表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
二度目の人生は勇者パーティに入りません 〜裏切られた最強魔導士、今度はSランク冒険者と魔王を先に倒します〜  作者: 月代
第三章「Sランクの旅」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

17/57

第十七話 野営の火と、言わない過去

加入して一週間。

 短期依頼を重ねるたび、セラは”自分の動きが四人の動きに変わる”感覚を覚えていった。


 ソロの時は、自分の判断が全てだった。失敗しても成功しても、結果は自分だけに返る。

 四人になると、判断の結果が波紋のように広がる。自分が左に動けば、レインの射線が変わり、アルドの踏み込みが調整され、アネスの立ち位置がずれる。一つの選択が四つの動きに影響する。

 怖い。でも、その怖さに慣れてきている自分がいる。


 ルドナへ戻る道中、アルドは戦闘の話より休憩の取り方を気にした。


「水、飲んだ? 喉乾く前に飲め」


 セラは頷きつつも、内心では落ち着かなかった。

 こういう気遣いは、前世では”役割を果たさせるため”にしか存在しなかったからだ。回復薬を渡されるのも、食事を取らされるのも、全て”次の戦闘で使うため”。消耗品の補充と同じだった。

 アルドの気遣いは違う。たぶん。でも、違いを信じるのにまだ体力がいる。


     ◇


 北の村へ薬品を運ぶ依頼は、戦闘がほぼない代わりに道が悪い。


 秋の長雨で地面がぬかるみ、車輪が轍に嵌まる。馬が嘶き、御者が手綱を引く音が何度も響いた。


 雨上がりの坂で車輪が沈んだとき、セラは土を締めて足場を作った。地面の水分を下の層に押し込み、表面だけを硬くする。派手な魔法ではないが、精度が要る。

 アルドと御者の押し上げに合わせ、タイミングを計って地盤を支えた。


 レインは枝を払って逃げ道を作り、万が一車が滑った時の退避路を確保する。アネスは荷の瓶を抱えた青年を落ち着かせ、「割れてない。大丈夫」と確認して見せた。


 派手な勝利はないのに、四人の手が自然に噛み合った。

 誰が指示したわけでもない。必要な場所に、必要な手が伸びる。この感覚は、前世のパーティにはなかった。あの頃は、全てが勇者の号令で動いていた。


     ◇


 村に着くと、街道の疲れが嘘のように空気が変わった。


 小さな家が十数軒、井戸を中心に並んでいる。畑は収穫を終えて茶色く、柵の中で痩せた山羊が鳴いていた。


 村の子どもが荷の木箱を覗き込み、「それ、熱の薬?」と小声で聞く。

 アネスが頷くと、子どもはほっと息を吐いた。口元が緩んで、目が少し潤む。


 その仕草だけで、依頼票の文字が”人の命”に変わる。


 セラは自分の指先についた泥を見下ろし、無言で拭った。世界を救わなくても、村一つの熱を下げることに意味がある。当たり前のことなのに、前世ではずっと見えなかった。


     ◇


 村の倉庫を借り、火を囲む夜。

 天井の梁に吊るされた干し草の匂い。壁の隙間から吹き込む風。火の粉が時々舞い上がり、闇の中で赤く消える。


 レインが笑いながら言う。


「セラ、最初より顔が柔らかくなったよね」


 セラは火の色に視線を逃がした。

 “柔らかい”と言われると、弱くなったようで落ち着かない。ソロの二年間、硬い顔をしていたのは自覚がある。柔らかくなったのだとしたら、それは警戒が緩んだということで――。


「無駄な力が減っただけ」


 そう返すと、アネスが湯の入った木杯を差し出す。


「冷えるから。喉、乾いてる」


 木杯の縁から湯気が立つ。受け取ると、掌に温度が染みた。

 その温かさに紛れて、セラは思わず零した。


「前は、礼を言うと借りになる気がしてた」


 言ってから、しまったと思う。こんなことを口にするつもりはなかった。火の温度と湯の温度が、口を緩めたのかもしれない。


 けれど三人は笑わない。


 アルドが薪をくべる手を止めずに言った。


「借りでもいい。返したくなった時に返せば」


 その返しが、妙に現実的で、セラは返事を失った。

 “借りなんかじゃない”と言われるより、“借りでもいい”の方がずっと楽だ。否定されると逃げ場がなくなるが、受け入れられると選べる。


 レインが火箸で薪をつつく。


「借りってさ、返すために作るんじゃなくて、繋がるためにできるんじゃない?」


 アネスが呆れた顔で小突く。「詩人みたいなこと言わない」


「いいこと言ったと思うんだけど」


「だから恥ずかしいの」


 二人のやり取りに、アルドが小さく笑った。火に照らされたその横顔は、城にいた人間のものではなく、野営に慣れた旅人のものだった。


     ◇


 夜半、見張りに出ると空が澄んでいた。


 星が多い。ルドナの街灯がない分、空の深さが違う。虫の声が遠くで鳴り、風が木の葉を揺らすたびに影が動く。


 セラは倉庫の壁にもたれ、村の灯りを見た。小さな窓から漏れる橙色。誰かの暮らしがそこにある。

 言わない過去はまだ多い。前世のこと。追放の本当の痛み。魔法を使うたびに蘇る記憶。全部を話す日が来るのかどうか、分からない。


 扉が軋み、アルドが出てきた。

 毛布を一枚、セラの肩にかける。触れるのは一瞬で、すぐ離れる。


「寒いだろ」


 それだけ。


 どうして起きたのかも聞かない。見張りの邪魔もしない。

 踏み込みすぎない距離が、逆に楽だった。言わないままでも、同じ夜を共有できる。


 毛布の温度が残るうちに、セラは息を吐いた。白い息が闇に溶ける。

 怖さが消えたわけじゃない。

 ただ、火がある場所を知った気がした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