輪廻の時間
白い彼に手を引かれながら歩くこと2時間。私の体感で、だけど。
ゴツゴツしていた大地が、次第にきちんと舗装されたものになってゆく。相変わらず、空は禍々しいけれど。
「もうそろそろ着くよ」
「!」
そんな彼の掛け声で、いつの間にか俯きがちになっていた顔を上げる。
…ここに来た時から思っていたけど、やっぱり、話で聞いていた死後の世界とは、なんか違うなぁ。地獄って、もっとおどろおどろしいのかと思ってた。
少し先に、ここからでも分かるほどの賑やかなざわめきが、奥から聞こえてくる門があった。
「大きい……!」
「ここの象徴みたいな物だからね」
ようやく門の前に辿り着くと、いかに門が大きいかが理解出来た。
門は紅色をしていて、左右に一本ずつ、白くて太い柱が建っていた。
「…すべすべしてて……軽い…?」
あまりにも綺麗だから、白い柱を撫でてみる。すべすべしてて、卵を撫でているみたいだった。軽く叩いてみた。こんこん、と軽い音がした。
陶器とも違うその感触に、私はとても興味を持った。
なでなで、なでなでと撫で回していると、放置気味だった彼がとんとん、と肩を叩いた。
「もう行くよ」
「あ…はい」
名残惜しそうに見えたのかな…最後に一撫でして、既に歩き始めていた彼の隣に駆け寄った。
チラリとこちらを見る気配がして、不思議に思って私も見上げる。
「……もう、あの柱に触らない方がいいよ」
「え?」
何を言われるかと思えば、そんな事だった。
ちょっと意外かもしれない。
「そんなに、私、未練がましく…?」
「とってもね。…あれはそんなにいいものじゃない。少なくとも、君にはね」
「それは、どういう――」
隣を歩く体がそんな意味深なことを言うから、聞き返してみたかったけど、突然聞こえてきた音にびっくりして、私の声は途切れた。
ギャロロロロローン
ギャロロロロローン
「?!」
なんとも形容し難い……強いて言うならば、錆びたパイプオルガンをかき鳴らした音、とでも言っておこうかな。とてもじゃないけど、あまり良くは聞こえない。
「この音は、今から輪廻の時間って言うのをお知らせするヤツ」
「輪廻の時間…?輪廻って、輪廻転生?」
彼は頷くと、次第に賑わいの声が増す中立ち止まって、私を見下ろした。
「生き返ることは無理だけど、生まれ変わる事、に近いことは可能だよ」
そのためには、『未練』が無いといけないけれど。
そういって、彼はまた歩みを始めた。
私は彼を追い掛けながら、今の話をもう一度考えてみた。
生き返ることはできない。
生まれ変わりに近いこと事はできる。
……生まれ変わりに近いことは、できる。
思わず手を叩いて喜びそうになるけど、ちょっと待って?
「…あのっ!それって、その、ランダム、ですか?」
「そうだね。クジで決まる」
「クジ………」
その簡易さに口元が引き攣るのを感じた。
だって、当てらしい人生がクジで決まるなんて……
そんな考えが透けていてらしい。
彼はもう一度口を開いた。
「クジと言っても、ちゃんとしたやつだよ。そのクジは引く人の良心の大きさを測って、運が良ければなりたいものに生まれ変われる。もちろん、他にも測るものはあるけどね」
割と深かった。
私は、どうだろうか。良心……足りているだろうか。
私は輪廻転生がしたい。
もう一度生まれ変わって、今世でできなかった親孝行を沢山したい。
「私は……輪廻転生、したい、です」
私の当分の目標は、良心を積むことから始まりそうだ。