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片腕の救世主  作者: あに
第1章 逃亡編
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第13話『脱出と目的』




「と、言うわけで『ドキドキ王都脱出向かうはドラゴンの谷!』作戦会議を開始しまーす。」





はい、はくしゅーと若干棒読みで言う。


「ユーガさん、ドラゴンの谷って……」


小さく手をあげて控え目に質問した蓮。



床に座ったカザス、ジェスティア、ユーナ、蓮と目の前のベッドに座っている雄呀。

よくぞ聞いてくれた、と言わんばかりに表情を明るくする。


「異世界って言ったらドラゴン!俺はこの10年、西に行くことがなかったが、ドラゴンの谷といういかにもドラゴンパラダイスな夢溢れる名前の場所に行かず、どこへ行く!?」


なぁ、カザス!と言うと、「はい」と即答する。

なんとも自分勝手な目的なのだろう……


「私はレンが行くところならば、共に行く覚悟だが……」


「あぅあ」


ジェスティアも西の国には行ったことがないのか、興味ありげだ。

隣で手をバタバタと床に叩いているユーナも楽しそうにしている。

なんだろう、僕は否と答えてはいけないのか?!

僕の道はどこに?!


「お前もみたいだろぉー?ドラゴンー。格好いいぞーう。」


「(そ、それはドラゴンには憧れる。本物のドラゴンってどんな感じなのだろう?やっぱり大きくて強くて、火とか吐いたりするのかな?)……い、行きたい!」


「よっしゃー決まり!」


皆行きたそうなのに、僕だけ拒否したら空気読めない子みたいになるじゃないかー!


