ep.96 年明けの朝、火の輪に風が走る
夜が明けた。
火の輪の空は、冬の青をまとっていた。
年越しの火はまだ赤く、静かに砂の上で呼吸している。
孝平は、火の前で伸びをした。
「……ああ、年が明けたんだな」
ミミルが、朝の風に髪を揺らしながら跳ねてくる。
「おはよ~! 新しい年だよ~!
火の輪の“はじめまして”がいっぱい来る年なの~!」
「はじめまして、ね。いい言葉だ」
孝平が笑うと、ミミルは胸を張った。
「うんうん~! 火の輪はね、
“はじめまして”が来るたびに強くなるの~!」
■ ソレイユ、火の前で立つ
ソレイユは、火の前に立っていた。
昨日より、少しだけ背筋が伸びている。
「……名前の種、あったかい」
胸に手を当て、そっとつぶやく。
ネーベルが隣に立つ。
「火は、名前を育てるんです。
あなたの名前は、きっと今年、芽を出しますよ」
ソレイユは小さくうなずいた。
「……楽しみ」
■ ルア、朝の記録を始める
ルアは、火の輪の空を見上げながら手帳を開いた。
「“年明けの風、火の輪を一巡する”……
ふむ。これは記録に残す価値がある」
モントが横から覗き込む。
「風の流れ、昨日と違いますね。
火の輪の中心に……集まっている」
「火が、呼んでいるのだろう」
ルアは淡々と言うが、目はどこか楽しげだった。
■ トモエ、朝の鍋を仕込む
トモエは、朝から鍋を火にかけていた。
「年明けの朝は、腹に優しいもんがいいんだよ」
ミミルが鍋を覗き込む。
「おいしそ~! これなに~?」
「“火の輪雑煮”さ。
餅はないけど、火の味はしっかりあるよ」
「火の味~! すき~!」
■ ヒメル、荷袋を締め直す
ヒメルは、荷袋の紐をぎゅっと締めた。
「さて。今年はどんな“交換”があるかしらね」
孝平が声をかける。
「また旅に出るの?」
「出ないわよ。
火の輪で商売するの。
ここ、いい場所だもの」
ヒメルはにやりと笑った。
■ レーゲン、剣を磨かない朝
レーゲンは、剣を横に置いたまま、火を見ていた。
「……剣を磨かない朝があるとはな」
ガルドが隣に座る。
「火の輪では、剣より火のほうが強い」
「……そうだな。
今年は、剣を置く練習をしてみるか」
ガルドは静かに笑った。
■ 双子、朝の音を拾う
ルナとルカは、海辺で耳を澄ませていた。
「ねえ、ルカ。
朝の音、今日は“銀色”だよ」
「うん、ルナ。
新しい音が混ざってる」
孝平が近づく。
「新しい音?」
「うん~!
“誰かが来る音”!」
双子は同時に言った。
孝平は、海の向こうを見た。
風が走った。
波がひとつ、跳ねた。
――火の輪に、新しい風が向かっていた。
今回は、年明けの朝の火の輪を描きました。
ソレイユは名前の種を温め
ルアとモントは風の変化を記録し
トモエは火の輪雑煮を作り
ヒメルは商売の準備をし
レーゲンは剣を置く練習を始め
双子は“新しい音”を聞き取った
そして最後に、火の輪へ向かう“新しい風”の気配。
次回、ep.97では、
その“新しい風”が誰なのか――
火の輪にまたひとつ、物語が流れ着きます。
それじゃ、また火のそばで。




