第十話 十六歳、Cランクへの道
季節が巡り、セラは十六歳になった。
灰猫亭の二階の部屋。
朝はギルド、昼は依頼、夜は訓練。
週に一度、装備の手入れ。
月に一度、広域魔法の制御確認。
無駄のない日々だった。
前世では”生きるのに必死”だった時間が、今世では”積み上げるための時間”になっている。
それだけで、景色が少し違う。
◇
春、セラはCランクへ昇格した。
Dランク帯の依頼を安定してこなし、変異個体の討伐記録も評価された結果だ。
Cランクになると依頼の幅が広がる。
護衛、遺跡外縁調査、中型以上の複数討伐。
報酬も上がるが、求められる判断力も増える。
特にソロでは、依頼選びが命になる。
前世は報酬の数字だけ見て受け、移動距離や継戦時間で削られた。
今は依頼書の文面を読む。
被害の書き方。
地形情報の曖昧さ。
支部印の新しさ。
細かい違和感で危険な案件を避ける。
「セラちゃん、最近ほんと依頼選び上手いよね」
リナが感心したように言う。
「失敗したくないので」
「うん、その姿勢大事」
◇
この頃から、セラはソロの限界を少しずつ意識し始めた。
戦えないわけじゃない。
むしろ前世よりずっと強い。
でもCランク帯は”戦闘以外の負荷”が増える。
長距離移動、荷物管理、夜間見張り、対人トラブル、複数地点対応。
どれか一つならできる。
重なると、一人では削られる。
この日受けたのは、小規模商隊の護衛補助。
前衛一人、槍使い一人、セラが後衛火力兼警戒。
即席の三人組だ。
護衛依頼は連携が難しい。
固定パーティなら呼吸で埋まる部分を、言葉で埋める必要がある。
「私は索敵優先します」
「前から突っ込まれたら障壁出すので、詰めすぎないで」
出発前、セラは最低限の確認だけ伝えた。
前衛役の中年剣士は意外そうな顔をしたが頷く。
「了解。若いのに落ち着いてんな」
落ち着いているんじゃない。
言わないと事故ると知っているだけだ。
問題が起きたのは三日目、渓谷沿いの細道だった。
盗賊崩れが五人。弓が二、短剣が二、斧が一。
魔物ではない人間相手。
しかも地形を使ってくる。
討伐力だけではどうにもならない。
守りながら、加減しながら、崩さず戦う必要がある。
「前、出すぎないで!」
セラは障壁で馬車横を守り、岩陰の弓手へ風刃を飛ばす。
接近組の足元へ火球を落として視界を乱す。
槍使いが熱くなって追いかけかける。
「追わないで。馬車から離れない!」
口調が強くなる。
でも今は仕方ない。
誰かが全体を見ないと崩れる。
どうにか商隊を無事に届けた帰り道。
セラはひどく疲れていた。
体より、心が削れている。
――こういう時、信頼できる固定メンバーがいれば楽だ。
そう思った瞬間、前世の記憶が胸の奥で冷たく疼いた。
いらない。
自分がもっと強くなればいい。
その結論に落ち着けるのは、まだ楽だった。