「そういや、お前らはもうギルドに登録したのか?」


「あ、はい。教えてもらった日に登録に……」


「その時、王都を出るための依頼を受けた。ココンという森の里だよ。」


ココンは森の民が住むと言われている里で、エルフの里とも呼ばれている。

彼らはシュトレイン国の土地に里を築いているが、他国にも転々と里は存在している。


彼らはこの大陸ができてから国という概念にはとらわれていない。



依頼書を見た雄呀はほう、と納得した。


「じゃあ後は俺らだな。今日、ギルドに行く予定だ。」


その前に鍛冶屋に寄ることになるが。

そう言って郵便物を取り出した。


「僕たちも一緒に行きます。おじさんにはお世話になったし。」


「私も、騎士として礼儀は大切だ。」


「わかった。」






一緒に行動することになった雄呀たちと蓮たちはユーナを連れ王都を出ることを決めていた。

ユーナは文字が読めるらしく、筆談もどきをして家族がいるという国境の都市リオ・カインに立ち寄り、彼女を送り届けることも目的に入っている。


小さいユーナは12歳で3歳で人攫いに遭い、奴隷として働いているときに彼女の兄が助けに来たが、追い返され、その時に国境に住んでいることを聞いたらしい。


年齢の割に小さいのは栄養不足のせいで、身なりを整えれば可愛く綺麗な女の子が復活した。


「えーん。」


「ん?」


手を繋いでいるのはにこにこしているユーナと兄のように彼女の手を引いている蓮だった。

『えん』というのは蓮のことで、まだ口が回らないユーナの精一杯の呼び方だった。

ちなみにジェティは『えてぃ』、カザスは『あーす』、雄呀は『うー』となっていた。

雄呀は納得いかないような顔をしていたが、しようがないと諦めていた。


手を引くユーナに呼ばれ、振り向く。

にこにことしているだけで何も言わない。


「手を離しちゃだめだよ、迷子になっちゃうからね。」


「この前のお前みたいにな。」


「うっ。」


雄呀に古傷をえぐられました。





鍛冶屋の店主に郵便物を渡し、別れの挨拶と礼をした。

にこやかに送り出してくれた店主は本当にいい人だった。


そしてすぐにギルドに向かった。

ギルドにはまた冒険者が溢れかえっていた。

さすがにユーナを中に連れていくわけにはいかず、蓮とジェスティア、ユーナは外で待つことになった。


来るのが2度目のカザスは構造を理解している為、カウンターにまっすぐに向かう。

雄呀もそれを分かっていて黙って隣を歩く。


手続きを済ませ、報酬を受け取ると依頼掲示板のある2階へ向かった。

2階もそれなりに混んでいるがカザスの周りはなぜか空間ができる。


「王都外で、ココンを通る方がいいな。」


「わかりました。」


見渡すと新しい依頼が増えており、カザスが一枚の依頼を手に取った。


「これはどうですか。」


「ん?って、これココンの依頼じゃねえか。ナイスだカザス。」


『ないす』?と首をかしげるカザスを置いて受領受付へ行く。

受付もスムーズにすみ、外で待たせている蓮たちと合流することに。



「よーう。」


「あ、依頼ありましたか?」


「ちょうどココンの依頼があったぜ。」


ココンで二つの依頼を一気に終わらせればココンからはリオ・カインに向かうだけだ。

偶然にもココンの依頼があったことに驚きと喜びがおこった。




旅支度はすでに昨日のうちにすませてあり、あとは王都の検問を突破すればいい。


昨日の騒ぎでも警備が変わることはなく、検問も普段通り魔力の探査魔法使いが1人と一般の兵士が数人いるだけだ。


正門に向かう一行は途中、珍しい物に目が行った蓮や、小さな子犬を見つけたユーナが道を外れたり、トリの実の菓子を見つけた雄呀がカザスを引っ張って大量に買ったりと寄り道をしてしまった。


「なんか、これから王都から出るのに緊張感がないね。」


「私は緊張するよ。」


お菓子を食べている雄呀を見て言った蓮と近衛騎士として王女に仕えてから王都を離れなかったジェスティアは久しぶりの外にこわばっていた。


「僕は何でも初めてだから、いろいろ教えてね。」


「任せろ!」


頼られることは騎士にとって励みになる、とジェスティアは喜んで返事をした。

あはは、と仲良く歩いていた蓮は足元を見ていなかった。



どかっ



「うごぉっ?!」


「え?あ!すす、すみません!!」


足元に人がしゃがんでいるのに気付かず、その人の腹を蹴り上げてしまった。


大丈夫ですか!?と蹲っているその人に合わせしゃがみ、謝り倒す。

思わぬハプニングに雄呀とカザスも立ち止まっていた。




「おんどれぇ、俺に不意打ち喰らわすとは覚悟ができてんだろ……う……な?」




「本当にすみま……せぇええっ?!」




「お?」




顔をあげた人と固まった蓮、その顔に覚えがある雄呀の三者三様に時が止まった。


「おお、あんときのガキんちょ……と、こわいにいさんかぁ。」


そこにいたのは昨日、蓮とユーナが遭遇した焦げ茶色の髪の男だった。


「ぎぃやあああああああっ!???」


殺されそうになったことを思い出し、反射的にジェスティアに隠れてしまう。

その後もすみませんすみませんすみません!と噛まずに謝り続ける情けなさ。

互角にやり合ったというのに、やはり怖いものは怖いのだった。


「怖いとはなんだ。ってか通行の邪魔だ。」


痛みはなくなったのか、平然としている様子だが、立たずにしゃがんだままのその姿勢に雄呀は鬱陶しい物を見るような視線を向けた。


「いや、ちょっと探し物を……」


「なんだ、落し物か?」


「(ユーガさあああん!なんでそんなにフレンドリーなんですかぁああ!)」


平然と会話している雄呀の図太さにツッコミを入れたいが、怖くてできない。

まるで落としたコンタクトを探すかの如く入念に地面を見渡している男から離れようと一歩後ずさろうとしたときだった。



「んー………動くんじゃねぇええええええええ!!」



ザクッ!


