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OUT BURST  作者: 祭坊主
8/21

暗殺者集団

戦闘シーン少しグロいかもしれないです。

「お早うございます、アレス様」

 まだ眠気の残るアレスを起こしに来たのは、昨晩のアヤという女だった。

「マドラ様が下の階にてお待ちでございます。朝食の準備も整っておりますので、準備が終わり次第お申し付けください」

 ふすまの奥の声に、曖昧な返事をしてから、上体を持ち上げた。

 かけてあったローブを手に取り、フードを頭にかぶせる。杖を取ると、ふすまを開けて廊下に出た。

「お早うございます」

 化粧が厚くなかったので、昨日マドラの持ち物を預かっていた若い女性と同一人物だと言う事をアレスは理解した。そのままにしていた方が、良い印象を覚えるのに、と思いつつも、無言のまま横を通り過ぎて、案内された階段を降りた。

「おう、やっと起きたか」

 部屋に入ると、仕事をしているのか、たくさんの書類を手にとっては置き、取っては置き、と忙しそうにしていた。眼鏡をかけている。

「似合わないな、それ」

「これか? 気に入ってるんだが」

 残念そうに軽く持ちあげ、すぐまた仕事に戻る。

「俺は先に喰わせてもらったから、さっさと食べろ」

「悪いな、色々」

「なに、気にするな。そしてアレス、俺も行くぞ、フィケルに」

「はあ? 何のために?」

 油断して、出された煎茶を飲んでいたアレスは、思わずこぼしそうになってしまった。

「道理を問われる筋合いはない。昨日も言った通り、自分の街の周りを確認するのに、いちいち理由はいるまい。あれだけ離れた土地で、一応『お隣さん』なのでな」

 マドラの、あからさま過ぎる別の意志を感じ取ったアレスは、口を開けたまま不安そうな顔をした。が、すぐに諦めて、小さく微笑みかける。

「ありがとう」


 エンジンの音はまるで地響きのように地面を叩き、それに伴って車も前進した。揺れが激しいが、その速度は馬をも凌駕している。

「こんなモノを持っているのなら、何故馬なんて乗っていたんだ?」

 エンジンに負けないよう、アレスが大声を発する。

「だから言っただろう。散歩だよ」

 負けじと声を大きく返すマドラ。

「これなら、例の岩場まででもそこまで時間は要しないだろう」

「そうだな」

 車は、機械の街を離れて、次第にその姿が浮き目立つ自然の海へと溶けていった。

 川まで着くと、二人は車を降りた。ここから先は徒歩だ。不安定な足場を登り、山をまたいで反対側までたどり着く。

「この辺りだろうな。あるとするなら、工事が始まって、川の通り道になる付近だろうから、洞窟になっているとしても、そこまで深くは無いはずだ」

一箇所ずつ、それらしい場所をしらみつぶしに調べていく二人。だが、いくら探せど、鉱石の塊も、洞窟の入口らしいそれも、発見する事は叶わなかった。

「やはり、ただでは晒してないか」

「隠されているとした場合、魔術を使用した隠蔽である事はまず間違いないだろうな」

 そう、アレスが言いかけた時、前を歩いていたマドラがふいに振り返り、にらみを利かせた鋭い視線を、アレスの背後、遠くへ向けた。アレスも同様に後ろを向くと、そこには五人ほどの人影があった。一人の女性を、四人の、黒い服を纏った集団が追いかけている。

「レミ!」

 アレスはすぐに岩を飛び降り、その集団に走り寄った。距離は、かなりある。おそらく彼が全力で走っても、その間に黒服達とレミが接触するのは避けられない。アレスは、杖を前に突き出した。

 そこでようやく、五人も彼の存在に気が付く。だが、別段誰がどうする、と言う事は無かった。

(あの魔導師は、情報によれば低級魔導師を自称しているらしい。どうせ工事だけが取り柄のもやしだ。殺せ)

 黒服の四人は、二つに分かれた。二人はレミを追い続け、もう二人はアレスの前に立ちはだかり、腰から短刀を抜いた。

「おらあっ!」

 逆手に構えた刃を、思い切り振るう。だが、その動きと表情には、慢心が見え隠れしていた。アレスは、それを見逃さない。

 二人の斬撃をことも無く避け、散々踊らせた末、杖の先端を相手の手首に当てて短刀をはたき落した。そして、間髪いれずに両手で、両者の頭を鷲掴みにする。人の頭を掴み、圧迫するのに十分すぎる大きさをしたアレスの手には、次第に力がこもっていく。

「雇われた暗殺者か。雇い主を吐け」

「あ、あああ、あああああああああああ」

 答えさせる気があるのか無いのか、悲鳴を無視してアレスは手の力をさらに強める。

「あああああああああああああああああああああああああああああ!」

 力なく、震えながら手を頭まで持っていこうとするが、骨が砕けそうなその激痛に、なかなか思うように動かない。暗殺者二人は、暴れた。

「これで最後だ。誰に雇われた」

 アレスの両腕が、百八十度完全に開き、そして徐々に上へと持ちあがる。頭を掴まれた二人の体は、遂に地を離れた。足をばたばたと泳がせ、手で、アレスの腕を掴もうとする。

「ちょ、ちょ……ろぉ……ぉああああ」

 次の瞬間、パン、という風船が割れるような音がしたかと思うと、二人の暗殺者は、抵抗を止めて、手足を無気力にぶら下げた。

 アレスは、二人の死体を手放して、レミを追いかける残りの暗殺者の方向へと駆けだした。

 レミは林の方へと逃げ、木々の合間を縫って追っ手をまこうとしていた。だが、その地形は、彼らにとって有利過ぎた。まるで猿のような動きで木から木へと渡り、レミを追い越す。前方をふさがれた彼女は進行方向を曲げるが、その方向にもナイフを構えている暗殺者の姿がある。つい、足を止めてしまった。

