表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
クラフトアルケミストの異世界素材録~素材と精霊と、世界をつなぐ暮らし~  作者: 島田一平(ねこちぁん)
水の章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

83/625

ep.81 姫と令嬢、パンを焼く

朝、ミミルがぱたぱたと走ってきた。


「ねえねえ~、今日は“パン”焼こうよ~♪」


「パン?」

孝平が顔を上げると、ミミルはしっぽで◎を描くようにくるりと回った。


「うんっ。せっかく小麦粉あるし、

 火の輪の“おもてなし”ってことで~」


「……わたしが、焼くの?」

ミニョンが眉をひそめた。


「わたし、料理なんてしたことないのよ?

 火の前に立つのも、粉を触るのも……」


「うんうん~、だからこそ、やってみよ~♪」

ミミルが手を引く。


「ソレイユちゃんも、一緒に~」


「……うん。やってみたい」

ソレイユは、小さくうなずいた。


粉をこねる手は、最初はぎこちなかった。

ミニョンは「手が汚れる」と顔をしかめ、

ソレイユは「これで合ってるのかな」と不安げだった。


けれど、ミミルが笑いながら言った。


「粉ってね~、“さわってくれてありがとう”って言うの~」


「……そんなわけないでしょ」

ミニョンが笑いながらも、手を止めなかった。


生地がまとまり、発酵を待つあいだ、

ソレイユがぽつりとつぶやいた。


「……パンって、ふしぎ。

 粉と水と火だけなのに、あったかい匂いがする」


「それが“暮らし”ってやつだよ」

孝平が、窯の火を見ながら言った。


「何もないようで、ちゃんとある。

 火と粉と、手のぬくもり。……それで、十分なんだ」


焼き上がったパンは、少し形がいびつだった。

でも、香ばしい匂いが、火の輪の空気に広がっていく。


「……なんか、うまくいった気がする」

ミニョンが、照れくさそうに笑った。


「うん。すごく、いい匂い」

ソレイユも、そっとパンに手を伸ばす。


その日、火の輪の食卓には、

ふたりの“はじめて”が並んだ。


火の前で、肩書きも立場も忘れて、

ただ“焼きたてのパン”を囲む時間。


それは、火の輪がくれた、最初の贈りものだった。

今回は、ミニョンとソレイユが“火の輪の台所”に立つ回でした。


火の前に立つこと。

粉に触れること。

誰かと一緒に、何かを作ること。


それは、彼女たちにとって初めての体験であり、

同時に“暮らしの輪”に加わる第一歩でもありました。


火の輪の暮らしは、特別なことを求めない。

けれど、そこにある“あたたかさ”が、

少しずつ心をほどいていくのです。


次回は、ルアと孝平が“記憶”と“記録”をめぐって語り合う回。

記憶貝と記録帳――ふたつの“残す力”が交差します。


それじゃ、また火のそばで。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