第5話『僕と彼女』
―シュトレイン国王都 中央街―
王都で一番の大通りの中央街はいろんな町や国からの行商が並んでいる有名な場所だ。
旅装束を買い、魔石で髪の色を茶色に変えた後、これからのことを話し合うべく、現在大きな食堂にきている。
私、ジェスティア・ルンブルクはシュトレイン王国第1王女殿下付の近衛騎士団の騎士だ。
殿下とは私が見習騎士の時から親しくさせて頂き、し、親友といわれる程に良くしてもらっている。
現在私が殿下の護衛から外れているのは、目の前にいる異世界からの救世主様を安全な場所まで連れて行くという役目をいただいたからだ。
ここまで来るのに立ち寄った店を見回してはこれはなんだ、あれはなんだ、とまるで子供のように聞いてくる。
楽しく歩いていると思ったらいきなり壁に隠れたり、私の背後に移動したりと不思議な行動をする。
私が魔石で髪を染めるのを見て『魔法みたいだ!』と喜んでいた。
みたい、ではなく実際にはこれは魔法だと言ったらさらに喜んでいた。
レン・キリヤは今は髪を私よりも濃い茶色に染まっているが、黒い髪に黒い眼という、10年前にいた救世主と同じ容姿だった。
水をうまいうまいと飲み、ただの肉の料理にも目を輝かせて食べている。
おもしろいやつだ。
「ジェスティアさんは……」
「ジェティでいいです。」
「じゃあ僕はレンですよ、様とかなんか合わないっていうか。」
そう言って肉をつついている姿は、本当に救世主として呼ばれたのか?と疑問を持たせる程だった。
しかし、身体は腕を見る限りかなり鍛えられ、第2王女の騎士団長を膝まづかせたと聞いたが、あながち嘘でもないらしい。
「あと敬語も……たぶん同い年くらいだと思うから。」
「そうか、実は私もかしこまった話し方は苦手でな。」
どうやら心も豊かなようだ。
「ジェティって僕と同い年なのに騎士なんてすごいよね。」
「そ、そうだろうか。私より幼くして騎士団に配属されている者もいるからそんなふうに思ったことはないな」
よく言われるのは『女』であること。
女のくせに騎士になるなんて、と家の者や同僚に言われてきたが私は殿下に恩を返さなければいけない。
恩返しというよりも、殿下は私にとって友であり、母のような存在なのだ。
なんだか私自身を見てくれている殿下に似ている。
「レンも身体を鍛えているようではないか。私は体格的に力の付き方に限界があるが、君はそう見えない。」
羨ましいと言うとレンは顔を真っ赤にした。
「僕は鍛えても、いざ戦うぞって時になると、動けなくなっちゃって……暴力が怖いんです。」
「レンは優しいのだな。」
「いえ、あの、弱いだけなんです。」
居づらそうに俯く姿に、何も言えなくなった。
「身体を鍛えてればいつか心もついて行くかなって思ってたんですけど。」
「焦ることはない。きっとその時になれば、君の答えが見つかるさ。」
それまでは私が君を守ろう。
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本当に異世界に来てしまったのだと実感がわいた。
初めてのテレポートで空間酔いというものを体験して、ジェスティアさんに背中をさすってもらった。
浮遊感と何かが曲がり出てくるような感覚に耐えきれなかった。
情けない……
小さな路地裏のような場所に転移したらしく、ジェスティアさんは僕にここで待てと言い、数分いなくなった後、マントを抱えて帰ってきた。
僕がマントを着ている時、隣でジェスティアさんは小さな石を取り出して何かを言うと彼女の綺麗な赤い髪が茶色に染まっていった。
「えっ!何それ!!?」
「あ、はい、染色用の魔石です。瞳の色は変えられませんが、黒い眼は探せばいますし。」
魔石は魔力が凝縮された希少価値の高い物らしい。
僕の髪に魔石をあて、呪文を唱えると、僕の黒い髪が焦げ茶に変わっていった。
すごい!
「魔法みたいですね!」
「魔法ですよ。」
うぉおお!なんかテンションあがってきた!
本物の魔法だよ!
