表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
二度目の人生は勇者パーティに入りません 〜裏切られた最強魔導士、今度はSランク冒険者と魔王を先に倒します〜  作者: 月代
第三章「Sランクの旅」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

30/56

第三十話 旅は続く、まだ言葉にならないまま

王都外郭を離れる朝。

 石壁が遠ざかるほど空気が軽くなる。


 レインは露骨に機嫌が良くなり、歩く速度が上がった。アネスも肩の力が抜けた顔をしていた。


「あれは戦いじゃなくて胃が痛くなるやつ」


 レインが笑うと、アネスが頷く。


「だから終わったのは大きい。当分は来ないと思う。書面が効いてる」


 アルドは黙って頷いた。背負う荷は同じだが、足取りが軽い。

 書面一枚で全てが解決するわけではない。でも、足元の石が一つ減った。


     ◇


 ベルナの混乱はまだ続く。

 だから次は西の交易路を回り、補給が詰まっている村を見ながら依頼を受ける、とアルドは言う。


 丘で休憩した時、アルドが地図を広げた。草の上に座り、四人で地図を囲む。風が紙の端を揺らし、レインが石で押さえた。


「旧砦跡の村に寄れる。南の森で魔物の動きが変だって報告もある」


 セラは前世の記憶が囁くのを感じた。

 “変だ”は大きな出来事の前触れになり得る。魔物の移動パターンが変わる時、その原因は二つ。自然環境の変化か、もっと大きな魔物に追われたか。後者なら、注意が要る。


 けれど、今はそれだけで決めない。


「報告の数は?」


 セラが聞く。


「一件なら偶然もある。情報を増やしてから動いた方がいい」


 レインが同意し、アネスが負傷者の有無を先に見る提案を出す。


 決め方は静かで、押し付けがない。一人が言い、一人が賛同し、一人が補足し、一人がまとめる。誰が主導というわけでもなく、言葉が自然に回る。


 そのやり取りを聞きながら、セラは少しだけ口元を緩めた。

 こういう”普通”が、この旅にはある。


     ◇


 午後の街道、風が強い。草原が波のようにうねり、雲が速く流れている。


 セラはふとアルドの横顔を見る。

 城都での顔、会議館での声、街道で商人にかける気安さ。

 全部が同じ人間の中に収まっている。どの顔も嘘ではなく、どの声も演技ではない。場所に合わせて表面は変わるが、芯は動かない。


 たぶん自分も同じだ。

 追放の記憶、前世の傷、ソロの二年間、今の旅。

 切り離せないものが、少しずつ繋がっていく。


 前世のセラは壊れた。今世のセラは壊れないように生きてきた。

 でも”壊れないように”は、“繋がらないように”でもあった。


 今は違う。壊れるかもしれない距離にいる。

 それでも、離れたいとは思わない。


     ◇


 野営地で火を起こした夕方。


 空が赤から紫へ変わり、最初の星が一つ現れた。薪が爆ぜる音と、鍋の底が焦げる匂い。レインが鍋番で、アネスが味見をして「薄い」と言い、アルドが塩を足す。


 胸の奥で言葉にならない感覚が動いた。


 離れたくない。


 理由はまだ言えない。

 助けられたからだけでは足りない。

 役に立てるからでもない。


 呼吸の仕方が変わる、この並びのせいだ。

 四人でいる時の空気の重さが、ちょうどいい。

 軽すぎず、重すぎず、自分の形で立っていられる。


 火越しにアルドが聞く。


「寒くないか。薪足す?」


「……大丈夫です」


 いつもの短い返事。

 でも今日は、その後に言葉を足した。


「このくらい、ちょうどいいです」


 レインが茶化す。「おっ、セラが二文続けて喋った。記念日だ」


 アネスが呆れる。「うるさい。せっかくの空気を壊さない」


 アルドは苦笑して火を見た。


 セラは自分でも驚く。

 言葉を足すのが、怖くなかった。


     ◇


 旅は続く。


 政治の影も、街道の不穏も消えない。

 南の森の報告が何を意味するのかも、まだ分からない。


 それでも今のセラは、一人ではない。


 言葉にならない確かさを胸の底に置いたまま、火の音を聞き続けた。

 隣には三人の気配がある。それだけで、夜は怖くない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