イケメンには気をつけんちゃい
お坊さんのBL漫画を読んだ後、わさビーフを食べると背徳的な味がするよ!
アイゼンより☆
「ミヒャエル様」
……なんだよ。
「ミヒャエル様」
……今日は会社休みだろ。
「……ミヒャエル様!!」
ほっぺたを固い棒状のもので殴られる。
「はいいっっ!」
2メートルぐらいある天蓋ベットの脇に、メガネをかけた巨乳の牛が控えていた。鼻輪はない。
「おはようございます」
牛がしゃべった。
「う…うし!?」
牛はおっぱいを悲しそうに揺らしながら、俺を殴ったと思われるしゃもじを両手でいじり、部屋から出て行った。
「モウ、たくさんですわ」
牛が俺の部屋から出て行った後、俺はこの世界に迷い込み、王子と入れ替わったことをようやく思い出した。
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きっかけは、俺のスピリチュアルな体験から始まる。
催眠オナニーとか、幽体離脱とか、気の研究だとかに熱中していた俺はネットで「ダライラマ5世の粉」を購入し、飲んだところこの世界に降り立った。
普通ダライラマの粉なんて作らないし、買わないし、飲まないのだが、20日にも及ぶ断食の最中だった俺は、修行にかこつけて個体を腹に入れられるのならばなんでもよかったのだ。
「水と塩以外のものだったらだめらしいけど、ダライラマの粉はセーフだよね☆」
という天使の声に従い、そこそこ高額な粉を購入して飲み込んだところまでは覚えている。
目が覚めると、岩だらけの山に俺は寝ており、隣には金髪イケメンの少年が座っていた。
「おう目が覚めたか」
彼が差し出したスープをすすりながら、俺はひどく腹が減っていたことを思い出した。
「おかわり」
「ははっ、それだけ食欲があれば大丈夫そうだな」
イケメンは腰のカバンからカロリーメイトみたいな焼き菓子を出して俺にすすめてくれた。焼き菓子はねっとりとして甘く、ハーブとかんきつ類の味がした。
イケメンによるとこの国(イケメンには世界という概念がなかった)はシベリウス神聖帝国と呼ばれている国の中の、ガルシア侯爵領という場所らしい。狩りに出ていたイケメンが倒れていた俺を発見し手当をしてくれたらしい。俺はなんとなく、記憶を失ったふりをしてイケメンからの追及を免れた。
「それであなたの名前は?」
俺は話を逸らせて、カロリーメイトを口に放り込んだ。
「くだらん名前だ」
イケメンはさびしそうに笑った。
「しかし。記憶がないと」
イケメンが俺の目をじっと見つめた。
「見た限り、簡素だが清潔で、洗練された衣服を着ている。刺青や焼印の後もない。おそらくは森の隠者か修行僧の一団だったのかもしれん」
俺はインドで購入した染色、漂泊のしていない綿のチュニックと麻のスリッパを履いていた。もし、「under world collection」とか「Ajidas」とかプリントされたTシャツを着ていたら、もっと、事態はややこしくなっただろう。
この世界には精神修行のために森や山に籠る集団がいくつもあり、俺もそのなかの1人だと思ったらしい。
「しかし、お前が隠者だったとは僥倖」
イケメンが俺の肩をつかんで引き寄せた。イケメンの手には長いナイフが握られており、俺の肩をつかんだまま刃先を俺の首にあてた。
あっ、そういうこと、あーーーっな展開ね。いや、自意識過剰だろ俺。フツメンの俺。
「ちょっとやめましょうよ」
「痛みはない」
「いやそういうことでは…」
…お母さん、お父さん、ベジタリアンのおじいちゃん、俺、大人になります。
イケメンの前髪が俺の額にかかり、両手で俺の肩をつかむ。
「我、正統たる次期領主の権限を用いて汝に命ず、汝、我が影となり血脈と安息を守りたまえ」
イケメンが俺の額にキスをした。
「ぎゃああああああ」
かゆい、おでこがかゆい。イケメンなのにかゆい。
「動くな」
イケメンが自分の指をナイフで切り、その血を俺の顔中に塗りつけた。
「ぎゃああああ」
いたい、イケメンの指が切れているのに痛い。
「動くなっていってんだろ」
イケメンは俺の顎をくいっと持ち上げると、耳元でささやいた。
「誓いますと言え」
「いやです」
…たくみ、あんた人がいいけえ、絶対に保証人にはなったらいけんよ。
お母ちゃん…
…たくみ、お前は人がいいけえ、だまされんように気をつけろよ。
父ちゃん…
…たくみ、霊魂は永遠にして崇高なるものじゃけえ、困ったときは魂の言葉に耳をかたむけるんよ
じいちゃん…
俺の魂と実家がNOと言っている。これなんかあれだろ、はいって言ったら魔法少女とかにされるやつだろ。
「絶対にいやです、私は拒絶する!!」
俺はイケメンの体を押しのけて、逃げようと這いでる。
「待たんか!!」
イケメンがナイフを振り上げて追いかけてくる。
「いやだ、いやだ、いやだーーーーっ」
「ちっ、かくなるうえはっ。風霊撃っ!!」
突然、俺の頭になにかが追突し、俺の視界が揺れた。
「がっ!!はっ…」
「お前が悪いんだからな」
俺は唇に生暖かいものを感じながら意識を失った。