第十三話 Aランク目前
十六歳の冬、セラはBランクに上がっていた。
Cランク帯の護衛や混合案件を安定してこなし、秋の査定で昇格が通った。
派手な一撃ではなく、取りこぼしのなさで評価された形だ。
ルドナでもかなり名前が通るようになっていた。
「灰髪のソロ魔導士」
「仕事が堅い」
「変異種相手でも帰ってくる」
不本意な評判も混ざるが、否定はしない。
◇
この頃、セラはAランク査定を意識していた。
前世では十七歳の春、勇者パーティ加入の話が先に来た。
今世では入らない。
なら先にAランクまで上がるべきだ。
ランクは名誉ではない。
生存率だ。
受けられる依頼が増える。
情報が増える。
“使い捨てられる側”に置かれにくくなる。
◇
セラは意図的に依頼の種類を広げた。
遺跡外縁調査、夜間警戒付き護衛、混合案件、対人トラブル込みの搬送護衛。
どれも疲れる。
でも前世で苦手だったものほど、今やっておくべきだとわかっていた。
中でも堪えたのは、冬前に受けた山村への補給搬送だった。
荷車一台、村の使い二人、護衛はセラを含めて三人。
道の半分はぬかるみ、残り半分は細い山道で、魔物より足場の方が厄介な依頼だった。
セラは後衛のはずなのに、気づけば索敵、結界、火力、見張りの順番まで頭に入れていた。
帰路の山道で霧が出て、荷車の後輪に泥潜みの小型魔物が群がった。
「止めないで、ゆっくり進んで!」
「前衛は右側だけ見て、左は私がやる!」
セラは荷車の進路を塞がないように土を固め、車輪に噛みつく個体を風刃で切る。
数は多くない。
だが、誰か一人が慌てるだけで荷車は横転する。
前衛の一人が後ろを気にして振り返り、足を滑らせかけた。
「前見て! 荷車止めない!」
声を張った瞬間、喉がひりついた。
怒鳴りたいわけじゃない。
でも、言わないと崩れる。
どうにか村へ荷を届けた後、セラは石に座り込んだ。
魔力は残っている。
体力も動ける。
なのに、頭だけが重い。
一人で全体を見続ける疲れは、討伐の疲れとは別物だ。
◇
その夜、ギルドの片隅で報告書を書いていると、向かいに椅子が引かれた。
アルドだった。
「おつかれ。今日はいつもより疲れてる顔」
「……いつもです」
「いや、今日は本当に」
軽い口調なのに、観察が細かい。
「何の用ですか」
「勧誘」
「断ります」
「まだ何も言ってない」
アルドが笑う。
毎回このやり取りだ。
「搬送護衛だったんでしょ。守る物がある戦い、一人だときつくない?」
図星だった。
セラは無表情を保つ。
「やれる範囲でやってます」
「うん、やれてる」
「でも”やれてる”と”余裕がある”は違う」
その言葉が静かに刺さる。
「うちは前衛と遠距離と治療がいる」
「君が入れば、君も楽になるし、うちも助かる」
楽になる。
嫌な言い方なのに、間違っていない。
「……興味ありません」
結局そう返すしかなかった。
アルドは残念そうにせず、頷くだけだ。
「そっか。じゃあまた今度」
「また来るんですか」
「うん。君、しつこく言わないと絶対首振らないでしょ」
セラは思わず顔を上げる。
アルドは笑っていた。
この人はどうして、こうも自然に距離を詰めるんだろう。
警戒しているのに、毎回肩透かしを食らう。
去り際、アルドは少しだけ真面目な声で言った。
「十七歳、もうすぐだろ。昇格査定、受けるなら気をつけて」
「最近、街の外の空気がちょっと嫌な感じする」
セラの指先が止まる。
やっぱり、気づいている。
森の空気の重さ。縄張りの乱れ。
大量発生の前触れが、少しずつ濃くなっていた。
ここで崩れれば、積み上げたものが一度に歪む。
セラは次の査定に向けて、もう一段だけ精度を上げることにした。




