見えない真実
「でも、たしか犯人はC〜Dクラスだったんじゃないの?」
「それなんだよな……」
魔法が扱える学生はAクラスの人のみ。
しかし、下校時刻に差がある為Cクラスの人間やBクラスの人間に手を出すことは不可能だ。
「考えられる可能性としては、未知の武器による殺傷、もしくは外部の犯行だが」
そもそも、犯人の動機がわからない。
学生を殺して何の利がある?
学生からの依頼か?
報酬として金を貰う代わりに人を殺す。
だとするならば、それは専門家がやるものであり、うちのボスの情報網に引っかかるはずだ。
「まあ、何れにせよ魔法の類を使ったのは間違いない。明日からはAクラスの人間を尾行してみよう」
「結局しらみつぶしになるのね。まぁ、私を除けば九人しかいないクラスなんだし、案外早く見つかるかもね」
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翌朝のAクラス下校時刻。
典太と冬香はAクラスにいる生徒の一人である、狼族の男を尾行していた。
「あいつについて何か情報はないの?」
「噂で少しだけ知ってる。たしか雷の魔法が扱えて、剣術の方も腕が立つらしい」
狼族は種族特有の高い身体能力がある為、魔法が扱える彼は学園でも指折りの実力者だ。
そう、この時は考えもしていなかった。
彼を犯人と仮定して尾行をしている最中に、
彼が襲われる可能性に。
学園トップレベルの生徒が負ける可能性に。
尾行してから10分が経った時だった。
不意に、狼族の彼の前に一人の女子学園生が現れた。
女子生徒の手には一本の紅い槍。
相手を嘲笑うかの様な、狂気的表情のまま、狼族の男に攻撃した。
「あの女子生徒が黒かしら?」
「まだわからない。でもその線が高そうだ」
「あの狼族の男なら勝手に倒すんじゃないかしら。それなりに強いはずでしょう?」
確かに、冬香の言う通りだ。
静観しているだけでも事件は解決するだろう。
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「何だ貴様は!?」
帰宅途中、俺の前を歩いていた女子生徒が槍で突然俺に攻撃をしてきた。
そいつは薄ら笑いを浮かべたまま、鋭い突きで俺の心臓部目掛けて槍を放った。
「あぁ、そうか。テメェが例の事件の犯人か」
大方、俺の実力も知らないまま襲ったのだろう。
おそらく快楽殺人の類だ。
躊躇する必要はない。全力で叩き潰してくれる。
「俺に喧嘩を売ったこと、あの世で後悔するんだなぁ!」
俺の相棒である剣を抜く。
狙い場所は奴の右手。
そこを切り落としてしまえば、相手は武器を持てず、俺の勝利が確定する。
「そこだぁっ!」
狙い通りの一閃。
しかし、それは大きな誤算が生じた。
「相打ち、狙い、か……」
奴は左手で俺の剣を文字通り受け止めた。
しかし、相手は左手を犠牲にした代わりに、自由となった右手で俺の右手を貫いた。
右手はもう力が入らず武器は持てない。
「だからどうした……」
俺はこの国では珍しい魔法使いだ。
武器がなくとも、戦える。
「食らいやがれぇ!」
左手に魔力を集めて、そのまま電気に変換。
莫大な電撃を帯びた電気の塊を、相手に向けて一気に放出。
「ほう、ようやく現れたか。魔法が扱える存在が」
その時、奴は初めて喋った。
「残念だったな。我に魔法は効かん」
俺が電撃の魔法は、奴の槍に吸収された。
「バカな……」
「貰うぞ。その体」
その後、女子生徒の槍は狼族の心臓部を一突きした。