第十二話 断り続ける理由
Sランクパーティの勧誘は、一度で終わらなかった。
三日後、ギルドで会えばアルドが声をかけてくる。
別の日にはレインが依頼板の前で軽く誘ってくる。
アネスは治療室で顔を合わせれば自然に話しかけてくる。
断っても、態度は変わらない。
押しつけがましくない。
怒らない。
見下さない。
それが逆に、セラにはやりづらかった。
◇
ギルド裏の訓練場で、セラが障壁の張り替え訓練をしていた時。
「そこ、左下だけ厚くなる癖あるね」
振り向くと、レインが柵にもたれていた。
「……見てたんですか」
「ちょっとね。ごめん」
「でも悪い癖じゃない。対人だと便利」
図星だった。
前世で右利きの相手が多かったせいで、左下を厚くする癖がある。
「だから何ですか」
「別に。気づいてるならいい」
「うちだと攻撃角度が散るから、癖あると連携しにくいなって思っただけ」
また自然に勧誘の文脈へ持っていく。
セラは息を吐く。
「私は連携しません」
「知ってる」
レインは軽く答える。
「でも、連携って”信用”だけじゃなくて技術の噛み合わせでもある」
「そこは慣れでどうにかなる部分も大きいよ」
信用、という言葉に胸がざらつく。
「……簡単に言いますね」
「何が?」
「仲間とか、連携とか」
「そんなの、いつ壊れるかわからないのに」
言ってから、余計なことを言ったと思った。
レインはからかわなかった。
「そうだね。壊れる時は壊れる」
「でも、壊れるかもしれないから最初から持たないのも、もったいない」
「俺はそう思う」
押しつけない言い方だった。
ただ自分の考えを置いていくだけ。
レインは手を振って去り、セラはひとり障壁を張り直す。
指摘された癖が、余計に気になった。
◇
その夜、セラは夢を見た。
魔王の間。
割れる結界。
膝をつく自分。
振り返った仲間たちの顔。
「囮、ご苦労さま」
「最初からそのつもりだったし」
笑い声。
その輪郭がなぜか、アルドたちに重なった。
「やめて……!」
叫んで目を覚ます。
汗で寝具が湿っていた。
暗い部屋で、セラは肩で息をする。
違う。
アルドたちはまだ何もしていない。
裏切られたわけでもない。
それでも、心が勝手に警戒する。
似た構図を見るだけで、前世の傷が疼く。
「……だから、パーティは嫌なんだ」
ソロでいれば、誰にも怯えなくていい。
自分の判断だけで動ける。
そう言い聞かせるのに、レインの言葉が頭の隅に残っていた。
――もったいない。
そんな言葉、いらないはずなのに。
◇
断る理由は、相手が嫌いだからじゃない。
信じる前に、失う未来を先に思い出してしまうからだ。
それでもアルドたちは、断られるたびに同じ距離で引いていく。
追わないのに、離れもしない。
その在り方が、セラの中の警戒を少しずつ削っていた。




