第4話『初ギルド』
フィニアの町外れに住んでいる俺はカザスと違ってあまり家を離れない。
出歩くのが面倒だというのもあり、、町に行くのはたまに暇つぶしで月に2・3度。
たまに商人が増えていたり、子供がでかくなってたりして、その変化を楽しんでいる。
今日町に来たのはギルドに登録するためだ。
カザスを連れ市場を回りながら食料を買い、旅支度を整える目的もある。
「テントはいらねぇし、食料もオッケー、あと何が欲しい?」
「現地調達で十分かと。」
「んじゃ、ギルド行くか。」
町の中央に向かう大通りを歩き、所々にある武器屋や道具屋を横目に見ながら珍しい物を探してしまう。
ふと目に入ったのはこじんまりとした店で、近付いてみると魔力が漂っているのに気づく。
「へぇ、魔具専門の店もできたのか。」
魔具は魔力が込められた石、魔石を使った魔法の道具だ。
主に武器などに使われているが、モンスターや精霊の魔力が影響していて、手に入れるのは困難とされている場所にあることが多い。。
かく言う俺も、前は魔石狩りじゃーっとモンスターの巣を荒らしてたな。
今では俺自身で生成することができるし、金に困ったらそれを売ればいい。
ちなみにカザスは俺の作った武器を使用している。
全体が高密度の魔石で作られた、黒い大刀で名は魔剣シュヴァルツ。
魔法無効化と固定化をかけている為、俺ず、魔法も打ち消せるという優れもの。
邪魔ならば指輪に変えることができるのに、こいつは背負っている。
なぜかと聞いたら、この方が落ち着くから……らしい。
意味がわからん。
「町の通りにも行商が増えたし、にぎやかになってるな。」
「はい。」
「お、ここか。」
町の中でも一際大きな建物を見つけた。
木造だけど固定化かけてあるな。
「どうぞ。」
ギルドの支部を見ていた俺より先にカザスは扉を開けて待っていた。
扉もでけぇし、初めてギルド見たけど、結構本格的なのな。
建物内も広く、かなり多くの冒険者らしき人間が談笑したり、喧嘩したりしている。
「知り合いいるか?」
「いえ、興味ないので。」
無表情で俺と話す以外無駄なことは口にしないこいつに知り合いができるわけないか。
しかし、こいつの知らぬところで有名にはなっているらしい。
カザスが入ってきた瞬間、ちらちらとこちらを見たり、仲間とそわそわしているやつらがいる。
どうでもいいけど。
「俺、受付済ますけど、依頼見てくるか?」
「はい。」
カザスが離れた後も俺をちらちら見てくる奴がいるのはなぜだ。
「受付ってここ?」
いかにもといった感じで女の子が座っているカウンターに向かい、尋ねると、笑顔で肯定してきた。
「本日はどのような御用件で?」
「ギルドに登録したいんだけど。」
「新規ですね、ではこちらにご記入お願いします。」
そう言って一枚の紙を渡された。
ペンを渡され、交互に見比べるが……困った。
今まで左だけで生活していたが、文字の練習は何度しても上達せず、謎の古代文字のようになってしまうのだ。
せっかくこっちの言語を理解して読めても書けない。
「お姉さん書いてくれないの?」
困ったように笑う受付嬢。
「本人様のご記入となりますので。」
「代筆とかは?」
「可能ですが、こちらでお願いします。」
「良かった。」
カウンターに肘をつきながらあたりを見渡す。
紙が貼られている掲示板のような場所に一人、謎の空間を作っているカザスがいた。
Sの文字が刻まれている板に張られている紙をじっと見ている。
周りの人間は近寄りがたいのだろう。
いくら男前でも纏っている空気がバリヤー的なものを作っているに違いない。
「カザス!こっちこい!」
すぐに振り向いて早歩きしてきたカザスにペンを渡す。
「代筆可能だってよ。」
「すみません、書類記入があることを忘れていました。」
そう言って記入を始めた奴を受付嬢は驚いたように見ている。
「師匠、この代筆者との関係という枠はどうしましょう。」
「んー師弟でよくね?ただの書類だし。ほんとのことだし。」
「わかりました。」
「家族でもいいけどな。」
「怖れ多いです。」
「なんだそりゃ。」
固まっている受付嬢に紙を渡すと、はっとして慌ただしく手続きを済ませていった。
「こちらがギルドの証明書のカードとなるので、なくさないようにしてください。失くしてしまった場合、カードの再発行は可能ですが、紛失したカードの使用停止と、再発行のための料金として銀貨10枚かかりますので。」
銀10枚か。
銅貨が100枚で銀貨1枚、銀貨1000枚で金貨1枚だったっけ。
最近金使うのはカザスに任せっきりだったからな。
結構安いな。
「依頼受領手続きについての説明はしますか?」
「いや、大丈夫。」
常連のカザスがいるからな。
「では、ギルドランクはFランクからとなります。クエストごとにポイントが記入されており、達成しますとポイントが加算され、一定のポイントまで獲得しますと、ランクアップになります。」
経験値稼ぎみたいだな、簡単な構造でわかりやすい。
「依頼は自分のランクより2ランク上まで受けられますが、パーティを組んだ場合、その平均のランクの2ランク上まで受けられますので初心者の方はパーティを組むことをお勧めしております。」
「パーティって手続き必要?」
「いえ、依頼受領時に申請していただければいつでもパーティを組むことができます。」
