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片腕の救世主  作者: あに
第1章 逃亡編
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第3話『旅立つ前』









「うーみーはーひろいーなーおーきーいなー。」







「ふんふーんふーんふふふーんふーん。」


「……」


「そう、俺は心が広い。この海のように……空のように!」


「……」


「だから!別に!初心者のお前が俺より大量に釣れたとしても俺は別に悔しくなんかない!!」


「……」


「たとえお前のバケツの中がでかい魚で敷き詰められていて、俺のバケツは空だとしても!」


「……」


「俺は!キャッチ&リリースの心を忘れていないだけだ!」


「師匠は優しいですから。」


「男前のあんちゃん、ああいうのはな、負けず嫌いっていうんだぜ。」


「そうだぞ、一匹も『きゃっち』も『りりーす』もしてねぇからよ。」


「うっさいぞ、そこのおっちゃんA・B!」






今日は浜辺で釣り大会をしています。

初心者であるカザスに釣りを教えると言ったらなぜか漁師のおっちゃん達がきて、一緒に釣りをしがてら教えることになった。

容量がいいカザスはすぐにコツを掴み、あっという間にバケツを魚だらけにしていた。



別に羨ましくはない。




俺は固定した釣竿をちょんちょんつつきながら、空のバケツを見つめる。



別に悔しくはない!



魚は餌に食いつくのに、うまく上げられないのだ。

左手しか使えない俺にとってまあ不自由なものだったが、釣れた時の快感は半端じゃない。

でも、それでバカにされるのは納得いかない!


といって、怒っているわけでは一切ない!!




