルシア侯爵家嫡男、ガルシア・デ・トールバルド・ミヒャエル殿のおーなーりー」
広間にはたくさんの人と玉座に座る人がいた。玉座はヴェールに覆われてよく顔が見えない。
「ラルヴァンダード皇帝にあらせられます」
玉座にかかっていたヴェールが巻き上がり、皇帝陛下が姿を現した。
「ミヒャエル殿、此度の働き見事であった。帝都臣民も安堵したことであろう」
皇帝陛下は褐色の肌にくしゃくしゃの黒髪とエメラルドグリーンの瞳を持つイケメンだった。
「はっ!ありがたき幸せ」
「して、ミヒャエル殿。400年ぶりの戦はいかがでした?」
……詰んだな。