2 あかいけど、あかくないそげきじゅう
「うん………んぁ?」
目の前が真っ白になり、意識が途切れて何処かに飛びそうになった俺は、気がつくと都会の中心街のような場所に立っていた。
さっき、意識が飛びそうになったのに道に倒れ伏せていないのは幸運だったのか、普通なのか?
……いや、そんなの仕様上ありえないな。
女性キャラだったら無防備な状態から始めることになるから、それはそれで大問題だな。
まあ、そんな俺も今は女性キャラとしてこの仮想空間に立っている…が。
仮想空間…いや、バーチャルワールドと言った方が格好が良い?
いや、ここはあえて平仮名で………いや、何でもない。
よし、自分の姿を確認する前にちょっと声を出してみようか。
「あ〜」
『おお!!』
声も女そのものだし、とりあえず設定はちゃんと出来て………え?
ネカマ?
今更聞くんじゃねぇよ。
ああ、ネット上では女そのもの。 だから否定はしないぜ。
もう少ししたら恐らく完全にモードが入る……だから、諸君。
吐かないように覚悟だけはしておけ。
あれ?
何だか、この忠告が何か物凄くおかしい気がするんだが………気のせいか?
まあ、良い。 とりあえず手始めに……物を揃えるため、ショップへ行こうか。
俺は目をつむり、左手振り上げると……目を見開いて、思い切り手を振りかざす。
………すると「うわぉ!」
ウインドウが目の前に出て来た。(注意、ウインドウは出そうと意識すれば……こんなことをせずに出て来ます)
俺はそのウインドウの主要項目の中から地図の項目を選択し、この街の地図を開く……って、げぇっ!?
「ショ、ショップが……いっぱい…」
その地図の中には武器を取り扱う店から、アバターの細かな場所を変更することが出来る整形…外科?みたいなところまで全て印してあった。
課金をし、しばらくゲーム内で使う通貨に困らないくらいにはしておいたが……求める品を探すのにちょっと骨が折れそうだな。
特に、俺が使っていたのは普通の店じゃあ置かなそうな物ばかりだから………うん。
とりあえず単純に俺は地図上で一番近い場所にある武器専門店へと向かうことにした。
まあ、案外………探し物も簡単に見つかるかもしれないだろ?
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
ウインドウに表示された地図を頼りに歩いて数分。
俺は目的の専門店にへと到達していた。
いろいろ伝えなきゃいけない部分はあるのだろうが、それは後々お伝えすることにする。
だってさ、だってさ……
「ナニコレ…………人の多さが…キモチ悪い」
何か何故か、カウンターの横には列がかなり出来ていて、可笑しいぐらいに人が密集している。
そのためなのか?
全体的にも混んでいるように見えてしまうのは……
周りのコーナーを見てみれば、そういう訳ではないらしいのは一目で分かってしまうのに……
いや、別に買い物してる奴もいるから……過疎ってて売れてないとかじゃないからな!!
……で、良く見て感じた事があるが…やたらにステータス、レベルが低い人ばかりだな。
まあ、腕は見た目では判断できないが、これはどう見ても……いや、何でもない。
とりあえず、立ち話も何だし中を見てみようか。 掘り出し物があるかもしれないし。
『ああ、始めに言って置くが、そろそろ一人称変えるぞ。』
と、まず店のカウンターの前にはサブ武器の収容に使う拳銃用のホルスターが置いてあった。
まあ、安価だから使い勝手は良いけど……デザイン性を追求?して私は買わないかな。
だって、ゲーム上での服は戦闘意外のメインでは軍服とか迷彩服とかじゃないのに安い軍モデルモドキのやつを使っても、ちょっとねぇ……これはしっかりとした物を買うよ。
妥協してはいけないものもあるんだよ。
皆さんも細かい点をこだわろうね。
続いては、拳銃コーナーに移動。(サイドアームは初心者向けの店のために無かった。何故かは知らないけど……)
……まず、当然のように置いてあったのはガバメントことM1911等を筆頭とした拳銃だったね。
何故、過去形なのかは別として、ガバメント(M1911F)は値段設定が安い割にコストパフォーマンスは良いけど、それなら私的にはハイパワーとかM92Fとかデザートイーグルとかの方がいろいろと使い勝手が良いんじゃないかと思うんだよねぇ。
ハイパワーは安い割に装弾数が多いし信頼度も高い。
M92Fは良い性能を持ってるし、デザートイーグルは威力だけ………いや、いろいろ良い感じだね。
ただし、私はグロッグシリーズ…あれだけは使わない。
あれ、何故かは知らないけど私苦手なんだよね………
ゲーム内の設定上威力が低いし、連射が早過ぎるから慣れない限り集弾性能の悪さについて行けないし…
まあ、こんな所でグタグタしてないでメイン武器コーナーにでも行きましょうか。
…………えっ?
「今ならくじをやってるよ〜!! 一人一回のみで代金は500Pのチャンス!! ちなみに特賞は………コイツだぁぁ!!」
何やら叫ぶ定員を発見。
………店員はNPCの筈だから、あれはおそらく運営のゲーム内担当者だね。
ホントに初心者や武器コレクターに対してポイント吸い上げて課金を増やす良い儲けやってるよ。
私が、そういう風に思って溜め息をつくと……店員がビシッと音がするような勢いで指を指し、その方を向く。
「……………ぶっ!?」
何と、その店員が指した場所には……
「今回の特賞は1960年代にソビエトのエフゲニー・F・ドラグノフが開発したドラグノフ狙撃銃だ。さらに、今回はいろいろとスペックを弄って向上させた特別仕様でSVD-Mよりも扱いやすくし、さらにカラーリングは青基調という……WWSでたった一つしかないDragunova_Special_Version(BlueColoring)だぁぁぁ!!」
青基調の一見変わったオーラを放つドラグノフがあった……
いつもなら、こういう物を軽く受け流す私………
しかし、今回は何故か訳が違かった。
『ナニコレ……超欲しいぃぃぃぃ!!』
何故か何か私は心の中であの青基調のドラグノフに心を奪われてしまい……制御心など何処かに軽く吹き飛ばされていた。
ただ、ただ心の中で『これ欲しい、超欲しいぃぃぃ!!』と、めちゃくちゃに叫ぶ。
子供みたいだとは言わないでよ……ねぇ。
当たるかも分からないのに少し浮かれた気分になった私は、有無も言わずにくじを引くために並んだ人々の列に並び始める。
「………一等はゴールドカラーのSIG550。二等がシルバーカラーのM4A1。三等がメイド服……えっ?」
『まあ………他のやつは別にいらないから、あたったらその場でばらまく。っていうか、メイド服当てたら当てたで……」
と独り言を呟き、その場で一人頷くと私は顔にニヤリと変な笑み浮かべる。
他人……いや、他のユーザーから見たら笑みを浮かべながら「うふふ…」と言っていたら奇妙にしか見えないかもしれない……けど、他人の迷惑など今現在そんなのは一つも関係ない。
そうだ、関係な…い。
そんな事を考えていると視線を感じ、その視線が『とても』嫌らしいと思った私は咳ばらいを一度する……
そして、すぐに他人が寄せていた視線が何処かに散って行った事が分かると、青を基調としたドラグノフをMMOFPSで敵を狙撃する時のように一度、睨みつけた。
それは、まるで……『奴を絶対に逃がさない』と決めたあの時の私のように。