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片腕の救世主  作者: あに
第1章 逃亡編
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第9話『少年と少女』








染井雄呀と名乗った人は僕の前の救世主だった。

同じ日本人で、詳しい話はできなかったがギルドの話をしてくれたし、いい人……なのかもしれない。


そんな彼は僕の頭に3個のタンコブを残して去っていった。












帰ってきたジェティにタンコブを見られ、何があったか根掘り葉掘り聞かれた。

その時、ユーガのことを話すのは大丈夫なのだろうか、と考えた。


彼は戦争が終わった後、姿を消したと聞いた。

なぜこの町に来たのかも聞けなかったが、姿を隠して生きてきたに違いない。

ジェティには悪いが黙っておこうと決め、階段から落ちてできたと嘘をついた。


ギルドの話はお客さんから聞いたと言い、すぐにギルドへ行くことになった。


なぜギルドのことを知らなかったのか尋ねると、ギルドと騎士はあまりに方向性が違うため、うまが合わないらしい。

そのため、お互いのことを不干渉ということにし、いっさい関与しないことにしているらしいのだ。


「私は立場的にギルドに登録することはできないが、偽名なら大丈夫だろう。」


そう言ってギルド登録に賛成してくれた。




大通りに出ると警備兵が増えているような気がした。

初日に宿を探す際、警備兵に注意するようにとジェティに言われ、見分け方を教わったから、今までよりかなり厳重になっていることがわかる。


「早くギルドに向かった方がいいだろう。」


「たしか、鍛冶屋さんは大通りをまっすぐ行けばあるって言ってたよね。」


少しだけだが、見知らぬ土地を歩くことになれ、隠れることはしなくなった。

おどおどしていると余計に怪しまれると思い、出来る限り堂々とジェティの隣を歩く。


(でも、女の子の隣歩くのって不思議な感覚だ)


身長はわずかに彼女の方が高く、大人っぽい雰囲気でお姉さんという感じだ。

兄弟いないからわからないけど。

彼女だからなのか、とても安心する。



ガラガラガラガラッ!


