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「なんだ、田舎もんじゃないか」と見下された辺境令嬢、婚約破棄して帰ります 〜ワイバーンを狩る淑女にケンカを売った結果〜

作者: あいあメル
掲載日:2026/07/04

 虫の声が響き渡る星が輝く夏の夜。

 王都にあるアルノルト侯爵邸にて開かれた夜会にて。


「ローザリンデ! お前とは婚約しない!お前との婚約の約束は破棄する!」

「はい?」


 辺境伯家の三女。まだ十五歳のローザリンデは口をぽかんと開けていた。


「これって私とあなたの婚約お披露目パーティーではないのですか?」


(実家のある辺境伯領から、はるばる王都までやって来たのに、どういうこと!?)


 理解が追いつかない。


「ふはは、バカが。お前のような魔力の低いクズと、なぜ結婚せねばならぬのだ」


 そう言って高笑いする元?婚約者のレオナルド様。


「私はここに宣言する! ローザリンデ・ベルシュタインとの婚約は破棄し、新たにリリア・ローゼンバーグ男爵令嬢との婚約を行うと!」


 そう言ってレオナルドは一人の男爵令嬢を抱き寄せる。

 聴衆たちがざわめきだす。


 ちらりとローザリンデが父親の方を見ると、顔を真っ赤にしたり真っ青にしたり、交互に顔色を変えている。


(あら、お父様も予想外だったみたいね)


「さらに言えば、辺境伯家のことも断罪する! 魔力に優れていると言いながら、検査では最低ランクの魔力しかなかったクズを、我が侯爵家に嫁がせようとしてきた! これは立派な詐欺である!」


 ざわめきが大きくなる。


(それについても説明したのだけれどね)


 ローザリンデのそんな思いは届かない。


「衛兵! この罪人を捉えよ! 裁きを受けさせるまで、投獄するのだ!」

「レオナルド! 何をしている! やめなさい!」


 レオナルドの父であるアルノルト侯爵が声を上げる。しかしレオナルドは振り返りもしない。


「父上、これは僕が決めたことです。魔力の少ないクズ女を侯爵家に入れるわけにはいかない」


 衛兵たちが現れる。

 全て準備済みだったらしい。


「衛兵、下がるのだ!」


 アルノルト侯爵が命じる。しかし、衛兵は動かない。


「父上。この衛兵たちは僕が個人的に雇った者です」


 自慢げなレオナルド。

 衛兵たちは参加者と違って杖を装備していた。


 青ざめるアルノルト侯爵。


 一方、ローザリンデの頬は自然と緩んでいた。


(いいでしょう。売られたケンカは買いますわ。けど、最後に確認しておかないとね)