以上です、と説明が終わると俺は礼を言ってカザスが見ていたクエストボードという掲示板の前に来た。
かなりの数の依頼が並んでいて、悩む。
「西に行く依頼あるか?」
俺より身長が高いカザスに上の方を担当させ、西の国境をこえるための通行証を発行できる依頼を探した。
あまりの量に、重なり合っている紙もあるためいちいちめくりつつ確認する。
「南と王都行きの護衛とモンスター退治がほとんどです。」
「んー。」
俺たちがパーティ組んだとしてもカザスはSS、俺はF。
平均でCランクなわけだから、2ランク上、つまりAランクまでで探さなければいけない。
「西はないか…王都に行ってそこからの依頼探した方が早いな。」
「いいんですか?」
「しょうがないだろ、王都に寄る用事もあるしな。」
王都行きも条件追加、と言えば、カザスは一枚の紙をはがした。
依頼内容
調達と王都までの配達。
依頼人
鍛冶屋ドン。
依頼物
東の町フィニア付近の森に生息するゴブリンの巣で採れる魔石を親指の大きさで5個。
ランク:B
「そういやずっと前にそんなもの手に入れたな。結構でかかったからそれ1個でもいいかな?」
「はい、小さな魔石5個よりも大きな魔石1個の方が希少価値が高いですから。」
「決まり。」
再び受付嬢のもとに行き、受領手続きをする。
「パーティで受領ということでよろしいですね。」
「そう。平均でCランクチーム、Bランク依頼ね。」
「はい、確かに。ではこちらが依頼受領書となります。依頼主にこの受領書を渡して以来確認を行いますのでなくさないよう注意してください。」
「いやぁ、ゴブリン様様だな。」
依頼もすぐに決まって、これであとは町に出るだけだ。
そんな俺たちは一服するためにギルド内の2階にある酒場で酒を飲んでいた。
カザスもシュヴァルツを立てかけ、水を飲んでいる。
ちなみにカザスは酒を飲まず、いつも茶か水しか飲まない。
俺はこちらの世界にきて、未成年のうちにがぶがぶと飲んできた。
今じゃ精神年齢は26歳です。
「丁度いい依頼が見つかってよかったぜ。」
「王都でも西行きの依頼があればいいですね。」
「なかったら南にでも行くか。北は寒そうだし。」
「はい。」
ジョッキを傾け一気に飲んでいると、階段をうるさい足音が駆け上がってきた。
カザスがコップを置き、俺を隠すように座り直す。
「師匠。」
「任すよ、俺飲酒中はやる気なし。」
「はい。」
4人組のいかつい鎧を着た冒険者らしき男たちが2階に上がってくるなり周囲を見渡し、こちらを見た瞬間向かってきた。
ドスドスと迷惑な音をたてて俺たちのテーブルの前に立った。
腰には自分で狩ったのだろう魔物の牙が装飾品のようにぶら下がり、剣も年季が入ったように使い古されている……が、こいつには合ってない。きっと追剥かなんかして手に入れたのだろう。
「おい、てめぇ、Bランクのクエスト受けた奴ってのはてめぇだろ。」
ああ、そういうこと。
俺は納得したようにため息をつくが、カザスは無表情のまま眉一つ動かさず彼らをじっと見ていた。
「あれは俺たちが狙ってた依頼だぞ!どうしてくれんだ!」
「なんか言ったらどうだ?!」
カザスの胸倉を掴み、椅子から立たせると、壁に叩きつけた。
それでも表情を変えないこいつにイラついた態度を隠せないらしい。
ってかカザスがどいたから俺丸見えですよ。
「あ?てめぇ、こいつの連れか?」
「俺がそいつの連れっていうか、そいつが俺の連れ。」
「じゃあ、てめぇが俺たちに謝罪するんだな。」
何が謝罪だよ。
男たちは俺を取り囲み、武器に手を出さないものの、雰囲気は戦闘モード。
そして、男のリーダー格っぽい奴が俺の外套を掴み立たせた。
「ん?」
違和感に気づいたのだろう、外套を放した。
「おい、こいつ腕無しだぜ。」
「それでギルドに入ってんのか?馬鹿じゃねぇの!」
馬鹿にした笑い声は俺の心には入ってこない。
俺よりもキレるやつが隣にいるのだから。
「何言ってんだ?俺にはあるぜ、立派な“腕”が。」
ドカッ!!
その時壁に叩きつけられていたカザスが、つかんでいた男を逆につかみ俺の目の前にいる男に向かって投げ飛ばした。
さらに背後にいた男2人も頭を掴み壁に叩きつけた。
勢いと衝撃で頭は壁の中に埋め込まれ、カザスが手を放すとそのまま頭は壁の中だった。
「カザス、壊すなって言ってあるだろ?直すのは俺なんだから。」
「すみません。」
襟をつかんで男たちを壁から出すと完全に鼻がつぶれていた。
「まだまだだな、お前も。」
パチンと指を鳴らし、壁の穴がふさがっていく。
男たちは気絶したままでギルドの係りの人間が引きずるようにして連れて行った。
ジョッキを空にした俺は立ち上がり、シュヴァルツをカザスに手渡す。
「行くぞ。」
「はい。」
いつも以上に大人しく、捨てられた犬のように沈んだ空気を纏っているカザスに大通りで好物のお菓子の焼き物を買ってやり、ご機嫌をとった俺だった。
あとから聞くと、ギルド内でカザスを見てたのはこいつがこのあたりで唯一のSSランクだかららしい。
そのカザスがFランクの俺につき従っているのが驚かれたのだという。
しかも犬を呼ぶように名前を呼んでいた俺を奇妙な目で見てくる奴もいたらしい。
ついでにいうと、受付嬢はカザスのファンだそうだ。