ep.94 火を囲む輪が、ひとつになる
夜の気配が、火の輪にゆっくりと降りてきた。
焚き火の赤い光が、砂の上に揺れている。
ミミルが、薪を抱えながら走ってきた。
「みんな~! 火が大きくなるよ~!」
孝平が火を見つめる。
「……これが、年越しの火の“形”なんだね」
「うんうん~。
火の輪の年越しはね、
“みんなで火を大きくする”の~」
■ ヒメル、荷袋を開く
ヒメルは荷袋を抱えたまま、焚き火の前に座った。
「……こういう時にね、
旅商人は“交換の品”を出すのよ」
彼女は袋から、色とりどりの布切れを取り出した。
「これは、旅の途中で出会った人たちからもらった布。
火のそばに置くと、願いが染み込むの」
ミミルが目を輝かせる。
「きれい~!」
ヒメルは布を火の近くにそっと置いた。
「今年の“ありがとう”を、ここに置いていくわ」
■ モント、風の流れを整える
モントは風鈴の下で、静かに風を読んでいた。
「……風が、火に寄り添っている。
この島の風は……火を祝っているのですね」
波留がうなずく。
「年越しの夜は、風が火を守るんだよ」
モントは、風鈴にそっと触れた。
ちりん。
「……この音は、火の呼吸と同じです。
不思議……でも、美しい」
■ トモエ、鍋を仕上げる
トモエは鍋をかき混ぜながら、満足げにうなずいた。
「よし。
これが“火の輪の年越し鍋”だよ」
孝平が覗き込む。
「香りが……すごく優しい」
「火の味さ。
焚き火で煮るとね、
素材の“今年”が全部出るんだよ」
ミミルがよだれを垂らしそうになっている。
■ 双子、音の色を集める
ルナとルカは、火の周りをくるくる歩きながら言った。
「ねえ、ルカ。
火の音、今日だけ“金色”だよ」
「うん、ルナ。
“お祝いの色”が混ざってる」
孝平が笑う。
「金色の音って、どんな音?」
「ひみつ~」
「ひみつ~」
二人は同時に笑った。
■ レーゲン、剣を置いたまま座る
レーゲンは剣を遠くに置き、火のそばに腰を下ろした。
「……剣がなくても、落ち着く夜があるとはな」
ガルドがうなずく。
「ここでは、剣より火のほうが強い」
レーゲンは火を見つめ、静かに息を吐いた。
「……悪くない」
■ ネーベル、火の物語を聞く
ネーベルは、焚き火の前で目を閉じていた。
「……火が語っています。
“今年を燃やして、次の音を迎えよう”と」
ソレイユが隣に座る。
「……火は、そう言ってるの?」
「ええ。
火はね、言葉ではなく“揺れ”で語るんです」
ソレイユは胸に手を当てた。
「……わたしの“名前の種”も……
この火で温まるかな」
ネーベルは微笑んだ。
「きっと、いい音になりますよ」
風が吹いた。
風鈴が、ちりん、と鳴る。
焚き火の周りに、
新旧の暮らし手たちが自然に集まっていく。
火の輪の夜に、
ひとつの輪が、静かに形を成し始めた。
今回は、年越しの火の準備が“ひとつの輪”になる回でした。
ヒメルは“ありがとうの布”を置き
モントは風の流れを整え
トモエは火の味を仕上げ
双子は音の色を集め
レーゲンは剣を置き
ネーベルは火の物語を聞く
そしてソレイユの“名前の種”も、
この火の前で静かに温まり始めています。
次回はいよいよ 年越しの火が灯る夜。
火の輪の一年が、静かに、あたたかく締めくくられます。
それじゃ、また火のそばで。




