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片腕の救世主  作者: あに
第2章 ココン編
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第2話 『ココンの宿』







自分の中の力が溢れ出す。


この世界に来てから身についた、今は自分を守る力。


ぐるぐると自分の意思と関係なく渦巻く。


遊園地のコーヒーカップを最高速でまわされて、さらに急に逆回転され、脳が混乱している状態に似ている。



遊園地かぁ。



地球だったら、魔法なんてなかったし、釣りなんてじじくさいもんも覚えなかった。



身体は成長していないけれど、もう10年なんだな。


本当なら普通に学校行って、友達(だち)と遊んで、大学行って……それで……それで?



それで、“本当なら”どうなってたんだろう?


今の俺は、“本当”の俺なのか?


それとも夢?


長い、長い……夢を見てるのか?





なら、早く目を覚まさなければ……








目を開けると、木の天井が見えた。

柔らかい感覚はベッドだろう。


カザスに背負われていたはず……

部屋は小さく、大きな窓があり、俺以外は誰もいなかった。

窓の外は夜なのか日は落ち、小さく月が浮かんでいた。


「(暗い…・・・)」


まだぼーっとしている脳が思考能力を低下させている。


「(カザス……いないのか。)」


無性に気持ちが暗くなる。

フィニアにいた時は修行と称してクエストをやらせていたから、1人になるのは慣れていた。

釣りをしていれば時間を忘れてたし、漁師のおっちゃん達が茶化しに来たり……


ここには誰もいない。



がちゃ


小さな音を立てて部屋に入ってきたのは外套を外し、軽装になっているカザスだった。

手にはお盆を持ち、それにはコップが乗っている。


足音を立てずにベッドに歩み寄り、近くに置いてあった机にそれをおいた。


椅子をベッドの近くに置き、俺の顔色を碧い眼がうかがってくる。

コンタクトではない、自然な碧い眼だ。


「夢……じゃない。」


ここは、10年間暮らしてきた世界……俺が生きている世界。


「師匠?」


「うー、ぐるぐるする。」


手を頭に当てながら上半身を起こす。

自然な動作でカザスが手を貸してくれる。

俺が年寄りになっても介助人には困らないな。

ってか、その前に年とるのは精神的にだけ……か。


そうしたら、年とったカザスを俺が介助するのか?


「はは……」


「水、飲めますか?」


ありがと、と水を受け取り、ちびちびと飲む。

まだ、体中がぐらぐらしているが、森よりも幾分かはましだ。


「ココンか?」


「はい。宿です。」


「レン達は?」


「依頼を終わらせて、今下で夕食を摂っています。」


配達依頼だったか……

俺たちの依頼は依頼人に直接依頼を聞くものであって、まだ内容は知らない。


ココンの里は魔力制御の結界がはってあるのだろう。

だんだんと魔力は落ち着いてくる。

しかし、それも完全というわけではなく、多少の効果らしい。


エルフの住む里ってくらいだから、魔法に関してはたけてると思ってたけど。



「(調子がいいうちに作っておくか……)」


動かすのもだるいが、いつ何が起こるかはわからない。

今のうちに魔力制御の魔具を作っておこう。


手を出し、その掌に陣を浮かべる。


俺は詠唱魔法ではなく、陣魔法を使う。

陣の方が無言で魔法を発動でき、いかなる時でも魔力さえあれば発動できるお手ごろ感からそれを選んだ。

そのために古代アトス語を覚え、どんな魔法でも正確に、陣を構成できる知識と、魔力制御・操作の技術を得た。

それに、魔力でだが文字を自分で書けることがうれしかった。

魔法の原理を学んだ時はそんなことは考えていなかったが、今になってよかったと思っている。

もちろん詠唱魔法もできる。


魔法陣による魔法発動はかなり難しい為、やる人間はあまりいないらしいから、なるべく詠唱魔法を使うようにしていた。


俺が今から使う魔法は、この世界ではないらしい、『創世魔法』というものだ。(なんかかっこいいからそう名付けた!)

