ep.78 火の輪の掟
朝の光が、焚き火の灰を淡く照らしていた。
七人の来訪者たちは、まだ疲れの色を残しながらも、
それぞれの寝床から身を起こしていた。
「……朝食、できてるよ~」
ミミルが、湯気の立つスープを並べながら声をかける。
「塩と魚と、ちょっとだけ野菜~。でも、あったかいの~」
「……いただきます」
最初に手を合わせたのは、エトワールだった。
その動きに、他の者たちも、少しずつ手を動かす。
「……いただきます」
食後、孝平は焚き火の前に立った。
その背後には、波留とミミルが静かに並んでいる。
「ここは火の輪。
漂着した人も、通りすがりの人も、
みんな“暮らし手”として迎える場所だ」
「……暮らし手?」
ルアが首をかしげる。
「肩書きや出自は、ここでは一度、火に預けてもらう。
騎士も姫も、癒し手も、まずは“暮らす人”として、火のそばにいてほしい」
「それは……身分を捨てろということですか?」
ルージュが眉をひそめる。
「捨てるんじゃない。ただ、火の前では、みんな等しく“生きてる”。
それを大事にしてるだけだよ」
「……面白い考え方ですね」
ルアが、手帳にさらさらと何かを書きつける。
「記録官としては、非常に興味深い。
“火の輪の掟”……なるほど、これは一種の共同体規範だ」
「規範っていうより、“約束”かな」
孝平が笑う。
「誰かを縛るためじゃなくて、
誰かを迎えるための、火の約束」
「……わたし、やってみる」
ソレイユが、ぽつりとつぶやいた。
「火の輪の暮らし。……少しだけ、やってみたい」
「姫様……」
ガルドが戸惑いの声を漏らすが、ソレイユは小さくうなずいた。
「だって、ここ……あったかいもの」
その言葉に、風鈴がふわりと鳴った。
潮の香りとともに、静かな音が火の輪を包み込む。
波留が、火を見つめながらつぶやいた。
「……この島は、そういう場所なんだろうな。
“誰かが帰ってこれる場所”ってやつだ」
今回は、“火の輪の掟”が語られる回でした。
肩書きや身分を脱ぎ捨て、
ただの“暮らし手”として火の前に座る。
それは、火の輪の根っこにある価値観であり、
この町が“迎える場所”であるための約束でもあります。
ソレイユの小さな一言が、
この一行の未来をそっと変えていく予感。
次回は、エトワールと孝平が“癒し”と“クラフト”を通じて、
精霊の気配に触れる回です。
それじゃ、また火のそばで。