蓮の方を見た男の目が鋭く光り、抜刀した剣を僕の方に向かって投げ、地面に刺さった。

スレスレの距離にあげた足をそのままにして、ストップする。

キラリと光ったその剣にごくりと息をのむ。


男はズンズンと蓮に近づいてくる。

動きたいけれど動けない蓮はだらだらと冷や汗を掻いた。


それをジェスティアが庇い前に出るが、男はそこで止まった。


すると、いきなりバッとしゃがみ込みなにかを蓮の足の近くから拾った。






「あ、あったぁー!最後の一枚!探したぜぇー!」






拾ったものを涙目で見て、喜びの声をあげた。


「へ?」


「いやぁー、よかったよかった。」


そして何もなかったかのように剣を回収し、しまった。

彼の拾ったのは一枚の銀貨だった。


「お、お金?」


「おお、あんあともらった報酬。心配しねぇでも、もう仕事は終わったんだからよぉ、コロさねぇって。」


ふははははと僕の肩を笑いながらたたき、銀貨をサイフらしき袋にしまった。


「おにいさんら、王都から出るのかい?」


「てめぇには関係ねぇ。」


なおフレンドリーな男は雄呀と会話を続ける。

それを無表情だが気迫を込めてカザスが警戒している。


「あっそ、俺もどうでもいいけど。いやー、ほんと、偶然だったわ。」


んじゃねーと、デジャブの光景を作って正門の方角へ向かって行った。



ふぅ、と落ち着くとジェスティアが心配そうな顔をしている。


「いや、大丈夫。」


「まさか、あの男が昨日の?」


「うん。」


昨日のように殺気はなく、さっきだけのを見ればとてもいい人に見えた。

いったい何者なんだ、あの人。


「ほら、さっさと出るぞ。」


気づいたら雄呀たちは蓮たちよりも先の方にいっていた。

急いで追いかけ、検問を受けるために並ぶ。


検問には雄呀の言ったとおり、魔術師らしき人間がいた。

ギルドの依頼書と通行証を見せ、探査魔法をしている魔術師を見ないようにしながら許可を待つ。


「ん?」


魔術師が眉をひそめた。


「(な、なんだ?)」


魔術師がこそこそと兵士に何かを言い、待ったをかけた。

何か引っかかる様な事があったのか?


「おい、そこの……」


蓮は緊張してこわばる。


「金髪。」


そう呼ばれてカザスが振り向いた。

自分のことではなく、安心し、蓮にはジェスティアと同じく通行許可が出た。


呼びとめられたカザスは塀に向き直る。


「その剣はなんだ?」


「ああ、兵士さん。これは魔剣だよ。」


無口なカザスの代わりに答えたのは雄呀だった。


「どこで手に入れた?」


「依頼の途中で手に入れたって言ってたけど……なぁ?」


そう言ってアイコンタクトをする雄呀にうなずく。

SSランクのギルドカードを確認した兵士は納得し、いいだろう、と許可を出した。


そうして全員無事通ることができ、王都を出た。




門から離れ、少し歩いた後、立ち止まる。


「もういいぞ。」


「あい。」


雄呀のマントからずっと雄呀にしがみついて隠れていたユーナが出てきた。

通行証を持たない元奴隷のユーナは隠れて通るしかなかったから、右腕がない分マントに余裕がある雄呀が隠していたのだ。


「ご苦労さま、ユーナ。」


「えん。」


「こっからはひたすらココンだな。」


カザスに地図を広げさせ、それを覗き見る。

ココンには通称『エルフの森』と呼ばれている大きな森を通っていく必要がある。

その森は半日歩けばつくだろう。


別段、急ぐ旅でもない為、馬を用意はしなかった。

ユーナには悪いが、蓮の修行も兼ねている、と雄呀は言ったが、馬はもう勘弁だという自分の都合だった。

きっとそのことはカザスしか知らないのだろう。



「緊張するか?」


歩いている途中、雄呀が蓮に話しかける。

初めての世界で、初めての旅をする。


「き、緊張するけど……楽しみです。」


「そうかい。」


それだけの会話をして、雄呀は後ろにいたカザスを隣に呼び、蓮たちの前を歩き始めた。



蓮は王都で見た時よりも広く感じる空を見上げた。


壁に囲まれていない空は広く感じた。





「(空って、どこでも青いんだなぁ)」





「レン、足元見ないと危な……」



ガツッ



「「あ」」



ゴンッ










「いったぁああああああああっ!!!」











さいさき不安な救世主(?)だった。









ここまでで1章とします。

題名、各話タイトルも改変予定です。

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