自分の魔力を使って魔力という“有”を別の“有”に変え、新しい物へ創造する魔法だ。

もちろん、食べ物も作ることができるが、味を再現するのがどうも難しい。


自分が考えたものは思い通りに作ることができるから好き勝手できるけど、同じものを作るのはかなりしんどいし、難しいのだ。



実際にカザスの……今は指輪になっているが、魔剣シュバルツは俺の魔力の塊だ。

魔法を無力化する効果と固定化も魔法を加え切れ味も最上級、カザス以外の人間には使えないように作った。

見栄えも大切かな、と思って装飾もちょっぴり付け足してある。

魔剣っていえばかっこいいイメージがあるし。


シュバルツを作った時はもっと大きめの魔法陣を使った。


「(あん時は調子に乗って魔力もかなり使ったしな。)」


カザスの剣術が俺を超えた日、お祝に魔剣作るぞーと言って一日中自分の魔力を凝縮しまくってシュバルツを作った。

たぶん、シュバルツが魔力の爆発起こしたら大陸は吹っ飛ぶかな。

爆発なんてしないけど。


なんて、思いだしながら魔法陣を操作していく。


「とりあえず、魔石生成して……。」


陣の上に魔力が集まり、一つの魔石が生まれる。

再び魔法陣を書き換え、腕輪の形をとらせ、魔石と合成していく。


一般に出回っている制御の腕輪は魔石が腕輪に嵌まっているだけだが、それは魔力封印が主な役割となっていて、蓮がしているのがそれだ。

俺の場合、制御のみをして、魔法は使えるようにするという都合の良いものため、アレンジを加える。


「(こんなもんか)」


傍から見ると魔石もハマっていないただの腕輪に見える。


うん、と出来を確認してからカザスに左腕につけさせてもらい、魔力が正常になっていくのを感じる。


「い、生き返るー。」


「夕食はどうしますか?」


「食べる食べる。」


あっ、と立ち上がろうとするカザスを制して、再び陣を出す。


「そろそろ、レンにも制御を教えなきゃなんねぇからな。あの腕輪じゃ役にたたねぇ。」


魔力封印の腕輪では魔力を動かすことができない。

エルフの森でへらっとしていたのは魔力自体が封印されていたからであって、実際は魔力制御ではなかった。


「あいつの魔力はちょっと特殊だからな。」


あの腕輪もいつまでもつか……

先ほどよりも複雑な陣を描き、魔力を注ぐ。


出来たのは何の装飾もされていない腕輪だ。

これには制御訓練用のアレンジが加えられている。


それを見ていたカザスはじっと俺を見てくる。


「ん?お前も欲しいか?」


「いえ、俺には……魔力はないので。」


しょぼんと空のコップをお盆に載せ、手に持っている。

複雑そうな表情でいるカザスは、初めてギルドに1人で向かう時のそれに似ていた。


あの時は俺と離れているうちに俺がどこかに行ってしまうんではないかと思って、心配だったらしい。

家の外で送り出した後も、ちらちら後数歩歩いては振り返り、また歩きだしては立ち止まって振り返り、「どこの捨て犬だ」と思うくらいにしょぼくれながら出発していった。

その後帰ってくるのはかなり早く、手には土産を持ってきて、それをもらった俺が馬鹿喜びしたのを見てちょっと笑っていた。


しかし、これは……


「別に、お前以外に弟子をとるわけじゃねぇぞ?」


「……」


「それとも、あいつと一緒に俺が『帰る』と思ってるのか?」


お盆に乗っていたコップがかたっと音を立てた。


はぁ、とため息をついて俯いているカザスの頭をガシガシとかきまぜる。

こういうとき、いつも俺はこいつがガキだった頃を思い出し、いまでは高い位置にある頭をかき交ぜてやる。


ぼっさぼさになった頭のままお盆を持っているカザスは表情を変えずにいた。


「あいつは、師匠と同じ“黒”でした。」


今は魔法で茶色になっているが……まぁ、俺と同じであいつも日本人だからな。


「師匠はあいつを異世界へ帰すのでしょう?」


「帰せる……ならな。あいつが帰りたければ帰す。」


「師匠は……」


「『俺も帰りたい』とか思ってるって言わねぇよな?」


カザスは顔を上げた。


「俺はもう、ここに骨を埋めるって決めたんだ。」


手の中にある腕輪をポケットにつっこみ、カザスの肩を掴んで立ち上がる。

