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片腕の救世主  作者: あに
第1章 逃亡編
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第8話『王女と問題』






いつもは静かなシュトレイン国の城内は騒がしいほどに兵士が行き交い、騒然としていた。


南の隣国、イオカリスとの関係が悪化していく中、国内の安定も保たれていないまま、国境近くの町で市民による暴動が起きた。

領主の貴族屋敷への放火により、屋敷は全焼した。

市民は税の値上げに、貴族の横暴に、積もり似に積もっていた憤りが爆発したのだ。


その町はシュトレインの国でも大きな町の部類に入り、かなりの人数の国民人口が国に反感を抱いたと言っても過言ではない。

事態の収拾に兵を挙げるのにも遅くなり、今ではフィニアのように独立をしようとしてしまっている。


その町が独立をしてしまえば、国に入る税の金額が減り、国営が苦しくなり、さらに国民の税が上がり、伝染病のように不満が蔓延していくだろう。


「ただでさえ救世主殿が行方知れずとなってしまったという時に……」



先日、国のために召喚の儀式で呼んだ救世主は黒髪黒眼の魔力の高い人間だった。


アウリア第1王女が儀式を反対した時は、何を血迷ったか、と重鎮達は不信感を募らせたが、国王の支持と妹君であるティエル第2王女が巫女の血を持っているということで、アウリア第一王女の反対はなかったこととなった。

しかし、王女以外にも反対していた派閥は多く、その多くは兵士や騎士といった戦場に従事している者たちだった。10年前は進んで召喚に賛成していた騎士団団長も今回は首を縦には振らなかった。


召喚に成功した時は救世主を見て疑問の声がざわついていたが、王女が感じたのはとてつもなく強い魔力だったのだ。


彼は救世主である。



その噂が城内の誰もが知ることとなったとき、近衛騎士団の副団長であるアトル・ロッディスが救世主の模擬試合をすることとなった。

誰もが注目する中、救世主は手を出すまでもなく、アトルを地面に伏させたのだ。


まるで攻撃が読まれていたようだった。


と、彼は言った。



“今回の”救世主も国に平和をもたらすための礎となってくれるだろう、とだれもが期待した途端に起こった。





救世主の失踪。





追跡した兵士が言うには追尾していた魔力が急に消え、足取りがつかめなくなってしまったという。

まさか、そんなことが、と包囲網を広げ、警備を厳重にし、検問を徹底的にするようになった。


だが、未だに救世主は見つかってはいなかった。





「陛下、本日はリオ・カインの件でバールティン家当主が謁見に。」


「騎士団長に任せて良い。わしは救世主の件でティエルと話がある。わしの部屋に来るように伝えよ。」


「はっ。」


王の私室の前にいた兵士は早足で去った。


自分の年老いた皺くちゃの手を見ながら、怒りのこもった大きなため息をつく。

10年前のような大きな戦いが始まるのを防ぐために呼んだ救世主がまさかいなくなるとは思ってはいなかった。

“前の”救世主は戦いが終わったと同時に姿を消し、彼のことを伝説の英雄と煽る者までいる。


戦争が起きてしまったとしても新たな救世主が再びこの国に平和を施すことを約束してくれると希望を持っていた。




「なんと、信じがたいことか……っ。」




コンコン


『父上、ティエルです。』


「はいれ。」



入ってきたのはアウリアと同じく綺麗なプラチナブロンドの髪をもつティエルだった。

アウリアの代わりに巫女として儀式を行い、救世主の召喚を行った。

しかし、彼女が目を離したうちに救世主はいなくなったのだ。


「救世主殿はまだ見つからんのか?」


「は、はい……魔力の探知も無意味でこの国にいることは確かなはずです。」


検問をしている為、かならずそういった情報は入ってくる。

黒髪黒眼、もしくはそれを隠すために髪を染めていた人間の報告はまだ受けていない。


「この国は壁で覆われておりますから、町の正門しか出る場所はありませんから。」


「町の方にも捜索は出しておるのだろう?」


「はい……」


王都はかなりの面積を誇っており、その分、家や店などが列をなしている。

一つ一つ当たることはかなりの時間がかかるのだ。


「徹底的に探させるようにしろ、よいな?ティエル。」


「はい!必ず見つけ出してみせます!」








意気込む彼女とは逆に、姉は落ち着いた様子で部屋の中から空を見ていた。

傍らには彼女の近衛騎士が立っている。

年齢的にはアウリアよりも低いが、腕はかなりのものである青年だ。


彼は腰に独特の剣を下げ、微動だにせず直立している。


「彼は大丈夫でしょうか。」


「ルンブルクがついていますから、隠れてはいるでしょう。」


「さすがに通行証を用意することは無理でしたから、心配です。」


彼女の声色はかなり落ち込んでいて、青年はお茶を淹れましょう、と言った。


「あなたも、本当は彼について行きたかったのではなくて?」


ティーカップを剣だこのできた手で器用に扱う手元を見た。

動揺するそぶりを見せない彼にふふ、と笑った。


「できれば、と言いたいところですが、自分は殿下から離れることはできないので」


近衛騎士は王族付きで選抜された者で構成されている。

王族の信頼が厚い者や、実力がある者の集まる為、エリートといわれることもある。


許可なく国を出ることを禁じられ、常に王族のそばに控えている。


「それでは私が城を出たら、ついてきてくれるかしら?」


「?!それは……」


「あなたも、あの人に会いたくはないのですか?」


いつしか消えてしまった彼の恩人。

まだ騎士になりたてだった青年の前を歩いていた背中を思い出す。


もし、また会えるのなら、一言だけでもいい。

会って、話たい。


「会いたいでしょう?」


「……しかし、国内の治安が沈静化していない中、王都から出るのは危険が高すぎます!」


自分は近衛騎士として殿下を危険な目に合わせるわけには……っ





「なんて、冗談です。」




真面目に考え、説得しようとした彼の表情が呆気にとられたものに変わった。


「で、殿下……」


「あら、おちゃめでしょう?」


(あの人がいなくなってからも、殿下は変わることはなかった。)

召喚の儀式を反対している彼女の必死さは目に見るだけでも十分辛そうだった。

しかし、召喚してしまった後も、部屋にこもり、何かを考えている様子だった。


「でも、会いたいと思うのは本心です。会わないほうがいいということは分かっていますけど。」


自嘲気味に笑い、紅茶を飲む。

最近になってよくからかわれる対象になってしまった青年としては慣れてしまった会話だ。

それでも、心労は増える。





「自重してください。」










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