第二十四話 王家派閥の影
ミルネ三日目。会談の代償のように、視線が増えた。
朝、宿を出た時から感じていた。露店の前、角の陰、門の脇。視界の端にだけ残る影。じっと見ると消え、目を逸らすと戻る。
上手い監視は、存在を主張しない。ただ”見られている”という圧だけを残す。
レインが朝食の席で指を折りながら数える。
「三組。たぶん別口。朝の路地で二人、門の近くに一人、宿の向かいの窓に影が一つ」
アネスがため息を吐く。「派閥が違うのね。連携してない」
アルドは黙ってパンを千切った。「ミルネにいる限りは続く」
◇
城都のギルドで受けたのは橋梁点検の護衛。
技師の作業中、周辺の安全を確保する依頼だった。
“派手に動きにくい場所”というレインの言葉で決まる。
街中で目立つ戦闘をすれば、監視者に材料を与えるだけだ。
橋は石造りで、川幅は広い。水面が低く、橋脚が露出している。技師たちは足場を組んで石の状態を確認していた。
橋のたもと、妙な人の流れが増えた。
野次馬か監視か判別しづらい配置。わざとらしく立ち止まる者、何度も同じ場所を通る者。
セラは魔力反応を薄く広げ、同時に水面の揺れを見る。
水面の下に、動くものがあった。
橋脚に水棲の甲殻魔物が三体。硬い殻を持つ、川に住む小型の魔物だ。人の振動に寄っている。足場を組む技師の作業が、振動で彼らを刺激していた。
放置すれば落下者が出た時に危ない。
戦闘は短く、目立たぬよう慎重だった。
レインが水面に矢を射って一体の目を射抜き、セラが氷膜で動きを遅らせ、アルドが橋脚に降りて下段で刃を入れる。アネスは技師を危険から外し、「作業は続けてください。すぐ終わります」と声をかけた。
静かに終わらせたつもりでも、監視の目は見逃さない。
戻ると視線が変わっていた。“見ている”から”測る”へ。
強さの使い道を数える目だ。“この戦力をどう使えるか”という計算が、瞳の奥に見える。
◇
胸の奥に嫌な感覚が蘇る。
価値で扱いを決める視線。前世で何度も浴びたもの。勇者パーティにいた頃、後方支援の貴族たちが同じ目をしていた。“あの魔導士の火力はどの程度使えるか”。
アルドが短く呟く。「……やっぱり、面倒だな」
その言葉は自分に向けたものでもあり、王都に向けたものでもある。
宿へ戻る途中、セラはぽつりと言った。
「……あの目、嫌いです。強さじゃなく、使い道を見てる」
言ってから、自分でも驚いた。“嫌い”を口にしたのは、いつ以来だろう。ソロの時は嫌いも好きも言う相手がいなかった。
アルドはすぐに頷く。「俺も嫌いだ」
アネスは淡く笑って言う。
「嫌いって言えるのは大事。どこで削られてるか、分かるから」
レインは軽く肩を回す。
「削られる前に、こっちから動けばいい」
政治の影は見えにくい。
けれど四人で歩くと、見えにくさを分けて持てる。
セラは自分の嫌悪を言葉にできたことを、帰り道の石畳で静かに確かめた。
これは”強くなる話”じゃない。
“弱い部分を隠さずに動ける話”だ。