その後に続くようにあわてて立ち上がるカザス。


「それに、お馬鹿な弟子が師匠は心配で心配でしょうがないんだからな。」


「……」


軽い足取りで扉を開けようとすると、カザスが先にノブをとった。


「すみませんでした……」


「……頭、そのままにしとくなよ。」


俺がやったことだけど。

カザスは扉を閉じ、その手で髪の毛を整え始めた。

それを見て、いつもの弟子に戻ったと感じた。


蓮と会ってからずっと悩んでいたのだろう。

こいつは俺と一緒にいた時間がかなり長いからな。


「明日になったら依頼人に会いに行くぞ。」


「はい。」


「なんか、ずっと寝てたからココンに着いたって実感ねぇな。」


窓の外をよく見ると大きな木の上に民家が立っているのに気付いた。

点々と灯りが灯っているのを見ると、ココンの里は大樹の集合体らしい。

この宿もその中の一つみたいだ。


「でけぇー。」


階段を降りながら所々にある小さな窓から外を見る。





1階に降り、料理の匂いがただよう食堂に出た。

そこにはレン達が大量の料理を囲んでいた。

主に食べているのはレンで、他2人はちびちびと食べている。


「ば、おばぼうぼばびばう。(おはようございます)」


「飲み込んでから話せ。」


俺が座ると隣にお盆を返してきたカザスが座った。

素早く皿を取り、料理をとりわけると俺の前にそっと置く。


それを俺が食べていると、その光景を見ていた蓮がごくんと口の中の物を飲み込んで、話しかけてきた。


「なんか、カザスさんってユーガさんの弟子っていうより執事とか、そういう感じに近いですね。」


「んなわけねぇだろ。こいつは俺の右腕なの。俺の優秀な腕なの。そん所そこらの召使と一緒にすんな。たんこぶ小僧。」


「そ、それは言わないでくださいよ。」


パンを食べながら頭をおさえる蓮……今気づいたが、またたんこぶができてる。

どっかで転んだのか?


あとから聞いた話だが、この宿を見上げているとき、上を向いて歩いていたら目の前にあった看板にぶつかって仰向けに倒れて転んだらしい。


皿にのっていた肉をフォークで刺し、口に含む。

ん、んまい。


こっちの世界の味付けは慣れてきた。

日本みたいに醤油がなかったため、俺が自分で作った醤油はフィニアではおっちゃん達に人気だった。

作ったと言っても、創世魔法で作ったので、うまい醤油ってわけにはいかなかったが。


味噌を作ったこともあるが、あれは失敗した。

かなり味がうすかった。


味噌を作った人は尊敬するぜ……


まぁ、この世界の味も嫌いではないな。

俺は味が薄い方が好きだが、この宿の料理は濃すぎず、薄すぎずでうまい方だ。


昼もずっと寝ていた(気絶していた)ため、かなり腹が減っていた。



……にしても。


「レン、お前良く食うなぁ……大食いでも目指してんのか?」


「なんか、この世界に来てからお腹が空くんですよね……あれ?ユーガさんはそういうことありませんでした?」


異世界に来たら大食いになるなんて法則はねぇ。


「俺は一般的胃袋です。」


「なんででしょうね?」


と、いいつつもバクバクとさらを空にしていく。

こいつは魔力が特殊だから、そのせいもあんのか?


「どうぞ。」


そう言ってカザスが次に皿に乗せたのはトリの実が使われたサラダだった。


「お、うまそ。」


「そうだ、ユーガ。」


「んー?」


思い出したようにジェスティアが食べている手を止めた。


「私たちの依頼なのだが、配達先がこの宿でな、報酬も受け取った。」


「カザスに聞いた。。あとは俺たちか。」


まだ、依頼内容わかんねぇからなー。

明日依頼人に会いに行く旨を伝える。


「わかった。次の町への旅支度は私たちがしておこう。」


「ああ、頼む。そこのたんこぶの面倒もな。」


ちらりと視線をレンにやって、トリの実を齧る。


「え、えっと……ああ!そういえば、ユーガさんの魔法、すごかったですね!」


「魔法?」


あの時はびっくりしたけど、すごかったです!と目を輝かせて話す蓮の言葉を聞いて、首をかしげる。



俺、魔法使ったっけ?



