悍ましき槍
「……見たか」
「ええ、しっかりとね……」
狼族の男を殺した女子生徒は、槍を刺したまま呪文を唱えている。
「何をする気だ?」
目を見張って見ていると、女子生徒の体が光ったのと同時に、血を吹き出して”消失”していった。
「消えた!?」
「消えたというより、槍に血液以外が吸い取られるように居なくなった……」
しばらくすると、死んだはずの狼族の男が立ち上がり、刺さっている槍を抜き取ってそのまま、何処かに歩いて行った。
「一体、何が起きているの?」
少なくとも、普通では考えられない異常事態という事実は二人の常識を覆したのだった。
◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎
翌日、学園を帰宅してから典太の家で緊急会議が行われた。
「昨日起きた事柄をまとめると、犯人は女子生徒で、狼族の男を襲って殺した。女子生徒が所有していた槍は魔法を吸収する効力がある。そして、槍が狼族の男の心臓に突き刺さると、女子生徒は居なくなり狼族の男が蘇った」
「本当、めちゃくちゃね」
冬香も思わず苦言を呈した。
「まあ、取り敢えず分かったことは一つ。犯人とでも言うべき物はあの槍だと思う」
「あの紅い槍が意思を持っていると?」
「それならある程度説明はつくんだ。あれが人に憑依するような特性があれば、殺した相手を次々に乗り移ることができる」
「でもそんな槍が実在するの?」
「それを今から聞きに行こうと思う」
裏社会のコミュニティならば、そういう怪しい道に詳しい人もいるはずだ。
「取り敢えずは武器屋が一番情報を持っていそうなんだけど、誰か知り合いはいない?」
「闇商人の武器屋なら、一人だけ知ってるわよ。碌でもない奴だけど」
「それなら話は早い。今からでも聞きに行こう」
「本当はあの女のとこになんて行きたくないけど、仕事だし仕方ないわね」
どうやら冬香は闇商人の女が好きではないらしい。
残念ながらオレの方には闇商人との繋がりはないので、選り好みはできない。
◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎
「私は外で待つから、典太一人で行って来なさい」
店の前で、冬香が閃いたとばかりにそう言った。
「別にいいけどさ、そんなに嫌なの?」
「ええ、もう全てが無理。顔も見たくない」
どうやら関係は最悪だったらしい。
「店の中に入ったら、”切れ味の良い鎧を一つ”っていう合言葉を店主に言いなさい」
「了解」
店内に入ると、内装は綺麗で普通の武器屋にしか見えなかった。
なんとなく、その辺の武具を眺めていると店主から声がかかった。
「いらっしゃい。何をお探し?」
その店主は、大変大きかった。
推定Gサイズの”凶悪な武器”を身に纏う可愛らしい容姿で、営業スマイルを持って語りかけてきた。
「切れ味の良い鎧を一つ」
「あぁ、そっち関係の人か。誰の紹介?」
「イヴの紹介です」
こういう場所では、当然本名ではなくコードネームで対応する。
「あぁ、あの貧相な娘からか」
貧相、とは主に上半身を指しているのだろう。
なんとなく冬香が嫌う理由を理解した。
「えっと、槍について聞きたいことがあるんですけど」
「うーん。私槍については分かんないなー」
可愛い、甘える声でそう言った
要約すると、金を出せ。
なのは明白だが。
取り敢えず指で十の数字を示した。
「指は五本あるものなんだよ?」
店主は胸を揺らしながら、ウインクした。
要約、五十万出せ。
いやいや、流石に高いから。
しかしこの流れでいくと良くて三十万は払わないと話を聞いてはくれないだろう。
それでは割に合わないので、攻め方を変える事にした。
「すみません。指が足りなかったものですから」
店主に百万円分の小切手を書いて渡した。
「あら素敵。惚れちゃいそう♪」
店主はあいも変わらず営業スマイルでそう言った。