ep.84 ミニョン、朝の風に触れる
朝の空気は、ひやりと冷たかった。
火の輪の夜明けは静かで、どこか澄んでいる。
「……さむっ。なんでこんな場所に来ちゃったのよ……」
ミニョンが布にくるまったまま、ぶつぶつ文句を言いながら起き上がった。
髪は寝癖でふわりと跳ね、顔には“寝起きの不機嫌”がそのまま残っている。
「おはよ~、ミニョンちゃん。朝の風、気持ちいいよ~」
ミミルが、しっぽを揺らしながら笑った。
「気持ちよくないわよ。寒いし、髪は乱れるし、最悪よ……
ていうか、なんで私がこんなところで寝てるのよ……」
そう言いながらも、ミニョンは布を肩にかけて外に出た。
風鈴が、ちりん、と鳴る。
「……」
ミニョンの足が、ほんの少しだけ止まった。
「ね? 朝の風って、“おはよう”って言ってるみたいでしょ~」
「そんなわけ……ないでしょ。風がしゃべるわけ……」
否定しようとした瞬間、また風が吹いた。
風鈴が、やわらかく揺れる。
ちりん。
ミニョンは、ほんの一瞬だけ目を細めた。
「……まあ、ちょっとだけ……悪くはない、かも」
「でしょ~!」
ミミルが嬉しそうに跳ねる。
そこへ孝平が、湯気の立つ木皿を持って近づいてきた。
「ミニョン、朝食の準備を手伝ってみる?
手が汚れない作業もあるよ」
「……手が汚れないなら、考えてあげてもいいわ。
でも、寒いのはイヤだから、火の近くでやらせてよね。
あと、変な匂いがつくのもイヤだから、そこもちゃんと考えてよ?」
「もちろん」
孝平は笑ってうなずく。
ミニョンは布をぎゅっと握りしめ、
風鈴の音に背中を押されるように、火のそばへ歩き出した。
「……ほんと、なんで私がこんなこと……
でも……まあ……ちょっとだけなら、やってあげてもいいわよ」
火の輪の朝に、
ひとつの“わがままな暮らしの芽”が動き出した。
今回は、ミニョンが“火の輪の朝”に触れる回でした。
文句を言いながらも、
風鈴の音に足を止めてしまう。
寒いと不満を漏らしながらも、
火のそばへ歩いていく。
そんな“素直になれない揺れ”こそ、
ミニョンの魅力であり、
火の輪が少しずつ彼女の心をほどいていく証でもあります。
わがままに見えて、実はとても繊細で、
でもその繊細さを見せるのが苦手な子。
火の輪の暮らしは、
そんな彼女にも“居場所”をそっと差し出していきます。
次回は、ガルドが“力の使い方”を変えていく回。
剣ではなく、薪を割る朝。
火の輪の静けさが、彼の心にも小さな変化をもたらします。
それじゃ、また火のそばで。




