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空に映る海の中

作者: 鳥取半蔵

 頂上に見える星。浮かぶ空を掴もうと水の中から両腕を伸ばし、自分が置かれている状況に気付く。

空はそこにはなかった。海に映った空を必死に手に入れようとして、本当の空には背を向けていた。あるはずもないものを掴もうとしていただなんて、滑稽な話だ。いつのまにか自分の身体は冷え切っていて、指先の感覚は無くなっていた。太陽はない。けれど、空は青く澄んでいて、白い雲は優雅に海を泳ぐ。それを見ると、心は温かくなれるような気がした。太陽の代わりに月がある。それはかなり近く、だけど自分には届かない位置にあった。自分が欲している物がそこにあるんだとまた確信して、また広い海を泳いだ。

 かなり長い間泳いでいたと思う。しかし不思議な事に疲れは無かった。ただ体は冷たくなっていく。

 空はまだ遠かった。

 夕陽に包まれ、いつかは夜に包まれ、けれど太陽は現れず、月は近づいては来ているのに、触れられはしない。雲は依然とそこで泳いでいて、とてもうらやましかった。

 体がどんどんと冷え切っていく。もう自分がどうやって泳いでいるのか分からない。泳げているのかすらも。だけど、前へ進もうと思う。

 多分あの空へはこの海を泳いでいても辿り着けないだろう。そう思い始めていた。だけど、諦める事は出来なかった。いつしか自分は泳いでいなかった。ただ海で浮かんで、空を眺めていた。すると気付けば太陽がそこにあった。太陽は海の中にあった。それが分かった途端、月がかなり遠くに見えた。雲は消えていた。自分はどこか嬉しくなって、目を閉じた。そして海の中へ沈んで行った。意識はどんどん遠くなっていくのに、心と体が温かさに包まれて、凄く心地良かった。海はオレンジに染まり、そして静かな青になった。自分の身体が崩れていくのが分かった。

 最後に見えたのは赤い太陽だった。


 

 

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