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二度目の人生は勇者パーティに入りません 〜裏切られた最強魔導士、今度はSランク冒険者と魔王を先に倒します〜  作者: 月代
第一章「追放と再生」

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第三話 利用される才能、捨てられる娘

十一歳から十五歳までの四年間で、

セラは伯爵家にとって"便利な魔術師"になった。


     ◇


 十二の秋。


 庭の害獣避けの結界を任されたのが始まりだった。


 次は倉庫の湿気取り。


 冬の朝には、馬車の車輪に氷割りの術。


 夏には、来客用の部屋の送風。


 本来なら屋敷付きの魔術師や使用人が分担する

 仕事を、セラにやらせれば金が浮く。


 父はそう判断したのだろう。


「セラ、東の畑の魔物避けが薄れている。

 夕方までに張り直せ」


「承知しました」


「終わったら中庭の照明術式も確認しておけ。

 巡察隊が来る」


「はい」


 命令は増えた。


 でも褒め言葉は増えない。


 できて当たり前。


 失敗すれば叱責。


 けれどセラには、ただの労働だった。


 むしろ都合がいい。


 家の命令という形なら、堂々と魔法を使える。


 持久力も制御も鍛えられる。


 夜には自分の訓練。


 昼には家の仕事で実践に近い反復。


 十四歳になる頃には、表向きに見せている

 実力だけでも前世の十五歳を超えていた。


 もちろん、本当の力は隠したまま。


 表に出しているのは、

 あくまで"少し優秀な娘"の範囲だ。


     ◇


 十三の冬。


 家の中の空気が、一段と冷えた。


 リオンは剣の稽古ばかりで、魔法に興味はない。


 それでも父がセラに仕事を命じるたび、

 露骨に機嫌を悪くした。


「またお前かよ」


 廊下ですれ違いざま、リオンが吐き捨てる。


「伯爵家の顔を立てるのは俺だ。

 魔法ごときで調子に乗るな」


 言い返さない。


 意味がないから。


 ミレイユは前より直接的になった。


「その術、どこで習ったの?」


「本で」


「本だけでそんなふうになるわけないじゃない」


 責めるような口調。


 でもその奥にあるのは、

 怒りより焦りだとセラはわかっている。


 ミレイユは努力家だ。


 礼儀作法も、楽器も、社交も、人一倍やってきた。


 だからこそ、魔法だけ埋まらない差が

 許せないのだ。


 正妻の小言も増えた。


「セラ、返事ははっきりなさい」


「セラ、姿勢が悪いわ」


「セラ、あなたは自分の立場を理解しているの?」


 毎日、毎日、形を変えて降ってくる。


 セラはすべて頭を下げて受け流した。


 どこで反論すれば火に油かも、

 もう体が覚えている。


 黙って耐える。


 追放の日まで、力だけを積む。


 それが最適解だ。


     ◇


 十四歳の冬。


 領内の森で中型魔物の群れが出た。


 本来なら領兵と冒険者ギルドが対応する案件だが、

 到着が遅れているらしい。


 父は屋敷周辺の防備を優先させ、

 セラにも結界補強を命じた。


「正門と外塀、あと東畑の周辺だ。二重で張れ」


「承知しました」


 セラは淡々と術式を刻みながら、

 感知を森のほうへ伸ばした。


 気配が多い。


 しかも、近い。


 前世の記憶より、進路が少し東にずれている。


「……このままだと村に出る」


 前世では森の西へ抜けた群れが、

 今世では東へ寄っている。


 ほんの少しのズレ。


 でも、その少しで被害は変わる。


 村の納屋が焼けるかもしれない。


 子どもが巻き込まれるかもしれない。


 セラは唇を噛んだ。


 放っておけばいい。


 家の命令は屋敷防備だけだ。


 余計なことをして目立つ必要はない。


 ――それでも、足が止まらなかった。


 セラは人気のない裏門から森へ向かった。


 木々の間を走りながら魔力を練る。


 感知した数は十五。


 狼型が十。


 甲殻種が五。


 ただし全部を相手にする必要はない。


 村の方角へ逸れかけている先頭の数体を仕留め、

 群れの進路を西に戻す。


 それだけでいい。


 最初の狼型が飛び出す。


 セラは一歩も引かず、風刃を三枚展開した。


 一枚目で視界を裂き。


 二枚目で前脚を断ち。


 三枚目で喉を切る。


 倒れる前に、次の個体へ火球を圧縮して撃ち込む。


 爆発は小さく、威力は内部へ。


 甲殻種には土槍を関節へ刺し、

 動きが止まったところへ火で追撃。


 詠唱は短い。


 動きに無駄がない。


 先頭の五体を片づけたところで、

 残りの群れが動きを止めた。


 先行した仲間の気配が消えたことで、

 警戒している。


 ここで火を追加する。


 森の西側の空に向けて火球を一つ、

 わざと派手に打ち上げた。


 炸裂音と光に驚いた群れが、

 本能的に反対方向――西へ走り始める。


 村からは遠ざかる方角だ。


 残りは領兵と冒険者が処理できる。


 セラは木にもたれて息を吐いた。


 倒したのは五体。


 感知と誘導で残りを操った。


 力任せに全部を倒すより、こちらのほうが証拠も

