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優しい季節  作者: 沽雨ぴえろ
3/7

輪廻の時間


白い彼に手を引かれながら歩くこと2時間。私の体感で、だけど。

ゴツゴツしていた大地が、次第にきちんと舗装されたものになってゆく。相変わらず、空は禍々しいけれど。



「もうそろそろ着くよ」


「!」



そんな彼の掛け声で、いつの間にか俯きがちになっていた顔を上げる。

…ここに来た時から思っていたけど、やっぱり、話で聞いていた死後の世界とは、なんか違うなぁ。地獄って、もっとおどろおどろしいのかと思ってた。


少し先に、ここからでも分かるほどの賑やかなざわめきが、奥から聞こえてくる門があった。



「大きい……!」


「ここの象徴みたいな物だからね」



ようやく門の前に辿り着くと、いかに門が大きいかが理解出来た。

門は紅色をしていて、左右に一本ずつ、白くて太い柱が建っていた。




「…すべすべしてて……軽い…?」




あまりにも綺麗だから、白い柱を撫でてみる。すべすべしてて、卵を撫でているみたいだった。軽く叩いてみた。こんこん、と軽い音がした。

陶器とも違うその感触に、私はとても興味を持った。

なでなで、なでなでと撫で回していると、放置気味だった彼がとんとん、と肩を叩いた。




「もう行くよ」


「あ…はい」




名残惜しそうに見えたのかな…最後に一撫でして、既に歩き始めていた彼の隣に駆け寄った。

チラリとこちらを見る気配がして、不思議に思って私も見上げる。




「……もう、あの柱に触らない方がいいよ」


「え?」




何を言われるかと思えば、そんな事だった。

ちょっと意外かもしれない。




「そんなに、私、未練がましく…?」


「とってもね。…あれはそんなにいいものじゃない。少なくとも、君にはね」


「それは、どういう――」




隣を歩く体がそんな意味深なことを言うから、聞き返してみたかったけど、突然聞こえてきた音にびっくりして、私の声は途切れた。



ギャロロロロローン


ギャロロロロローン



「?!」




なんとも形容し難い……強いて言うならば、錆びたパイプオルガンをかき鳴らした音、とでも言っておこうかな。とてもじゃないけど、あまり良くは聞こえない。



「この音は、今から輪廻の時間って言うのをお知らせするヤツ」


「輪廻の時間…?輪廻って、輪廻転生?」




彼は頷くと、次第に賑わいの声が増す中立ち止まって、私を見下ろした。




「生き返ることは無理だけど、生まれ変わる事、に近いことは可能だよ」




そのためには、『未練』が無いといけないけれど。

そういって、彼はまた歩みを始めた。

私は彼を追い掛けながら、今の話をもう一度考えてみた。

生き返ることはできない。

生まれ変わりに近いこと事はできる。

……生まれ変わりに近いことは、できる。

思わず手を叩いて喜びそうになるけど、ちょっと待って?




「…あのっ!それって、その、ランダム、ですか?」


「そうだね。クジで決まる」


「クジ………」




その簡易さに口元が引き攣るのを感じた。

だって、当てらしい人生がクジで決まるなんて……

そんな考えが透けていてらしい。

彼はもう一度口を開いた。




「クジと言っても、ちゃんとしたやつだよ。そのクジは引く人の良心の大きさを測って、運が良ければなりたいものに生まれ変われる。もちろん、他にも測るものはあるけどね」




割と深かった。

私は、どうだろうか。良心……足りているだろうか。

私は輪廻転生がしたい。

もう一度生まれ変わって、今世でできなかった親孝行を沢山したい。




「私は……輪廻転生、したい、です」

















私の当分の目標は、良心を積むことから始まりそうだ。









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