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片腕の救世主  作者: あに
第1章 逃亡編
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第6話『黒と黒』




「では次の方、どうぞ。」


「隣のは俺の連れで、はいこれ二人分。」


収納袋からギルドカードと通行証を取り出した。

入念にチェックされた後、お通りください、とにこやかに言われる。



大きな扉をくぐれば、そこはシュトレイン国の心臓、王都だ。













「やっぱ馬は駄目だな、ケツがいたい。」


ずきずきする尻を擦りながら門を通る。

フィニアで買った馬はかなりの暴れ馬で、何度か振り落とされそうになったが睨んだら大人しくなった。

それでも乗馬はやはり俺の尻には優しくなかった。


乗馬が得意なカザスは何ともないようで、依頼書を見ている。


「今度馬に乗るときはお前だけで乗れ。俺はシグニスに乗る。」


シグニスというのは俺の召喚獣の一匹で大きな銀狼だ。

毛並みがかなりよくてあいつなら長時間跨ってても苦にならない!と、思う。


「とにかく、王都も久しぶりだぜー。」


「はい、来ることはないと思っていましたから。」


かつて俺が召喚されたのはこの王都にある城の地下だった。

それからはずっと戦いを強いられていて、王都の街並みをこの視点で見るのはきっと戦後以来だ。


「やっぱ変わるもんだな。」


「はい。」


「こんなに平和なのに、何が不満なんだろうかねぇ。」


とりあえず依頼を終わらせるために鍛冶屋を探すか……




あ、あれは!!?



「カザス!カザス!あれ食べよう!」


「トリの実のお菓子ですか。」


トリの実とはこの世界で俺が一目惚れしたかなり好みの甘さの実で、月に一度王都からくる商人からしか手に入れられないものだ。

俺が生成してもいいのだが、やはり天然モノに限る。


カザスを引っ張って財布を出させる。


「お姉さん、これ10個。」


「お姉さんだなんて、うまいこと言うねぇ、2個おまけしちゃう!」


さんきゅーおばさん!


金を支払うカザスの横でおまけに貰った分を食べる。

桃まんのような形と色で、まったく甘すぎず絶妙な美味しさだ。


「師匠、鍛冶屋はこの通りの先だそうです。」


道を聞くのも忘れないとは、成長したな。

ほら、とおまけの1個をカザスに渡した。


2人でトリの実菓子を食べながら鍛冶屋を目指す。


今の俺はフードをし、カザスはそのままの姿でいる。

黒い髪と黒い瞳の組み合わせはこの世界には存在しないらしい。

黒い瞳はあるらしいが、俺が救世主をしていた時、めっちゃ黒髪黒眼さらしていたので、隠す必要があった。


魔石で染めてもいいのだが、面倒だ。


カザスの場合、金髪はよくある色らしく、目立つとしたら本人の容姿だけなので気にする必要なし。


「もぐもぐ……あとで宿も取った後にギルド行くか。」


「依頼主に場所を聞きましょう。」


「そうだなーもぐもぐ。」




しばらく歩くと武器が飾られている建物を見つけた。

入ってみると結構綺麗に整頓されている店内だった。


店員はおらず、カウンターに置いてあってベルを鳴らしたが、何分か経っても誰も出てこない。


「留守か?にしても、鍵かけねぇなんて不用心だぜ。」


ベルを鳴らし続けていたら、店内の2階あたりから魔力を感じた。

これは魔石の反応だな。

カザスも気づいていなかったみたいだし、かなりの使い手か……?


「カザス、下がってろ。」


後ろに下がったのを確認し、魔法を発動させる。

指に小さな風を生み、それはナイフのようにとがった形を成した。

それを天井に向かって向ける。


「『斬り裂け』」


風は円を描いて天井を円形に切断し、パラパラと木の粉と、重力に逆らえなかった天井が抜け落ちてきた。




ドガァアアアアンッ!!




砂埃が収まり、そこには仰向けに気絶している少年がいた。















―――――――――――――――――――――――











ジェティと生活するための最初の問題は宿だった。


どこも長期滞在するには今あいていないらしく、さまよっていたところを鍛冶屋のおじさんに助けてもらった。


店の手伝いをするという条件付きで、お世話になることになった僕たち2人は相変わらず隠れながら暮らしている。


「ちょっくら買いだし行ってくるから店番頼むぜ。」


カバンを持っていうおじさんの後ろには茶髪のジェティがいた。


「はい。」


「私もついて行くが、大丈夫か?」


「うん、いってらっしゃい。」






と、任されたのは良かったのだが……






昨晩徹夜で魔力の制御の仕方の本を読んでいたため寝不足だった僕は店番を任されたにもかかわらず、2階の部屋で寝こけてしまった。




ちりーん。


ちりーん。




「んー……」






ちりちりちりちりちりちりちりーん





「はっ!!?」


ヤバい寝てしまった!

急いで起きて、下に行こうとするが、今日は髪を染めるのを忘れていたため、急いで魔石で髪を染める。


……と、次の瞬間だった。



床を突き抜けて僕を囲むように風が起き、床ごと落ちていくような感覚に襲われた。

怖くて動けずにいたため、床と一緒に落下し、バランスを保てず後頭部から落ちていった。



この世界に来てから後頭部にこぶを作り続けている僕だった。














―――――――――――――――――――――――








落ちてきたのは茶髪の少年。


「なんだ、いるじゃねぇか。」


後頭部から落ちて気絶で済むとは、こいつはかなり丈夫なやつだな。

その手には魔石が握られていて、魔力の質から言って染色専用の魔石だとわかる。


「カザス、扉閉めとけ。」


「はい。」


かちゃりと音がした後、とりあえず床を元に戻し、少年の下に外套を敷いた。

カザスのも畳んでまくら代わりにし、茶髪に染まっている頭に魔力を当てる。


「やっぱりな。」


染色魔法が解け、現れたのは俺と同じ真っ黒の髪だった。


「今日は運がいいぞ、探し物がすぐ見つかった。」


「師匠と同じ色ですね。」


「これが日本人。」


驚いているカザスが面白くて、自分の黒髪を指さして笑う。


「ぅ……」


物珍しいのか俺と少年を見比べるカザスに笑っていると、少年が動いた。


「おい、大丈夫かー。」


意識が朦朧としているのか視点が定まっていない。

しかたがない。


「俺の愛の張り手で……」


「ぎゃあああああああああああ!殺さないでぇえええええ!」


「うっせぇ!!」


ゴンッ!


いきなり発狂しだした少年の頭を思わず平手の形をげんこつにして叩き沈めたが、こいつ……石頭か?!

かなり痛ぇんだけど!

俺の拳で沈んだが、今度は意識があるらしく、頭を押さえて俺を茫然と見てくる。


俺の髪を見ているのだろう。


「あれ…………黒い。」


「そりゃ日本人だもんよ。」


「あ、僕もです。」


「やっぱ日本人は黒だよなー。」


「そうですよねー。」


「「あはははははは……・」」








バタン







「慌ただしいやつだな。また気絶しやがった。」















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