「危ない!」


ぼーっと考えていた僕は後ろから来ていた音に気付かず、ジェティに手を引かれた。

助けられた僕はひかれた反動で倒れそうになったのを支えられた。


「大丈夫か、レン。」


「ありがとう……」


「いや、怪我はないようだな。……しかし、今のは貴族の馬車か。」


今はもう小さくなってしまった姿を見てそう言ったジェティは眉を顰めた。

あんなにスピードを出して、この世界では規制速度というものはないのだろうか……


「普段もあんな速さなの?」


「せっかちな貴族はそうだが、あの家紋はバールティン家のもので、普段はもっとゆっくりだ。」


それに、大多数の貴族は皆権力争い以外にはのんびりだ。

そう言って再び歩き出す。


「何か急ぎの用件があったのだろうな。」


「ぼ、僕のことじゃないと良いけど。」


「心配することはない。すぐに国を出よう。」


気づくと大きな建物の前にいて、周囲にはいかにも冒険してますという風貌の人たちが溢れていた。


「レン、私から離れないでくれ。」


「わかった。」


ずいぶんと大きな建物だ。

市役所みたいな感じなのかな、と地球風に例えてみた。

ジェティに『シヤクショ』とはなんだ、と聞かれ、あわててなんでもない、と言った。



「おい、邪魔だ、どけ!」


「ちょっと、足踏んだぞ!」


「ちっ、クエストとられたぜ。」


「んだぁっ?!やんのかコラァ?!!」






に、逃げたいです。




わくわくして入ったそこは地獄でした。





すたこらと入っていくジェティに置いて行かれないように必死について行く。

歩くたびに他の人にぶつかりそうになる。


「おい、餓鬼!気ぃつけろ!」


「すみません!」


泣きそうになりながら謝り、またぶつかっては誤り……

気が滅入る。


「ぎ、ギルドってこんなに混んでるところなの?」


「私も初めてだからわからないが、異常だと思うね。」


やっと受付らしき場所を見つけた。

そこは案外空いているらしく、やっと落ち着けた。


「大丈夫か?レン。」


「うん。はやく受付すませて帰ろう。」


受付には女性がいて、何か作業をしていた。


「すみません。」


「あ、はい。こんにちわ。」


驚いた表情で頭をあげた女性は丁寧にあいさつしてくれた。

こんにちは、と返す。


「ご登録の方ですか?」


「はい、二人分お願いします。」


では、こちらにご記入お願いします、と用紙を渡され、ペンを持った。

こちらの文字は本を読んだだけでなぜか理解できた。

何故かはわからないが、それが僕に与えられた力の一部なのかもしれない。


記入が終わり、女性に渡すと確認作業の後すぐにカードが渡された。


「ギルドについての案内はこちらの注意事項に書かれているので、よくお読みください。」


そう言って薄い一冊の本を渡された。

すごく丁寧だな、と思ってパラパラとめくってみると、かなりの量の文章があった。


あ、後で読もう。


「依頼掲示板と受領カウンターは2階になります。」


「ありがとうございました。」


「頑張ってください。」






「なんか、あっという間だったね。」


「でも、これから王都外への依頼を見つけなければならないな。」


「そうだった……」


依頼掲示板を探していると見たことのある後ろ姿があった。

人が大勢いても金色に光るその髪は動かずに掲示板を見ているだけだった。


「どうした?」


「いや……」


先日は一緒だったはずのもう一人の姿はなく、どうやら一人らしい。

それにしても、かなりの存在感だ。その背負っている大刀もそうだが、何かが発せられているのがわかる。

彼……カザスさんの周りにはあまり人が集まらず、避けているように見える。


カザスさんが見ているのはAと書かれた依頼掲示板だった。


「あの男。」


「え?!」


僕が見ていたことがばれたのかと思った。


「あの背負っているのは魔剣だな。」


(ち、違った……よかった)


彼女はカザスさんの背負っている剣を見て驚愕の表情を浮かべていた。

魔剣……やっぱそういうのはあるんだ。


彼が背負っているのは真っ黒……漆黒と言った方がいいか。

小さく目立たない程度に装飾が施されているが上品で高価に見える。


「魔剣ってやっぱり珍しいもの?」


「ああ。その製造方法から素材まで謎が多いんだ。剣自身も使用者を選ぶらしい。」


「へぇ。」


カザスさんはこちらに気づかないみたいですぐにどこかへ行ってしまった。

その時も周囲の人間は微妙に道を開けていた。

まるで関わりたくないといったような感じだ。


僕たちも依頼を見ようと思い、踏み出そうとすると誰かとぶつかってしまった。


ガスッ


「あだっ」


鼻に衝撃が行き、ぶつかったのは何か硬い物でかなり痛かった。


「ちょっと!」


「ふぇ?」


鼻を押さえていると下の方から声が聞こえた。

見下ろすと小さな女の子が僕を睨んでいた。

カザスさんよりも茶に近い金髪をツインテールにして、ビキニのようなものにショートパンツ風の露出度の高い服を着ている女の子だ。

身長は僕の胸当たりより小さい。


彼女は僕を指さした。


「気をつけなさいよ!ほんっと人間ってのろまが多いのよね。」


そう言ってぶつかった物……巨大な槍斧ハルバートらしきものを背負い直した。

身長よりかなり大きい為、背負っても床を引きずっている。


「今度あたしにぶつかったら……埋めるから。」


ドスの利いた声で言われ、思わずちびりそうになった。


「ごめん!」


「ふんっ」


そっぽを向いて依頼掲示板に向かう彼女も冒険者なのだろう。

ズズズと槍斧を引きずり歩く姿はかなり勇ましい。


ポケッとしていると、ジェティがいつの間におらず、依頼掲示板にかじりついているのを見つけた。


「なにかあった?」


「いや……DからFランクで王都外行きは難しいな。」


見れば、どれもこれもお使い程度のものだった。


犬の散歩。


落とし物探し。


掃除。


ぼ、ボランティアかなんかなのか?


「あ、これはどうだ?!」


「なになに……郵便配達か、宛先はココン?」


見せてもらった地図には確か、王都を出て少し行った先にある森の中にある場所だった。


「これなら近いからすぐ依頼も終わるし、王都から出られる。」


「これにしようか。」


依頼掲示板から破り取り、カウンターに持っていく。

パーティ申請をして確認すると、郵便物を渡され、ジェティが持っている袋に入れた。


とりあえず目的は達成した僕たちは混んでいるギルドを出てとりあえず空気を吸った。


「「すぅ……はぁー」」


二人して一緒にしていたので、思わず顔を見合せて笑ってしまった。


「出るのは明日にしようか。店主殿に礼もしたいし。」


「そうだね、商い通りの方に行く?」


「いい案だ。」



大通りの隣の通りには商い通りと名前が付いていて、その名の通り外から来た行商が場所を借りて商売をしている。

珍しい物が多く、大陸中の商品が集まると噂もある。


通りに出るとそこにも人は集まっていた。


「うわぁ……やっぱりすごいよね、ジェ」


と、話しかけようと横を見たが、誰もいなかった。


「あ、あれ?!」


周りを見てもジェティらしき人が見当たらず、焦りを感じた。

人、人、人……









や、やばい……迷った?









「どうしよう、ジェティがお金持ってるから何かしら買ってきてくれると思うけど……」


とりあえず壁際に行き、人混みから外れることにした。


「すみません、すみません。」


そう言ってぶつかる人に謝り……あれ、なんかデジャブ?と思いながら、壁際に辿り着いた……と、思ったら路地裏に入ってしまった。



転移した時よりも道は広いが、暗くて、夜になったら完全に見えなくなるんじゃないかと思うくらい陽が当たらない場所だった。


「なんかじめっとしてるな……」


湿った地面を感じていると奥の方に気配を感じる。

怖い感じの気配ではないのはわかり、恐る恐る物陰を覗くと影が見えた。




そこには小さく丸まったぼろい布があった。。









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