プロローグ『伝説』
シュトレイン王国には多くの伝説が存在している。
実際に起きた出来事になぞらえてできたものもあるが、それらはどこかで折り曲げられている。
都合のいいように、皆が尊敬するように、感動するように。
この国は大陸ができた時に最初にできた国だとか
この土地の地下には大きな遺跡が眠っているとか
そこには伝説級のドラゴンの骨が埋まっているとか
実は王族はもともと異世界の人間だとか……
事実になぞらえてあるものから、全く作られたものまで、さまざまだ。
そこに新しく伝説が刻まれる。
架空の物語ではない、証拠のある伝説だ。
『大戦を終わらせた英雄』
彼はシュトレイン王国の危機を救い、戦の勝利へと導いた。
先陣を切り、片腕を失くしてまで戦った、この国の救世主。
敵の将を討ち取り、世界に平和をもたらした。
戦場に出た者以外は真実を知ることはない。
戦争終結の際の出来事は国家機密とされ、折り曲げた伝説を噂として流した。
誰が流したとは定かでないその伝説は今では国中の誰もが知っている。
国の宝物庫には厳重に保管されている固定魔法のかけられた救世主の片腕が眠っている。
先の大戦で“斬り落とされた”腕。
救世主は戦争終結とともに消え去り、誰も行方を知らない。
風のように現れ、風のように消え去った彼を誰もが称えた。
夢を見る子供は「救世主様のようになりたい」と将来を語る。
「馬鹿みたいだ。」
夢を語る少年少女を視界の端に入れながらちびちびと飲んでいた酒を一気に飲み込んだ。