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優しい季節  作者: 沽雨ぴえろ
2/7

不法侵入者と事実

ここどーこだ(・∀・)




うー……頭痛い。しかもなんか寒いよ。うー……



「ねぇ」



痛いなぁ本当。どうにかならないかな……ん?あれ、え?誰か私の手掴んでる?え、ちょ、止めてよ、知らない人?



「ねえったら。起きなよ、置いてくよ?」



………え、この声、って……!!

私はカッと目を開き、声の元を探す。けど、探さなくても良かったみたい。だってそれくらい近くにいたから。…………え?それくらい、近く?



「っきゃあああああ!」


「ぅうーん、叫びはいらないかなあー」


「え、な、えっ?!」


「うん、言いたいことは分かるよ。だから落ち着こっか」



そう言われても落ち着けません。何を言ってるんだろうこの人。ってそうじゃなくて、近くないかなこのひと……。

私は彼から少しでも距離をとろうと、後ずさりながら上半身を起こす。あ、私横になってたんだね。



「え、距離とるの?傷つくな」



なんて笑ってる彼は、見間違い無く私の部屋に不法侵入していた男だった。間違いなんかじゃない。と言うか、間違いようがない。だって、白髪なんて早々いないし、わざわざ白く染める人、いないでしょう?

私が若干……いやかなり酷いことを思ってることを察したのかしてないのか、よくは分からないけど、彼はにこりと笑って、さっきみたいに私に手を差し出した。



「さ、行こう?君を迎える準備は整ってるよ」


「え?」



おや、これくらいの反応許してくれるよね…だって、え?なに、私を迎える準備って。

私は彼の手を無視して、きっと困惑に満ちているであろう顔を彼に向けた。そして気づいた。彼の後ろに見えるあれは、空、だよね?なんで紫色なの?怖っ。私はとっさに辺りを見回した。

辺りはゴツゴツとした岩、そして石。所々に草が生えてるけど、石とかのほうが全然多い。少し離れたところには川があって……さらに遠くにはぽつんと緑が見える。……森?

とにかく分かったことは、私の部屋でも家でも近所でも無いこと。日本ですら怪しい。



「…ここ、ど、こ?」


「ん、今更?」


「今更、って……!わ、私を、拉致…したの?」



すると彼は、驚いたような顔を、って、顔が分からないからそんな感じの雰囲気、だけど、そんなのを醸し出した。え、可笑しいこと言ったかなぁ?



「あれ、ボク言わなかったっけ。言ったよね?」


「え……?何の──」


「君、死んだんだよ」



────…え、?ど、言うこと?

私が死んだって、は?え?なに?馬鹿にしてるの、この人。

彼は私を無視して、私の質問にだけ答える。



「ボク言ったよね、『君の寿命はあと一分』って。君、覚えてるでしょ?椅子から転げ落ちて、お母さんの悲鳴聞くの」


「……………あ……」



言われて、やっと気づく。さっきのことだ、と。視界はブレブレだったけど、なぜか鮮明に思い出せる。私は両手で口元を押さえた。



「嘘……」


「嘘じゃないよ。…さ、行こう」



彼は私の手をちょっと強引に引いた。

でも私はそれどころなんかじゃない。自分が死んだっていう事実がよく認識できなくて、悲しさも襲ってこない。ただ、心配だった。置いてきた母が。

私の家は母子家庭で、一人っ子。私が居なくなれば、家に残るのは母一人。父はとっくの昔に亡くなっている。

彼に手を引かれながら、ぼんやりと思った。

どうにか、戻れないだろうか。



「…ねえ」


「…………」


「聞きたいこと、あるんじゃないの」


「…………」


「例えば、ここは何処、とか、ボクは誰、とか、あと」


「…………」


「生き返れないか、とか」



最後の例えに、ぴくりと反応する私。

だって仕方ないでしょ?心配なんだもん。

彼は見逃さなかった。チラリと私を見て、それでも歩き続けたから、私は期待をほんの少し、含んだ目線を向ける。私の中で、そう言うのを否定するときは立ち止まって言う、みたいなイメージがあるからかな?


期待、した。それくらい、戻りたかったの。

でも、私の期待は打ち砕かれた。



「生き返れは、しないよ」



どくん。

私は死んだらしいけど、心臓の部分が大きく脈打つのを感じた。

どうやら私の期待は、思ってたよりも大きかったみたい。ショックが凄いな。

俯き、速度が遅くなる私に、彼は淡々と私の質問にだけ答えていった。



「生き返ることは、生と死の法則に逆らうことになる。それは神に背くことと同じだからね、生き返ることは出来ないよ」


「……………」


「…ねぇ、君、大丈夫?」



のろのろと顔を上げる。いきなり何だろうこの人。今の話から凄い飛んだよね。

彼は後ろを振り返って言葉を放つ。



「ボクは今まで沢山の死んだ人間を見てきたけどさ、君みたいのは初めてかな」


「え、」


「普通はね、叫んだりして発狂しそうになるんだよ。もしくは、茫然自失、みたいな?君は、どっちも違うよね」



発狂?茫然自失?死んだら、そうなるものなの?

まぁ、そんなことどうでも良いけど。何かが、私の中でそれを認めてる。私が死んだという事実を。生き返れない事実を。

私は納得してきている自分が可笑しくて、口角が少しだけあがるのを感じた。

彼は今度は私に質問をした。



「君、名前は?」



名前?いきなりだなぁほんと。ここ何処か分かんないし、彼を知らないし、何処向かってるのってかんじだけど、私が生きてるとき、言ってたからなぁ。害をなす存在じゃないって。私もどこか警戒してないとこあるし……教えるくらい、ねぇ?



「私……私の名前は……」



そこまで言って気付く。


あれ………?私の名前………思い出せない。


すると彼は、すごく綺麗に、格好良く、にっこりと笑って言った。



「うん、知ってた」



彼の表情とセリフとがあってなさすぎて、私はまた笑った。けど、それと同時に、疑問が沸き上がってきた。




















知ってるって、なんで?あなたは一体、何者なの?






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