「レオナルド様。これは私に敵対するということで良いのでしょうか?」

「敵対? バカが。お前は低魔力で、しかも所詮、女だろ? 魔術師だとしても、敵にならんわ」


 そう言って高笑いする。

 この世界では女の魔術師の数は少なく、軽く見られていた。


「そうですか……。わかりましたわ」

「ローザリンデ、やめろ! やめてくれ! 頼む! お願い!」


 お父様の声が聞こえる気がするが、気のせいだろう。


 ローザリンデはにっこりと微笑んだ。


 ♦︎


 ローザリンデは国境沿いの辺境伯家、その三女である。


 淑女らしく、立派に野を駆け、剣の腕を磨き、魔物を打ち倒して育った。


 もう一度言う。


 立派に野を駆け、剣の腕を磨き、魔物を打ち倒して育った。


「ローザリンデ! どこに行ったんだ! 礼儀作法の勉強の時間だぞ!」


 辺境伯家。ベルシュタイン辺境伯の声が響く。


「お嬢様なら、先ほどワイバーンの巣に行くと言っていましたよ」

「なんだと!」


 ベルシュタイン辺境伯はその禿げかかった頭を抱えた。


「ワイバーンは最低でも二十人の騎士で倒すことが推奨されている魔物なのに……どうしてあの子は命知らずなのだ」

「ご当主様……ローザリンデ様のことは諦めた方が良いかと。こちら、胃薬になります」


 ベルシュタイン辺境伯は執事から胃薬を受け取り、そこにあった水と共に飲み込む。


 その時、屋敷から見える森の方で土埃が上がった。


「ああ………」


 やがて森の入り口にローザリンデが姿を現した。ドレスの裾は泥だらけで、髪には枝が絡まっている。


 背中にはワイバーンの角がある。


「お父様〜! みてください〜! 上物です!」


 そう叫び、満面の笑みで角を掲げるローザリンデ。


「お土産です! 飾りましょう!」


 ベルシュタイン辺境伯は額を抑えた。


「あの子を大人しくさせるためには、どうしたら良いのだ……」

「好きな人でも見つけるしかないんじゃないですかね?」

「それだ!」


 ローザリンデの婚約が決まったきっかけは、執事の些細な一言がきっかけだった。


 夕食の席で、ベルシュタイン辺境伯はローザリンデにさりげなく?聞いてみることにする。


「ローザリンデ、結婚してみる気はないか?」

「ないです」


 ワイバーンの肉を頬張りながら、ローザリンデが答える。

 最低限のマナーは守られていたが、それは淑女というには少々乱暴な姿だった。


「なんでわざわざ結婚などしなければならないのですか? 今こんなに楽しいのに」


 ローザリンデが肉から目を逸らさずに言う。

 そこには微塵も結婚への興味が感じられなかった。


 その姿を見てガックリと肩を落とすベルシュタイン辺境伯。


 しかし、ベルシュタイン辺境伯は顔を上げる。

 彼には秘策があったのだ。


「……王都には強い男がいるぞ。結婚すれば強い相手と毎日鍛錬ができるはずだ」

「……!」


 ローザリンデは肉を飲み込み、考え込む。


 その様子を見て、このまま押せばいける。そう考えたベルシュタイン辺境伯が追撃する。


「何より、王都に行けば魔術学院がある。そこに入学できれば、もっと強い魔術が学べるぞ」

「……なら、魔術学院に入学だけでも良いではないでしょうか?」

「家のためにならんなら、この話はなしだ」


 ぐぬぬ。悔しそうな顔をするローザリンデ。

 ベルシュタイン辺境伯は真剣な表情になる。


「いいか。ローズ。お前は本当に可愛い。心の底から愛している。だからこそ、結婚して幸せになってほしいと思うのだよ」

「……私は今のままでも十分幸せですが」

「愛する人を得たら、もっと幸せになれるさ」


 そう言って、ベルシュタイン辺境伯はにっこりと笑った。


「天国にいる母さんのためにも、ぜひ結婚を考えてくれないか」

「……」


 ローザリンデはフォークを置いた。


 母の記憶はほとんどない。

 けど、その温かな体温だけは覚えていた。


 父はずっと一人で私のことを育ててくれた。


 そんな父が結婚を望んでいるのだ。


 ローザリンデが結婚する意思を固めたのは、一週間後のことだった。


 ♦︎


 一年後、王都にローザリンデはいた。


「ローザリンデ、本当にお相手が見つかってよかった」

「……本当にレオナルド様は強いのですよね?」

「ああ、魔術学院の中等部を優秀な成績で卒業したと聞いている。このまま高等部に進学するそうだ。エリート中のエリートと言っていいだろう」

「なるほど、それは楽しみですわね」


 揺れる馬車で、父と娘、会話が弾む。とは言っても、戦闘のことばかりだったが。


「王都には、辺境伯領とは別種の魔物もいると思いますし楽しみですわ」

「……いいか、魔物狩りに行くんじゃない。あくまで結婚に行くんだ」


