ep.92 風鈴の道を歩く者たち
午後の火の輪は、やわらかな光に包まれていた。
ヒメルたち新来訪者の世話をしていると、
ミミルがふいに耳をぴくりと動かした。
「……また来たよ~。今度は三人~」
波留が海の方を見る。
「今日は本当に賑やかだな」
「ううん~、賑やかじゃないの~。
“静かに来てる”って感じ~」
孝平も浜辺に出て、ゆっくりと近づいてくる影を見つめた。
■ ひとり目:双子の少女、ルナ&ルカ
最初に現れたのは、同じ顔をした二人の少女だった。
手をつなぎ、風鈴の音に合わせて歩いてくる。
「……ねえ、ルカ。
この音、わたしたちを呼んでるよ」
「うん、ルナ。
“こっちだよ”って言ってる」
二人は同時に微笑んだ。
孝平が声をかける。
「火の輪へようこそ。迷わなかった?」
「迷わないよ」
「だって、音が道になってたから」
二人は風鈴を見上げ、うっとりと目を細めた。
「この音、色がついてる……」
「うん……青い風の色……」
ミミルは目を丸くした。
「色が見えるの~? すごい~!」
■ 二人目:元兵士・レーゲン
次に現れたのは、背の高い男だった。
鎧は外しているが、歩き方に“戦場の癖”が残っている。
「……ここは、戦の匂いがしないな」
波留がうなずく。
「しないよ。火の輪は“暮らしの島”だから」
レーゲンはしばらく沈黙し、
やがて剣の柄からそっと手を離した。
「……なら、少しだけ休ませてもらおう。
戦い続けるのにも……疲れた」
その声は、どこかほっとしていた。
■ 三人目:語り部・ネーベル
最後に現れたのは、細い杖をついた青年だった。
目はやさしく、どこか遠くを見ている。
「……この島の音は、静かで深い。
まるで“物語の始まり”のようだ」
孝平が微笑む。
「語り部さん?」
「ええ。ネーベルと申します。
風の音、火の揺れ、人の息……
それらが重なる場所を探していました」
ネーベルは風鈴の下で立ち止まり、
そっと手を伸ばした。
「……ここは、いい音がします」
三人が焚き火のそばに座ると、
風が吹いた。
ちりん。
風鈴が、やわらかく鳴る。
ルナとルカは笑い、
レーゲンは肩の力を抜き、
ネーベルは静かに目を閉じた。
孝平は火を少し強めながら言った。
「火の輪へようこそ。
ここでは、まず“休む”ことから始まるんだ」
火の輪に、
新しい三つの音が加わった。
今回は、火の輪にさらに三人の来訪者が現れる回でした。
ルナ&ルカ(双子)
レーゲン(元兵士)
ネーベル(語り部)
彼らは、火の輪の“音”や“静けさ”に敏感な人たち。
だからこそ、風鈴の音に導かれるように島へたどり着きました。
火の輪は、
戦いの島でも、
祈りの島でもなく、
“暮らしの音が響く島”。
新しい三人が加わることで、
火の輪の音はさらに豊かになり、
年越しに向けて“輪”が大きく広がっていきます。
次回は、火の輪の年越し準備が始まる回。
焚き火の音が、少しずつ“特別な夜”の気配を帯びていきます。
それじゃ、また火のそばで。