「おい、殺すなよ。生きて捕えろという命令だ」

「分かってるさ。普通のナイフじゃ刺さない」

 そう言って一人が取り出したのは、先の短刀よりも刀身が一回り小さい小刀であった。ただの鉄にしては、明るすぎる銀色をしている。特殊な加工が施してあるのは、まず間違いない。

 二人が動き出したと同時に、アレスが駆け付け、ほぼその瞬間、ナイフを持った方の暗殺者を勢いそのまま蹴り倒した。そのまま倒れた奴の頭を踏みつけながら、アレスは、レミの方を向いた。そこには、彼女を盾にしようと駆けよるもう一人の姿がある。アレスは、持っていた杖を思い切り投げ飛ばした。

 まっすぐ飛んだ杖は、その先端を、ちょうど暗殺者の腕付近に命中させた。体勢を崩された彼は、転げながら、手をレミへと伸ばしながら、爆発した。

 レミが、弾け飛んだ肉片と血しぶきから体をかばっていた腕を、ゆっくりと下ろす。

 アレスは、ゆっくりと、彼女に近寄った。

「怪我は無いか」

「は、はい……」

 呆然とする彼女を横目に、アレスはつかつかと奥まで歩き、杖を拾う。が、その時だった。意識を取り戻したもう一人の暗殺者が立ち上がり、持っていた短刀をレミ目がけて投げ飛ばしたのだ。

「なっ!」

 アレスは、反応しきれず、短刀が完全に手を離れた後、走り寄り、暗殺者の胸元に手を当てた。

 グサリ、という音と同時に、再び破裂音がする。暗殺者の胴体には大きな穴が開いた。

「レミ!」

 アレスが振り返ると、そこには腕に短刀の切り傷を受けたレミの姿があった。すぐに駆け寄り、倒れかけた彼女の体を長い腕で受け止める。そこに、遅れてきたマドラが現れた。飛び散った暗殺者の死骸の破片を見やって、事の顛末を悟る。

「おいおい、暴れすぎじゃないか?」

 血肉をまたぎ、二人の元へたどり着いた彼は、さらにその空気を感じ取った。

「ただの傷じゃ無いな。あきらかに魔力の痕跡がある」

 アレスは、焦っていた。抱きかかえた小さすぎるその体を見て、体をわなわなとふるわせて、その表情を曇らせている。だがしかし、彼にはどうする事も出来ない。

(珍しいな。こいつがこんなに感情を表に……)

 マドラは、ただ茫然とするアレスからレミの体を開放させ、一旦地面に横たわらせた。彼女の息はあがり、見るからに衰弱していっているのが分かる。

「特殊な措置が必要だ。おそらく、この刀そのものに魔源石が打ち込まれているのだろう。非常に微量だが、一般人には脅威になりうるに十分すぎる」

 彼女の腕に深々と突き刺さった小刀の柄をしっかり掴み、一気に引き抜く。

「どうすれば、彼女は助かるんだ」

「先ずは単純な傷口の治癒と……」

 そこまで言いかけた所で、一瞬アレスに視線を移したマドラの言葉は止まった。こぼれ落ちそうな極大化した眼球に、それを握る潰すかのように張り巡らされた血管。充血したその状況で尚、彼は瞬きしようなどとは考えなかった。

「アレス、落ち着け。これは簡単な問題じゃない。だが解決方法が無いわけでもないんだ」

 今にも飛び付きそうな体を必死に抑えるアレス。マドラは、レミの腕に取り出した包帯を巻きつけながら、冷静に諭した。

「おそらく傷自体は、魔力を取り除かない限り絶対に自然治癒はしないだろう。これだけの傷だ。半日もすれば、菌の巣窟と化する事は免れん。だから問題は先ず、彼女の体の中にある魔力をどうやって摘出するかだ。昔ならこんな治療朝飯前だったが、残念なことに俺はもう魔導師じゃない。されば、魔術も使えん。唯一この場で魔術が使えるお前も、この傷を完全に治す治癒魔術など使えない」

 アレスは歯を、その歯自信で砕かん程に、強く、何かを噛み締めながら、だが何もせず話を聞いた。

「だが……幸か不幸か、今この状況で、彼女を殺さない手段が、わずかに一つだけ存在する」

 包帯を巻き終えたマドラは、アレスの目を強く睨みかえして、口を動かした。

「魔導草だ」

 アレスの目が、マドラの体よりも奥、その先を見据え始めた。その心は一旦現実を離れ、思考する事に全力が注がれている。

「一般人には、魔力を通すためのバイパスなど存在しない。そのため、生命力が流れる正規の道筋に、魔力と言う異物が流れ込んでいる状態だ。このままでは十分な生命力を供給できずに、数分で衰弱死するだろう。この暗殺者たちは、刀を手に持った状態で使い、催眠魔術でもかけようとしていたのだろうが、一度使用者の手から離れた魔力を操るなど、一般人にはできない。……だが、その魔力を遮り、逆方向から押し出す事が出来るのが、他でもない、魔導草さ」

 勿論、彼の言っている事は理解できた。この場で、アレスの鞄の中にある、昨日採取した魔導草と、それで作った薬を飲ませれば、彼女の体から異質な魔は消え去り、傷もやがて回復へと向かうだろう。

「だが――」

 アレスの頭の中には、二十年以上前の記憶が、フラッシュバックしていた。


暗殺者さんたちの出番終了。

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