 一年前からさらに薄くなった頭を抱えながら、ベルシュタイン辺境伯は確認する。


「……わかっていますわ。しっかりと礼儀作法の勉強もしましたし、お任せください!」


 ベルシュタイン辺境伯は思わず不安げな表情をしてしまう。


「……お父様? 可愛い娘が信じられないのですか?」


 ローザリンデが拳を握りしめると、ベルシュタイン辺境伯は慌てて手を横に振る。


「そんなことはない! 信じているとも。……ただ、頼むから騒ぎは起こしてくれるなよ? 頼むぞ? フリじゃないぞ?」


 ローザリンデはその言葉を聞いて、満足そうにうなづく。


「わかっておりますわ」


 そう言って窓の外を楽しげにみる。そこには、年相応の令嬢がいた。


 それを見るベルシュタイン辺境伯は、不安げな瞳のままだった。

 しかし、やがて浅く呼吸をして首を横に振った。


 娘が幸せになるのだ。自分が信じてやらねばどうする。


 そんな思いで辺境伯が娘のことを見ていると、アルノルト侯爵邸の前に馬車が着く。


「……いいか。問題だけは起こすんじゃないぞ? 約束してくれ。いいか?」

「もう、わかってるって……いや、わかっていますわ。お父様」


 それを聞いて不安げなベルシュタイン辺境伯。


 しかし、会うのをやめるわけにもいかない。


 コンコン。扉が叩かれ、馬車の扉が開く。


「わあ、すごい」


 馬車を降りると、辺境伯も思わず唸る荘厳な邸宅があった。


 王都の一等地に構えるアルノルト侯爵邸。


 白い壁に大きなガラスの嵌められた窓。

 大きなガラスは歪みなく作るのが難しく高級品だ。


 家の前には、整然とした庭園が広がっている。

 季節外れの花々が咲き誇っているのは、専属の魔術師が気候を操っているからだろう。


 それだけの魔力を、たかが庭の花に使える家。

 それが侯爵家だった。


 ローザリンデがキョロキョロとしていると、ベルシュタイン辺境伯が咳払いをする。


 それを聞いて、背筋を伸ばして、お嬢様に擬態するローザリンデ。


 ベルシュタイン辺境伯は、思わず顔をしかめる。

 が、すぐに表情を消す。


「こちらへどうぞ」


 老年の執事に、応接間に通される。


 応接間は田舎の伯爵家の大広間より広かった。


 天井には魔力で編まれた紋章が浮かんでいる。

 壁一面を覆う本棚には、革張りの魔導書がぎっしりと並び、その一冊一冊が微かに魔力を纏っている。


 ソファに座ると、身体が沈み込んだ。座面の布地にまで緩衝の魔法が織り込まれている。

 こんなところにまで魔力を使うのかと、ローザリンデは思わず目を丸くした。


 テーブルの上には紅茶が用意されていた。よく見ると、カップに魔術刻印がされている。温度を保つ魔法だ。


 この家では、呼吸するように魔法が使われている。

 それが、一目でわかる部屋だった。


 ローザリンデが必死に辺りを見回したいのを堪えていると、扉を叩く音がした。


「よく来てくれたな」


 そこには、髭を立派に蓄え短く刈り上げられた清潔感のある男性と、どこか気取ったような表情をしている少年がいた。


「我が友よ! 会いたかったぞ!」


 ベルシュタイン辺境伯が立ち上がり、アルノルト侯爵とガッチリ握手をする。

 父の様子を見て、ローザリンデも慌てて立ち上がる。


「彼女が……?」

「ああ、我が娘ローザリンデだ」


 ローザリンデはカーテーシーをして挨拶をする。


「なんだ、田舎もんじゃないか」


 ボソッと呟く声が聞こえた。

 目だけ前を見ると、少年がこちらを馬鹿にしたようにした目で見て来ているのがわかった。


(なんなのこいつ……! まさか、こいつが?)


「紹介しよう、我が息子レオナルドだ。ローザリンデ嬢の婚約者だ。よろしく頼む」


 レオナルドが一礼する。


(最悪だわ)


 ローザリンデの予想は最悪の形で当たってしまった。


「さて、かけてくれ」


 そう言われて座る二人。


 そこからのことは、ローザリンデはあまり覚えていない。

 初めて見る魔道具を見るのに夢中だったからだ。


 けど、時々馬鹿にした視線を感じていたことだけは覚えている。


 そんなこんなでローザリンデは結婚することになった。


 ♦︎


 そうしてやって来たお披露目の婚約パーティー。


 裏で入場を待っているローザリンデ。


 歓談する貴族たちの声が聞こえる。


「本日は我が息子レオナルドと、ベルシュタイン辺境伯家のローザリンデ嬢の婚約をお披露目する場にございます。では、どうぞ」


 レオナルドに続いて、父と共に扉から入場する。


 拍手が温かい。


(あ、シャンデリアにも魔術がかけられているわね。すごいわ! さすが侯爵家!)