「(んー?)」



カザスに背負われていた間の記憶は曖昧で、全く覚えていない。

ってかあの森で魔法使うとかしたっけな?


「あんな大きな魔法見たの初めてだし、ユーガさんてすごい人だったんですね。」


「おい、今まで俺をなんだと思ってやがった。」


「ひぃっ!す、すみません、ごめんなさい!」


頭をおさえて椅子ごと後ずさった。

隣には拳骨をスタンバイさせていたカザスがこちらを見ている。

慣れてきたなこいつ。


「先輩は敬え。後輩。」


消し炭になりそうだったのを助けたのは誰だと思ってる。


「はい!」


「きゃはは。」


ユーナは陽気に笑い、楽しそうにしている。

こいつにも話し方を教えないとな。

それはジェスティアに任せてもいいか。


「あ、おねえさーん、一番高いお酒!」


「はーい。」


「ユーガさん、お酒飲むんですか?!」


宿で働いている女の子に注文すると蓮の驚いた声が響いた。

酒を受け取りながら文句あるか、と言い返す。


「だって、ユーガさん未成年……」


「んぁ?言ってなかったか?」








俺、26。








「「えええええええええええ!?」」


驚いたのは蓮とジェスティアだけだった。

カザスは知っているし、ユーナはデザートに夢中。


「き、君は私たちと同じくらいに見えるが?!」


「ごほっ、ごほっ、そそそそうですよ!」


「外見はそうだけど、中身は26のおっさんです。」


こっちに召喚された時は16で、今は26。

酒飲み始めたのは16というのは黙っておこう。


「君は実はエルフなんじゃ……」


「んなわけあるか。俺は救世主様だぞ。元。」


「じゃじゃじゃ、じゃあ、なんか変な薬で若返って……」


「どこの探偵だ。」


とりあえず混乱している2人を黙らせ、魔力のせいで成長しないことを教えると、首をかしげながらも納得した。


「じゃあ、僕もそうなったりするんでしょうか?」


「お前は大丈夫だろ。俺よりも魔力の量は低いし。」


一般よりは遙かに高いけど。

酒を飲みながら答えると、蓮は安心したように胸をなでおろした。


うん、いい酒だ。


「じゃあ、カザスさんはおいくつなんですか?」


「20」


「「えっ?!」」


こそこそと内緒話をし始める2人。

仲がいいなぁ……と思いながらも漏れている話し声を聞いていた。


「ちなみに、嘘じゃないぞ。」


「ぼ、僕、ずっとカザスさんの方が年上だとばかり……」


「わ、私もだ。」


い、意外に、若かった……と呟く蓮。


年齢を話題にした話はかなり盛り上がり、始終無言だったカザス以外は結構リラックスできたらしい。

途中で眠ってしまったユーナを部屋まで運んだ蓮とジェスティアと別れ、寝ていた部屋に戻り、カザスはその隣の部屋に入っていった。








腕輪は明日渡すとして……依頼の検討もついちまったなぁ。


空を見上げ、魔力の膜……結界を見る。

微量だが、結界が弱まっていて、魔力が中に流れ込んできている。


いくら魔法が得意なエルフでも、あの森の魔力は脅威らしい。

そんな森の中心に里を作ったのも、何か理由があるのだろう。



ベッドに座り、歪んだ結界と腕輪を見比べる。


「作っておいてよかった。」


明日には結界はもっと弱まっているだろう。

たしか、依頼のランクはA……だったか。


「まぁ、なんとかなるか。」


腹がいっぱいになったせいか、昼間はずっと寝てたのに、眠気が襲う。







そういえば……俺、魔法使ったのか?







結局思い出せなかった。








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