第0話 『理由とまどろみ』
『どうして戦わなければいけないのですか。』
ただの偶然だった。
彼と……この人と出会ったのは。
護衛を殺され、狙われたのは自分だと気付くのに時間はかからなかった。
帝位の継承序列が低い自分がそれを得ると噂が立ってからは命を狙われ続けていた。
いつ死んでもおかしくない。
年齢などは関係ない……実力のある者が立つ。
皇帝から寵愛を受けている自分はそんなに自分が優秀だとも思えない。
剣を握らされるが、本当はなぜ戦わなければならないのかわからなかった。
戦争が続いているこの世界で自分の生きる意味とは何なのか。
「あなたは皇帝になるの。」
母が言う。
「お前はわしのあとを継ぐのだ。その為の役目を与える。」
父が言う。
「どうしておまえなんだ。」
多くの兄弟が言う。
自分の代わりなどいくらでもいるだろう。
もっとその地位にふさわしい人間が……もっと、戦いな好きな人間が。
『そうだな……俺も、それがわかんないんだよな。』
頬杖をついて彼が答えた。
自分を助けた彼は、なぜ自分を助けたのかも理由はわからないと言う。
大きな戦争が起きている世界で、自分のような子どもが死ぬのは珍しいことじゃない。
通りすがる人間は知らん顔か逃げるだけで、こんな無駄なことはしない。
それに、これから戦場で人を殺すように命令するのはこの命なのだ。
ここで死ねれば人を殺さずに済む。
あんな行きの詰まる、籠のような世界から解放される。
そう思っていたのに。
『それがわかるころには、戦争も終わってるだろうよ。』
他人事のように語る彼に心が苦しくなった。
『でも……誰かが終わらせなければならないんですよね。』
誰か……それは自分か、それとも……
『じゃあさ……』
何かを思いついたように彼が言った。
俺が……
―……ス―
自分を暗い影が覆っている。
うとうととしていたことに気づいて、瞼をゆっくりと上げる。
「カザス、起きたか?」
「……はい。」
木に寄りかかっていたカザスはボーっとした様子で返事をした。
まだ夜が明けたばかりで薄暗い。
そういえば夜明け一番に出発すると言っていたのを思い出す。
火の番を交代してから寝てしまったのだろう。
交代したはずの蓮はジェスティアと火の片づけをしている。
「珍しいな、ぐっすりだったぞ。」
カザスを見下ろしながら雄呀は笑っている。
「すみません。」
「まだ、ユーナが起きてねぇから、最後じゃなかったな。」
隣を見るとカザスの外套をかけ、丸まって寝ているユーナがいた。
まだ深い眠りについている。
雄呀がずっと笑っているのを見て、シュバルツを背負ったカザスは首をかしげる。
「何か?」
「いんや……お前、寝顔は変わんねぇなって思って。」
嬉しそうに言う自分を育ててくれた師は、自分が国を捨ててからずっと見守ってきてくれた。
まだ、自分が弱かった頃は強くなって師匠を守る、と意気込んでいた。
師匠の立派な右腕となる。
それが今の自分の生きる目的であり、意味である。
この人にとって自分はいつまでも子供なのだ。
そして今日も彼の隣を歩いて行く。