「こら、集中しなさい」


 こそっとローザリンデに呟くベルシュタイン辺境伯。


「はーい」


 小さな声で返事をする。


(あーあ、あんな奴と結婚するなんて嫌だなあ。なんとかならないかしら)


 そう思っていたら、気がつくと会場の中央近くだった。


 レオナルドが目の前にいる。


 なぜだろう、ニヤリとしている。嫌な感じだ。


 侯爵様の挨拶が終わった。


「では、レオナルド、お前からも一言」


 そう言って、レオナルドの言葉を待つ。


 一歩、レオナルドが前に進み出る。


「ローザリンデ! お前とは婚約しない!お前との婚約の約束は破棄する!」


 ——そう、これが、ローザリンデが婚約破棄を宣言された少し前のことだった。


(そう、あなたは私の敵なのね)


 ローザリンデは魔力を解放した。


「敵対するとのことなので、遠慮なくやらせてもらいます」


 そう言ってローザリンデはにっこりと笑う。


 大気が震える。


「な、なんだこの魔力は……魔力は最低値じゃなかったのか!?」

「ああ、私魔力が強すぎるみたいなんです。それでいつも測定器が壊れるんですよね」


 こともなげに言うローザリンデ。


「つ、つまらない嘘をつくな。衛兵、やってしまえ!」


 衛兵たちが杖に魔力を込めた。


(こんなところで魔術を使ったら、被害が出るでしょうに)