 少なくて済む。


 肩で呼吸しながら感知を広げる。


 追加の気配はない。


「……終わった」


 安堵より先に、自己嫌悪が少しだけ湧いた。


 また、余計なことをした。


 関係ないとわかっているのに、

 結局見捨てられなかった。


 血のついた手を見下ろした、そのとき――。


「いたぞ! こっちだ!」


 領兵の声が近づいてきた。


 セラは内心で舌打ちした。


 もう少し早く離脱すべきだった。


 森の入口から父と領兵たちが現れる。


 セラが持ち場にいないことに気づいて探しに

 来たのだろう。


 足元の魔物の死骸を見て、父の目が見開かれた。


「……お前がやったのか」


「群れの先頭が領都側に向いていたので、先頭だけ

 止めました。残りは音で西に追いやっています」


 全部を一人で倒した、とは言わない。


 事実だけを並べる。


 父の顔に浮かんだのは、驚きと計算だった。


 褒めるでもなく、ただ値踏みする目。


「勝手な行動は困る」


「申し訳ありません」


「だが……結果は悪くない」


 領兵たちがざわめく。


「先頭を叩いて、残りを誘導したって?」


「伯爵家の娘って、あの……?」


「たいした嬢ちゃんだな」


 五体でも十分すぎるほど目立ったが、

 十五体単独撃破よりはましだ。


 セラは表情を動かさず、頭を下げた。


 その日を境に、父はセラをさらに露骨に使うように なった。


 外向きには功績を語る。


 宴席で軽い術を披露させる。


 取引相手の前で"うちの娘は魔法が得意でね"

 と笑う。


 娘、という言葉に愛情はない。


 家の札として差し出しているだけだ。


 一方で、家の中の空気は限界まで冷えた。


 リオンは口を利かなくなった。


 ミレイユはセラの前で笑わなくなった。


 正妻は笑顔のまま、刺すような言葉を増やした。


 そして、セラにはわかっていた。


 もう長くない。


 追放の日は近い。


     ◇


 十五歳の誕生日から一週間後。


 セラは父の執務室へ呼ばれた。


 前世と同じ日、同じ時間。


 扉の前で立ち止まったとき、

 セラの胸は驚くほど静かだった。


 ノックして入る。


 父と正妻がいる。


 二人とも、決定事項を告げる顔をしていた。


「セラ、座れ」


「はい」


 椅子に腰かけると、

 父は書類を整えながら口を開いた。


「お前も十五になった。いつまでも屋敷に置いておく わけにはいかん」


「……はい」


「修道院へ入れる案もあったが、お前には魔法の

 腕がある。ならば冒険者として自立したほうが

 家のためにも、お前のためにもいい」


 綺麗な言い方だ。


 要するに、邪魔だから出ていけ。


 正妻が続ける。


「最低限の旅支度は用意しました。感謝なさい。

 普通なら婚外子にここまでしません」


 あの日の自分なら、追い出されるのに恩を

 着せられる悔しさで、まともに声が出なかった。


 でも今は違う。


「ご配慮、ありがとうございます」


 静かに頭を下げる。


 父も正妻も、一瞬だけ意外そうな顔をした。


 もっと取り乱すと思っていたのだろう。


「出立は三日後だ。それ以降は自分で生きろ」


「承知しました」


 それで終わり。


 引き止める言葉はない。


 体裁以上の情もない。


 予想通り。


 記憶通り。


 なのに、胸の奥に小さな痛みだけが残る。


 たぶん、まだ完全に捨てきれていないのだ。


 "家族かもしれないもの"への、薄い未練を。


 執務室を出る。


 廊下の窓から、冬の光が差していた。


 セラは拳を軽く握る。


 十五歳で追放。


 ここまでは前世と同じ。


 でも中身が違う。


 魔法の理論も、戦い方も、裏切りの記憶もある。


 ――ようやく始まる。


     ◇


 出立前夜、荷物をまとめ終えた頃、

 部屋の扉が小さく叩かれた。


 マーサだった。


 手には小さな包みを持っている。


「規則違反かもしれませんが」


 差し出された包みの中には、硬パン、乾燥薬草、

 丈夫な手袋。


 どれも旅で役に立つものばかりだ。


「……どうして」


 思わず聞くと、マーサは少しだけ笑った。


「どうして、でしょうね」


 少し考えるように目を伏せてから、静かに続ける。


「セラ様は、ずっとご自分で立って

 おられましたから。明日からも、きっと

 立っていけます」


 その言葉に、セラは返事ができなかった。


 優しさは苦手だ。


 見返りのない励ましは、もっと苦手だ。


 胸の奥の、まだ凍り切っていない場所を

 触られる気がする。


「……ありがとう」


 やっとそれだけ言うと、マーサは深く一礼した。


「どうかご無事で」


 扉が閉まる。


 部屋に一人になったセラは、包みを見つめた。


 家族からは何ももらわない。


 でも、何もなかったわけじゃない。


 その事実だけは、覚えておこうと思った。


 窓の外で、冬の風が木々を鳴らしている。


 明日、この屋敷を出る。


 追放ではある。


 でも、絶望の門出じゃない。


 これは再出発だ。


 誰にも奪われないための、最初の一歩。

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