出会いは玄関先
狭い個室の中に二人。重苦しい雰囲気を纏う男の言葉に少年、小鳥遊典太は耳を疑った。
「連続殺傷事件の犯人がうちの学園関係者だって?」
「そうだ」
連続殺傷事件。
二週間前から起きた事件で現在四人が死亡している。
被害者は全員柊学園の生徒で凶器は不明。
そんな事件の現場であり、典太も通う柊学園は冒険者や王国の騎士を育成する機関であり、戦闘技術を学べる場所だ。
「その根拠は?」
「俺が持っている情報網を使って、同業者を片っ端から探った。結果は何処一つとして白だ」
「それで残る可能性としては、うちの学園に通っている人間ということか」
柊学園に通う十八前後の学園生徒の中には実力者が多く、武器を持った程度の一般市民では力の差がある。
加えて、襲われた生徒の中にいた異能力者。
世間一般で言われている魔法使いは、その中でも戦闘能力は群を抜く。
生半可な力では到底敵わない。
「犯人の人数は不明。だが目撃証言がないところを見ると、少数での犯行の可能性が高い」
犯行現場は夜の帰り道。人目が少ない場所で襲われているというのが、既に出回っている
情報だった。
「それで、その話をオレにしたのは仕事ですか?」
「そうだ。殺人犯を見つけて殺してこい」
「……えっ!?」
予想の斜め上の答えに、思わず声を大きくする。
俺の予想では犯人の特定だったのだが。
「もう一度言うぞ。犯人を見つけて確実に始末しろ」
「見つけるのはともかく、殺すのは……」
そもそもオレは戦闘に関してはひどく弱い。
学園の成績でも、下から数えた方が早いぐらいだ。
「分かっている。だから助っ人を呼んだ。古くから付き合いのある組織にいる、お前と同年齢の腕利き暗殺者だ」
「なるほど。連携して倒せばいいのか」
同年齢なら学園にも入学でき、ターゲットを追いやすい。
「俺はこれから仕事に出かける。一ヶ月は帰ってこないから留守を任せたぞ」
「イエス、ボス」
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「とは言ったものの、どうするか」
目下の悩みは主に三つ。
一つはどうやって犯人を特定するか。
何しろ情報が少なすぎる。
さらには仲間となる暗殺者。
「絶対マトモじゃないな」
過去にも数回程度、他の組織と共同戦線を張ったことがあるが、快楽殺人者や精神異常者が大半の基地外のようなやつばかりだ。
闇組織、なんて仕事の時点で仕方ないとも言えるが。
「そして一番の問題は……」
此方側の暗殺者が犯人を倒せない可能性。
そんなことになったら確実に俺たちは死ぬ。
「でもまあ、考えていても仕方がないか。さっさと風呂に入って寝るとしよう」
そして、翌日の朝。
今日は月曜日で学園の登校日。
適当に荷造りをして学園に向かおうと、玄関の扉を開ける。
「ん?」
扉の先には一人の女の子がいた。
服装を見るにどうやら自分と同じ柊学園の生徒のようだ。
「貴方が小鳥遊典太ね」
「そうだけど、君は誰かな?」
黒髪のツインテール。
顔立ちは整っており、一度見れば印象には残るであろう容姿。
「説明されてないの? 貴方は私と一緒に仕事をする手筈になっていたはずだけど」
数秒考えて、答えに辿り着く。
「もしかして”清掃係”?」
「ええ、その通りよ。学園だと落ち着いて話し合いもできないから通学中にでもと思って」
てっきり暗殺者は男だと思い込んでいたが、見当はずれだったらしい。
パッと見は常識人のようなので、少し安堵した。
「そうだね。一応計画は練ってあるから、歩きながら話そうか」
清掃係=暗殺者です。
所謂隠語ですね。