プロローグ
プロローグ
レラ大陸の最北端に位置するユナリス村の夜は早い。
空が闇に染まる頃にはみな家路につき、月の光が現れる時間にはすっかり静寂に包まれる。
そのユナリス村の夜――
空が、ゆがんでいた。
星のまたたきがかすみ、月の光がうねっていた。
星が見えなくなる。そうかと思うと、再び顔を出す。
まるで見えないカーテンが空に掲げられているかのように、不自然な何かが空の光を遮っているのだ。
それは、事情を知らぬ者が見れば、異様な光景と目に映るかもしれない。
だがユナリス村に住む者にとっては、日が暮れた後に空を見上げれば常に視線の端につきまとう、いわば日常の風景そのものであり、その存在に疑問を持つ者もいなければ、不吉の予兆として恐がる者もいない。
その現象は一般に、リップル現象と呼ばれている。
リップルとは、世界のどこかにある源泉より吹き出していると言われている、浮遊物質のことである。
全世界、どこにでも存在しているが、基本的には無色透明であり、訓練を受けない限り昼間のうちに見ることは難しい。
夜になり濃度が上がると、空をゆがませる現象として、だれにでも見ることが出来るようになる。
ユナリス村の周辺は、リップル現象が多く確認できる場所の一つである。
《ライゼ》が近くにあるといわれているが、確認はされていない。