「そういや知ってるか?」




餌をつけかえながらおっちゃんAが話題を上げる。


「王都の方で徴兵令が出ることが決定したらしいぞ。」


「まぁた戦争が起きんかねぇ?」


「……」


釣竿をつつく指を止め、持ってきていた数本の薪を近くにくべる。


「どうも、イオカリス帝国の方が荒れてるらしくてな、この前町にきた商人に聞いたんだが、こっちの方にもそのうち御触れが来るかもな。」



また戦争が始まる。



前の戦争ではどちらも統率できるストッパーが存在した。

しかし、今のイオカリス帝国は統制がバラバラで様々な派閥に分かれているという。

シュトレイン国と争おうとしているのは過激派たしい。


二つの国で締結したはずの条約を破ろうとしているのだ。


元々先の戦争の理由は領土の問題と、政治上のすれ違いだった。

条約で定めた領地の統治分割を納得できない者たちや、再び実権を握ろうとしている人間たちが徒党を組んでいるらしい。


国民にとってはいい迷惑だ。



「俺たちゃ平和に暮らしてるってのにな。」


「この国守る前に俺たちゃ自分たちの暮らし守らねぇとだからな。」


この町の中にも戦争に参加した人は少なくない。

このおっちゃんたちも後衛でだが参加していたらしい。


俺はその最前線だった。


今でも忘れない血の臭いと硬い武器、軟らかい肉……

終わった後の虚無感とそれと同等の晴れ晴れとした気持ち。




「ユーガもあんちゃんも、行かないでおくれよ。」



おっちゃんAが声のトーンを下げてつぶやいた。


「そうだぞ、ユーガが来てからなんか最近楽しいんだからよ。」


薪をくべる手を止め、おっちゃん達を見ると楽しそうに笑っている。

カザスは無表情だが、魚が掛かっているのにおっちゃん達と俺を見比べていた。


なんだよ、嬉しいこと言ってくれるじゃねぇか。


俺はにやりと笑ってくべた薪から数歩下がった。


「おっちゃん達もな。」


指を鳴らすと薪に火が灯り、揺らめいた。


「今日もなかなかいい火じゃねぇか。」


「ちゃんと火加減してあるんだろうな。前みたいに焦がすなよ。」


「うっせぇ!カザス、魚焼くから貸せ。」


「はい。」


空のバケツに入っていた水を捨て、新しく魔法で水を入れる。

カザスが移動させたバケツの中から適当に魚を掴み洗う。


「あと、網と塩、醤油持って来い。」


「はい。串はどうしますか。」


「それも。」


「わかりました。」


釣竿を話して家に向かうカザスをおっちゃんA・Bは見届けていた。

魚を洗って魔法で食える部分以外を消す作業をしている俺は気付かなかったが。


急におっちゃん達が笑いだしたのだ。


「どしたんだよ。」


「いや、はっはっは!お前ら夫婦みたいだよな。」


「『おい、塩』『はい、どうぞ』ってか?」


「「はっはっは!!」」


気持ち悪いこと言うな!と反論するがおっちゃん達は完全に笑いのスイッチがONになってしまったらしい。

おっちゃんたちは笑いながら『ショーユ』もうまいな、いや、塩もいいと言い始めた。



ちくしょう、鳥肌が立って思わず魚の頭消しちまったじゃねぇか。



「でもよ、良いあんちゃんじゃねぇか。」


「顔が?」


俺が言うとちげぇよ、と返ってくる。


「お前の世話して、ギルドにも登録してるんだろ?」


「こき使いすぎじゃねぇか?」


こういうことを言われたのは何も今回が初めてではなかった。

この町に着く前に転々としていた場所でよく言われていた。

まるで奴隷のように扱う様を快く思っていない人間が、俺に問う。


彼を解放してやれ、と。


「俺は使ってるわけじゃない。」


そう言うとおっちゃん達ははてなマークを浮かべる。



そうだ。

俺にとってあいつは“右腕”だ。

あいつにも最初から言ってある。



『俺はお前を右腕として扱う。でもお前を奴隷にするわけじゃない。お前は俺の一部、意思を持つ腕に……俺が必要とする腕になれ。拒否したいときはすればいい。俺がお前に下すただ一つの命令だ。』



それからカザスは強くなりたいと言い、俺の教えられる全てを叩き込んだ。

あいつは言う。


俺の右腕になれたことは自分の誇りで唯一だ、と。




「あいつは俺の自由な“右腕”だからな。」












夕方になり、おっちゃん達は家に帰って行った。

焚き火を“消し”、釣り道具を片づける。


カザスが座って魚を数えている左隣に座り、探査魔法をかけた。


あれ?あの魔力が消えた。

すぐに魔力が制御できるわけでもないから、制御魔具でも付けたんかな?


「師匠?」


ぼうっとしていたのか、カザスが話しかけてきた。


「ん、いや……どうしようかな、と。」


きっと今のままではいられなくなるんだろうな、といつしかつぶやいたことがあった。

そのときカザスが聞いていたのか、心配そうにこのままがいいです、といったことを覚えている。


「お前さ。」


「はい?」


「俺のこと大好きだねぇ。」


「俺は貴方の一部ですから。」


「だね。」


当然のことだが、改めて言われると恥ずかしい物がある。

言いだしっぺは俺だけど!


「旅しようか?」


「西の方、ですか?」


そういえば西の方に行ってみたいと言ったような……

よく覚えてたな。


「西にはさ、ドラゴンの谷って言うのがあるらしい。」


「師匠の召喚獣にもドラゴンはいますよね。」


「だってあいつらでかすぎて呼びにくいし……ドラゴンの谷っていうくらいだからいろんなドラゴンいるだろ?こう……ちっこいドラゴンとかいねぇかなぁ。」


かわいいよなぁ、ドラゴン。


ワイバーンとかは見たことあるけどちゃんとしたドラゴンはあまり出逢わない。

俺は召喚魔法も仕えるため、召喚獣としてドラゴン2体と契約している。

あいつらは……でかいからな。


「気になることもあるから王都ルートを通りたかったけど、難しいだろうな。」


転移魔法を使ってもいいけど、あの浮遊感があまり好きではない。

やはり旅といったら道中を楽しむものだし。


「南も微妙です、王都よりも酷いかもしれません。」


「でもまぁ、近いうちにここは出る。」


運が良ければ先日召喚された人間に逢うこともできるかもしれない。

自分はもう地球に帰ることは諦め、この世界に骨も埋める覚悟があるが、きっと俺の後輩君は違うだろう。


できれば戻してやりたい。


ってか召喚された奴ってどんなやつだろ?

王道的に言うと平凡なやつだよな。

でも、もしかして変化球でちょう強そうなマッチョとか……


うぉー!気になる!


でも、今はどうでもいいか。



「まぁそのうち、だけどな。そしたら、俺もギルドカード作らなきゃだなー。」


国境を通るには特別な通行証が必要となる。それは国が発行するものと、ギルドが発行するものしかない。

ギルドはあらゆる土地の依頼が集まる為、どこにでも行けるというステータスがある。



「師匠、そろそろ冷えてきます。」



「ああ……今日の晩飯は魚尽くしだな。そうだ、寿司握れよ。」


「『スシ』ですか?あれは力加減が大変です。」


「それが寿司ってもんだよ!後3年位修行すれば一流の寿司職人になれるぜ。」


10年修行すればうまい寿司は作れる!たぶん!


「俺は師匠が満足するなら頑張ります。」


「おう、がんばれよ少年。」









帰った俺が寝ようとしたとき、ふと感じたことのある魔力を感じた。


俺がいつしか作ってある人にあげた魔法陣だ……



「まだ持ってたんだな……」




出発は明日に決まりだな。










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