 ローザリンデは軽くため息をつく。


 次の瞬間、ローザリンデの姿が消えた。


「あれ? どこ行った?」


 衛兵たちが、魔術の発射対象を見失った時だった。


 衛兵の一人が吹っ飛び、壁に刺さる。


「なっ!」

「どこだ! どこにいる!」


 また一人、吹っ飛ぶ。


「卑怯な!」

「何が卑怯なのですか? ワイバーンはもっと早いですわよ?」


 そう言って、後ろから姿を現したかと思うと、拳を叩きつけるローザリンデ。

 もちろん、ローザリンデは客人にぶつからない方向に吹っ飛ばすことを忘れない。


 数十秒がたっただろうか。


 レオナルドの用意した衛兵たちは、皆壁に突き刺さってオブジェとなっていた。


「なんだ、この強さは……一体何をしたのだ!」


 レオナルドが思わず叫ぶ。


「何って……ただの身体強化魔法ですわ」

「嘘だ! ここまで強化されるなんてありえない!」

「だから言っているじゃありませんか。私は魔力が強いと」


 いつの間にか、ローザリンデはレオナルドの目の間に姿を現していた。


「それで、あなたは敵なんですよね?」


 そう言ってにっこり笑うローザリンデ。目はもちろん笑っていない。


「ところでレオナルド様。初めてお会いした日のこと、覚えていらっしゃいます?」


 レオナルドの目が泳ぐ。


「『なんだ、田舎もんじゃないか』と仰いましたわね」


 ローザリンデは一歩、距離を詰める。


「確かに私は田舎もんですわ。野を駆けて、ワイバーンを一人で狩って育ちました」


 もう一歩。


「それから、辺境伯家が詐欺を働いたと、父と我が辺境伯家を馬鹿にしましたわよね」


 ローザリンデの声が低くなった。


「父は娘のために禿げるほど心配して、愛情を惜しみなく注ぎ込んでくれた人です」


 レオナルドが尻もちをつく。


「田舎もんで、女にやられる気分はどうですか?」


 決まった。そうローザリンデが思った時だった。


「なっ……この魔女め!」


 レオナルドが素手で魔術を発動させようとした。

 しかし魔術が生成されるどころか、魔力が暴走し出した。それもそうだ。暴走させないために普通は杖を使うのだから。


 しかしパーティーの参加者であるレオナルドは杖など持っていない。


「きゃああああ」

「早く逃げろ!」


 魔力圧で窓ガラスが割れ、テーブルが吹き飛ぶ。

 参加者たちが魔力の暴発から、なんとか逃げようとする。


 誰も間に合わない。


 そう思った時だった。


 ローザリンデが右手を挙げた。


「火属性の魔術は火事になるから、屋内では使ったらダメなのに……」


 そう呟きながら水属性の魔力を練り上げ、一気に放出した。


 暴走の炎が膨れ上がった瞬間、ローザリンデの魔力がそれを包み込む。


 蒸気すら残らない。

 完全な相殺。


 沈黙が会場を支配する。


 みんな黙っていた。


 アルノルト侯爵も。

 レオナルドも。

 参加者の貴族も。

 そして、こっそり参加していた第二王子も。


 ベルシュタイン辺境伯が頭を触ると、貴重な髪の毛が抜けたのがわかった。


「未熟者が杖も使わずに魔術を使うから、こうなるのですよ」


 ローザリンデはふんと鼻を鳴らした。


 レオナルドは、それを呆然と聞くだけだった。


 その時、静まり返った会場に、低い声が響いた。


「ベルシュタイン辺境伯」


 アルノルト侯爵だった。


 彼は弱々しい顔で、ベルシュタイン辺境伯に向かって深く頭を下げた。


「このたびの愚息の振る舞い、侯爵家当主として心より詫びる。貴家に詐欺などという事実はない。非はすべて、我が息子レオナルドにある」


 会場がざわめく。


 レオナルドの顔から血の気が引いた。


「父上……?」


「黙れ」


 アルノルト侯爵の声は冷たかった。


「婚約お披露目の場で客人を侮辱し、私兵を雇って捕らえようとし、さらには杖も持たずに魔術を暴走させた。お前に侯爵家の名を背負う資格はない」


「そ、そんな……」


「レオナルド。お前の魔術学院高等部への進学は取り消す。しばらくは領地で謹慎し、基礎から学び直せ」


 レオナルドはその場に崩れ落ちた。


 隣にいたリリア・ローゼンバーグ男爵令嬢は、いつの間にか彼の腕から離れていた。


 ローザリンデは、それを見て小さく息を吐く。


 父と家の名誉は守られた。


 なら、もう十分だ。


 ローザリンデは父親の方に振り返った。


 辺境伯は頭を抱えていた。いつも通りの光景だ。


「お父様、帰りましょう。王都には強い人がいなくてつまらないですわ」


 砕けた窓ガラスから、会場には月の光が入り込んでいた。


 まるで王都の退屈な空気が壊れたかのように。


 辺境伯は苦い顔をする。


「……問題は起こすなと言っただろう」

「起こされたんですわ。私からではありませんもの」


 そう言ってローザリンデが踵を返そうとした、その時だった。


「それは少し、早計ではないかな」


 聞き慣れない声に、ローザリンデは足を止めた。


 人垣が割れる。


 そこに立っていたのは、涼やかな顔立ちの青年だった。


 周囲の貴族たちが一斉に息を呑み、膝を折る。


 第二王子だった。


「ローザリンデ・ベルシュタイン嬢。王都がつまらないと決めつけるには、まだ早い」


 第二王子は微笑む。


「少なくとも、私は君に興味がある。これほど見事な魔術師を、王都がこのまま帰すとは思わない方がいい」


 ローザリンデはぱちぱちと瞬きをした。


「……あなたは、強いのですか?」


 会場の空気が凍った。


 ベルシュタイン辺境伯が両手で頭を抱えた。


 第二王子は一瞬きょとんとした後、楽しそうに笑った。


「少なくとも、ワイバーンよりは話が通じるつもりだよ」


「それは、強さの説明になっていませんわ」


「では、いずれ証明しよう」


 その言葉に、ローザリンデは少しだけ目を輝かせた。


 王都も、少しは退屈しないかもしれない。


 ローザリンデの顔が突然真っ青になる。


(修理費どうしましょうか)


 月の光に照らされる彼女は、まるで天使でも悪魔でもなく、ただの泣きそうな十五歳だった。


 終


たくさんの作品の中から、本作をお読みいただきありがとうございました。


最後まで読んでいただけたこと、とても嬉しいです。


少しでも心に残るものがあったり、何かを感じていただけたなら、

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