ブーフ・クラオト
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南に迷いの森、東には険しい山道、西と北には限りなく広がる草原に囲まれるトロイメライの街は今日も賑やかだ。
クンフト大国の支配下にあるトロイメライは商業が盛んな大都市である。
そんな大都市トロイメライの一角。
ハイルは仕留めた獲物を売るため、いつもの店に来ていた。
「いらっしゃい……。なんだお前か」
「失礼します。レールラビッドの取り引きに参りました」
ハイルは一匹一匹丁寧に縛り上げたレールラビッドを掲げた。
無精髭を生やした強面顔の店主ブーフ・クラオトは獲物を受け取った。
「年端もいかねえガキがよくやるよ」
「私には身に余るお言葉です」
そう言ってハイルは片膝を地につけて、もう片方の膝に右の手の甲を相手にみせるように置いた。
その姿をブーフは喜ばしく思っていないようで、分かりやすく眉をしかめた。
「やめろ。俺はそこらにいる男と変わんねえ一般人だ。貴族なんかじゃねえんだ。だから俺の前でそれはやめろ」
「申し訳ありません。ですが私は奴隷の身。自らの意思を持ち併せている一般人にとっては虫……いえ、それ以下の存在でございます。数ある奴隷のなかでも、財の所持を許され、才能を使うことが許されている私にこれ以上、求めること、もとい権利がございましょうか?」
「だがなぁ……」
「それとも私を買って頂けますか?」
その言葉にブーフは押し黙った。
「あ……いえ。申し訳ありません。私のような分際でこのような無礼を……」
「もういい。一体どんな風に生きたらお前みたいなガキができるんだろうな」
「嫌味ですか?」
予想していなかった返答にブーフは思わず笑みをこぼした。
「ったく。お前と話してると調子狂うぜ」
「身に余るお言葉です」