さっきも転移魔法?っていうのかな、それを体験したけど、その後が最悪だったから……
すごいな。
「これは魔力がなくならない限り何度もつかえますから。」
1つだけプレゼントされ、ポケットに大切に入れた。
服装と髪を確認した後、裏路地を出て大通りらしき場所に入った。
ファンタジーみたいに剣を持ってたり、ピンクや青い髪の人が不通にいたり、なんか馬じゃなくて恐竜みたいなのが馬車をひいてたりする。
きょろきょろ見ていると時々ジェスティアさんがその店は武器屋です。とか説明してくれる。
立ち止まれば彼女も立ち止まってくれた。
しかし、その分冒険者っぽい厳つい顔をした人とすれ違う度、なんだか睨まれているような気がして、つい隠れてしまう。
壁に隠れられない時はジェスティアさんの後ろに隠れてしまう。
なんて男なんだ僕は。
必要な買い物を終えたのか、食事をしようとレストランぽいところに入った。
知らないメニューばかりが並び、とりあえず水を一口飲んだ。
「……うまい。」
何これ、天然水よりなんか透き通ってて甘い感じがする。
地球って水がまずかったのか……?
運ばれてきた肉料理に恐る恐るフォークを差すと、見た目よりも柔らかかった。
食べると牛肉のような味がして、しかもとてつもなくうまかった。
食べているのに夢中になっていた僕はジェスティアさんの視線に気づいた。
あ、そうだ。
「ジェスティアさんは……」
「ジェティでいいです。」
そういえばお姉さんもそう呼んでたな。
「じゃあ僕はレンですよ、様とかなんか合わないっていうか。」
ってか女性に下の名前で呼び捨てにされるのって母さんしかいないし!
うわ、なんか恥ずかしくなってきた。
肉をつついて心を落ち着かせる。
「あと敬語も……たぶん同い年くらいだと思うから。」
「そうか、実は私もかしこまった話し方は苦手でな。」
な、なんか話し方が男前すぎる。
格好いい!!
「じぇ、ジェティって僕と同い年なのに騎士なんてすごいよね。」
「そ、そうだろうか。私より幼くして騎士団に配属されている者もいるからそんなふうに思ったことはないな。」
へぇー。
僕ぐらいでもう働いている人がそんなにいるんだ……
でもジェスティアさん……ジェティもすごいよな。
「レンも身体を鍛えているようではないか。私は体格的に力の付き方に限界があるが、君はそう見えない。羨ましいよ。」
やっべぇええええ!
すっげぇ嬉しいんですけど!
女の子に褒められるとなんか恥ずかしさ半分嬉しさ半分だ。
「僕は鍛えても、いざ戦うぞって時になると、動けなくなっちゃって……暴力が怖いんです。」
「レンは優しいのだな。」
優しい……とは違うな。
弱虫なだけなんだ。
「いえ、あの、弱いだけなんです。」
な、なんか自分が情けなすぎる。
「身体を鍛えてればいつか心もついて行くかなって思ってたんですけど。」
「焦ることはない。きっとその時になれば、君の答えが見つかるさ。」
そう言われてなんだか少し心が軽くなった。
「それで、今後だが……王都を抜けることは難しい。警備が厳重になってしまっているから、通行証がないと通れないだろう。」
「どうすればいいんだろう。」
ジェティは地図を広げ、王都はここだと指でさす。
この大陸は東西南北にきっちり分けられて見えるほどに奇麗だった。
この国は東の国と呼ばれ、この国から出ることが今の目標。
王都の門の前には兵が警備を厳重にしたせいで、検問も厳しくなっているとか。
「しばらくは出られないだろう。長期滞在できる宿を探して方法を考えよう。」
「そうだね。」
「すまない、君を安全な場所に送ると言っておきながら……」
地図をしまいながらジェティは申し訳なさそうに言った。
ジェティはまったくもって悪くない。
こんな僕を召還した人たちのせいにすべきだろう。
「レン、君が安全になるまで私が君を守る。約束するよ。」
それはまるでプロポーズのようで、固まってしまった。
そして、今日から僕とジェティの二人暮らしが始まった。